見出し画像

「つながり」を読み解く英文読解(19)~情報構造⑤:情報運搬構文(1)~

【1】これまで学んだ概念の整理

▼これまで説明してきたように,英語の情報の流れは,通例,〈旧情報⇒新情報〉という順番に提示されることが多く,また,原則として新情報に焦点(重点情報)が置かれるため,センテンスの後半に焦点(重点情報)が来る傾向があります。この傾向を「文末焦点(end-focus)」と呼びます。

(1)焦点とは,発話において最も強く発音される要素である。
(2)焦点とは,発話内で最も重要な情報を担う要素である
(田子内健介・足立公也『右方移動と焦点化』,研究社,2005年,p.1)

▼これに対し,英語には「重い(長い)要素」をセンテンスの後半に移動する傾向があります。この傾向を「文末重心(end-weight)」と呼びます。

英語における末尾位重点の原則に関連して,節の述部は主語より長く,あるいは主語よりも文法的にもっと複雑であるべきだという感覚がある。
(ジェフリー・リーチ & ヤン・スヴァルトヴィック,池上惠子訳『現代英語文法 コミュニケーション編 新版』,紀伊國屋書店,p.316)

▼なお,文末焦点と文末重心は必ずしも一致するわけではありません(つまり,文末重心だからといってそこが新情報や焦点の置かれた情報だとは限らないということになります)が,新情報には説明が付け足されることも多いため,必然的に長く(情報量が多く)なることが多く,その場合,文末焦点と文末重心が同時に作用していることになります。

▼また,センテンスの前半(原則として主節の述語動詞の前まで)を主題(シーム),それ以降を題述(リーム,コメント)と呼ぶことについても学びました。となると,以下のように対応することが多くなるわけです。

 主題[T]:旧情報 ⇒ 題述[R]:新情報/焦点(F)

ex) Have you seen Bill? He [T] / owes me five dollars [R]=(F).
(ジェフリー・リーチ & ヤン・スヴァルトヴィック,池上惠子訳『現代英語文法 コミュニケーション編 新版』,紀伊國屋書店,p.300)

▼ただし,必ずしも題述のところに焦点があるとは限りません。文末焦点はあくまでも一つの「傾向」に過ぎない,と理解してください。

しかし,ときには主題と情報焦点が一致することもあり,この場合は主題が特に目立つことになる。
 Who gave you that magazine?
 Olga [T]=(Focus) / gave it to me [R].
(ジェフリー・リーチ & ヤン・スヴァルトヴィック,池上惠子訳『現代英語文法 コミュニケーション編 新版』,紀伊國屋書店,p.300)

【2】情報運搬構文(Information packaging)の概略

▼ところで,旧情報に焦点を当てたい場合や,通常の語順では〈旧情報⇒新情報〉の順番にならないために語順を入れ替えて〈旧情報⇒新情報〉としたい場合,あるいは特定の要素を本来の位置から移動して語順を入れ替えることで情報の焦点の置き方を変えたい場合などがあります。そのようなときに用いられるのが,「情報運搬構文(Information packaging)」です。

※「情報運搬構文」という訳語は,上山恭男『機能・視点から考える英語のからくり』(開拓社,2016)に従いました。「情報包装」と訳すこともあります(cf.) 秋元実治『Sherlock Holmesの英語』,開拓社,2017)。

▼情報運搬構文の主なものは以下の通りです(以下の[1]~[9]の分類は Huddleston, Rodney & Pullum, Geoffrey K, "The Cambridge Grammar of the English Language, 2002 に準拠)。

[1] 前置(preposing):OSV(「左方移動」とも呼ぶ)
[2] 後置(postposing):SV<M>O(「右方移動」とも呼ぶ)
[3] 倒置(inversion):MVS / CVS
[4] 存在構文(existential):there VS / here VS
[5] 外置(extraposition):it-that clause
[6] 左方転移(left dislocation)
[7] 右方転移(right dislocation)
[8] 分裂文(cleft)
[9] 受動態(passive)

▼このうち,[6]・[7]が大学入試で問われることはあまりありませんが,それ以外のものは下線部和訳などで頻繁に問われており,着眼点として知っておくべきことだと言えます。

▼今日はこのうち,〈[1] 前置〉と〈[2] 後置〉についてまとめます。

【3】前置(preposing):OSV

▼O(目的語)をS(主語)の前に移動させて主題化したかたちです。「左方移動」とも言います。この時,SVの語順は通例,そのままです(VSの倒置にはなりません)。

▼前置による主題化の働きについて,Geoffrey Leech & Jan Svartvik, A Communicative Grammar of English(=ジェフリー・リーチ & ヤン・スヴァルトヴィック,池上惠子訳『現代英語文法 コミュニケーション編 新版』,紀伊國屋書店) では,(1) 既知の主題,(2) 強調的主題,(3) 対照的焦点の3種類を挙げています。以下,その分類に従って例文を確認しましょう。

(1) 既知の主題:既に話題となっている旧情報を主語の前に移動して主題化する

(a) This one she accepted.
(b) She accepted this one.
(Huddleston, Rodney & Pullum, Geoffrey K, "The Cambridge Grammar of the English Language, 2002)

⇒(a)は,(b) の O(目的語)である this one をSVの前に移動したもので,この場合,This one が主題で旧情報,she accepted が題述で焦点(重点情報)となります。なお,(a)が有標,(b)が無標です。

(2) 強調的主題:問いに対する答えなど,新情報を強調するために移動して主題化する

Q: What did Sam give to Helen?
A: A BOOK he gave to her.
(中村捷『実例解説 英文法』(開拓社),p.370)

⇒A BOOKは What did Sam give to Helen? に対する応答で,本来は gave の目的語である新情報ですが,ここでは文頭に出されて主題化されています。また,主題の位置に焦点が来ていることにも注意しましょう。

「〈形式ばらない〉会話では,話し手がある要素(特に補語)を前に移し,それに核強勢を与え,そうすることでそれに二重の強調を与えることが非常によくある。」
Very strange (C)=[T]/ his eyes looked (SV)=[R].
An utter fool (C)=[T]/ I felt too (SV)=[R].
Relaxation (C)=[T]/ you call it (SVO)=[R].
Excellent food (O)=[T]/ they serve here (SVA)=[R].
(ジェフリー・リーチ & ヤン・スヴァルトヴィック,池上惠子訳『現代英語文法 コミュニケーション編 新版』,紀伊國屋書店,p.300)

⇒会話では,O だけでなく C(補語)もこのように主題化され,同時に焦点となることがあります。

(3) 対照的焦点

▼O や C などを主題化することで,前後で対比されている内容を明確にする働きです。これも主題の位置に焦点が来ています。

「この場合は,前に出すことによって,しばしば近接していて平行する構造の文あるいは節で言われている二つのことの対比を,鮮やかに示す助けとなる」
Some things (O)=[T]/ we'll tell you but some (O)=[T] / you'll have to find out about yourself.
Rich I may be but that doesn't mean I'm happy.
(ジェフリー・リーチ & ヤン・スヴァルトヴィック,池上惠子訳『現代英語文法 コミュニケーション編 新版』,紀伊國屋書店,p.301)

【4】後置(postposing):SV<M>O

▼SVOM という文の中で O(目的語)を M(修飾語句) の右側に移動させることです。右方移動とも呼ばれます。まず,例文で確認しましょう。

(a) I made without delay all the changes you wanted.
(b) I made all the changes you wanted without delay.
(Huddleston, Rodney & Pullum, Geoffrey K, "The Cambridge Grammar of the English Language, 2002)

⇒ (b) の O である all the changes you wanted を without delay の後に移動することで,焦点(重点情報)であることがより明確になっています(文末焦点)。また,without delay が wanted ではなく made all the changes にかかっていることもこれでよりはっきりするはずです。なお,この場合,文末重心の原理も働いていると考えられます。

▼後置(右方移動)の概略については,以下の文章が参考になります。

 目的語が元来の位置から右側へ移動している重名詞句転移(Heavy NP Shift),名詞句の一部が右方移動している名詞句からの外置(Extraposition from NP),主語が文末に現れている場所句倒置(Locative Inversion)や提示的there構文(presentational there construction)(中略)これらの構文では共通してある要素が右方へ移動しており,右方移動構文としてまとめられる。
 右方移動構文は,要素が移動している点では左方移動と同じであるが,左方移動構文には見られぬ特定の文体的効果が観察される。それゆえに右方移動を行う操作を文体規則(stylistic rules)と呼んで,左方移動と区別することがある。
 右方移動構文に共通した(文体的)効果の1つとして,焦点化(focusing)という効果をあげることができる。文末に右方移動された要素が,焦点の対象となるという効果である。焦点要素が構文によって示されるという点では,右方移動構文は,分裂文(cleft sentence)や擬似分裂文(pseudo-cleft sentence)などと類似している。特に擬似分裂文では,焦点化される要素が文の右端に現れており,この点でも右方移動構文と同じである。ある要素の焦点化は,こうした構文によってばかりではなく,焦点化副詞によっても表すことができる。したがって右方移動構文は,分裂文や擬似分裂文,さらに焦点化副詞などといっしょに,焦点化という広い文脈の中で考察するのが適切である。
(田子内健介・足立公也『右方移動と焦点化』,研究社,2005年,p.iii)

▼大学入試の下線部和訳問題では,この後置(右方移動)が出題されることがよくあります。他動詞があるのに目的語がない,と気づいたら,それが後に移動しているのではないか,と考えて文の構造を読み解くようにしてください。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?