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「笑うセンター英語」

▼センター試験(筆記)では,1997年度より第5問でイラストを用いた問題が出題されていました。

▼受験生は試験中,真剣に解答していますが,冷静に読み直してみると「いや,これはおかしいだろ」と吹き出してしまう設定や,「そんなやついねぇよ!」とばかばかしく思える内容など,どう考えても「ネタ」としか思えないものが散見されています。ここでそのいくつかを紹介しましょう。

【1】伝説の「クソゲー」

▼中でも有名なのは,この2000年度本試験の「クソゲー」でしょう。

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▼Emiが友人のPatからコンピュータゲームを借りて,いざプレイし始めるのですがなかなかうまくいきません。そこで,Patがクリアするための助言をする,という会話なのですが,このスーパーマリオと猿蟹合戦を合わせたような画面で…

「キノコを踏んではいけない」
「どんぐりにあたると死ぬ」
「どんぐりがキノコに落ちると数秒だけ木の前を通過できる」
「リスやスズメバチに触れたらゲーム終了」
「家はワナではしごを途中まで登ったらペンキの缶をつかめ」
「ビンを動かしたら窓が頭上に落ちてくる」
「ペンキの刷毛を取って,来た道を戻りキノコと蜂の巣の間でひざまずく」
「木の幹に刷毛で触れると扉が現れる(つまり,木の幹に扉を描く)」

…という謎ルールのアドバイスが連続してなされます。どう考えても自力でクリアは無理ゲー。そもそも一体何を目指すゲームなのかも謎のクソゲー

▼以上のルールを英語で読んで,このように通るべき道を選ばせる問題が出されました。

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▼当時,このあまりのクソゲーっぷりが話題になり,Flashで作成してネットで公開していた人もいたほどです。

【2】登場人物は「うっかり八兵衛」の末裔か?

▼この第5問は2007年度までは会話長文だったのですが,かなり「粗忽」な人物が登場することがたびたびありました。ただ,おそらくこれは長い会話という設定の性質上,「勘違い」や「言い間違い」を後から修正するようなやり取りにする,という意図があったためではないか,と思うのですが。

▼たとえば2002年度の追試験では警察官とMr. Taniの会話で,警察官がMr. Taniにある女性の特徴について尋ねている場面でした。Mr. Taniは最初,その女性の外見について次のように説明します。

She was wearing white trousers, I think, and a blue T-shirt with writing on the front. I didn't see what it said, though.
(彼女は白いズボンをはいていて,正面に何か文字が書いてあるブルーのTシャツを着ていたと思います。でも,何と書いてあったのかわかりませんでした。)

しかし,この後に彼は証言をこう訂正します。

Oh, did I say white trousers? Actually, she was wearing blue trousers, and her T-Shirt was white, with blue writing on it.
(あ,私,白いズボンって言いました?実は,彼女が履いていたのはブルーのズボンで,Tシャツは白で,青い文字がついていました。)

▼いくら何でもその間違いはしないだろう,と思うのですが…。この後,Mr. Taniは警察官と次のようなやり取りをします。

Mr. Tani: She often comes home very late at night.
(彼女は家にとても遅く帰ることがよくあります。)
Police Officer: How can you possibly know that?
(どうしてそんなことを知ってるんですか?)
Mr. Tani: Because she lives across the street from me.
(彼女はうちから道路を隔てたところに住んでいるからです。)
Police Officer: Why on earth didn't you say so before?
(なぜ前にそう言ってくれなかったんですか?)
Mr. Tani: Well, you never asked!
(だって尋ねなかったじゃないですか!)

▼まあ,尋ねてないのだから言わなかったのは仕方がないとは思いますが,どこか間の抜けたやり取りですね。しかしこのMr. Tani,実は非常に不思議な発言もしているのです。もともと,Mr. Taniがスーパーマーケットから出てきたときにこの女性を見かけたというところから始まるのですが,その後,この女性のたどった道を説明します。要約すると次のようになります。

「スーパーから走って出てきた女性は,その後,郵便局の方向に向かったけれど,書店の前で立ち止まり,道を横切った。川の土手沿いに行くかと思ったけれど,こちらに引き返してきた。その後,公園に入った。数秒後,公園の横の出入り口から出てきて,信号のある角にある銀行を走って通り過ぎた。彼女は一瞬,バス停の近くで迷っていたが,バスが来た。それが彼女を見た最後だった。」

▼受験生はこれを読んで,この女性がたどった道を次の絵から選ぶわけです。

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▼しかし,よく考えてみてください。Mr. Taniは,この女性がこのような不思議な動きをしている間中,ずっと見ていた,ということになります。彼はどれだけヒマ人なのでしょうか…。あるいはストーカー…?(;´・ω・) そして,これだけ長時間見続けていたにもかかわらず,服の色を上下で間違えたのです。粗忽にもほどがある…。

【3】ブッシュ元大統領がモデルか?

▼また,2006年度の本試験では次のようなやり取りがありました。大学の友人同士がショッピングモールで会話を交わしているという設定で,Owenはこの後アルバイト先に向かうため,買った荷物を車に積まなくてはなりません。この日は自分の車ではなく,姉の車を借りて運転してきました。そこでYukiがどんな種類の車なのかを質問します。

Yuki: What kind of car does she have?
(お姉さんはどんな種類の車を持ってるの?)
Owen: It's, it's uh ...
(それは,それは,えっと…)
Yuki: Don't you remember?
(覚えてないの?)
Owen: Well, it's white.  Oh, and it has four wheels!
(ああ,白いよ。そうそう,タイヤが4つついてるんだ!)

▼思わず「( ゚д゚)ポカーン」としてしまうやりとりですが,これを読んでふと,アメリカ合衆国第43代大統領・George W. Bushの発言を思い出しました。

"It is white." - after being asked by a child in Britain what the White House was like, July 19, 2001
(イギリスで子どもにホワイトハウスはどんなところか尋ねられて―「白いよ」)

▼きっと,Owenのモデルはブッシュ大統領だったのでしょう(違。

【4】個性的なファッション

▼第5問には,斬新なファッションセンスを持つ人物も現れました。これは先ほど,2002年度の追試験で警察官がMr. Taniに尋ねていた女性です。

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▼個人的には「鮨」Tシャツのような文字が書かれたTシャツは大好きで,私自身もこうしたTシャツをよく着ていますが,きっと受験生はこのイラストを見た瞬間に吹き出したのではないでしょうか。

▼個性的なファッションと言えば,2007年度本試験に登場した女性も大胆なデザインのパンツスタイルでした。

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▼私自身も全面に刺繍が施されたジーンズが大好きでよくはいているので,個人的にこうした派手なパンツは好きですが,ちょっとデフォルメされすぎているかな,という気もします。

【5】家庭崩壊の危機

▼1997年度から始まった〈会話長文+イラスト〉の問題は2007年度に幕を閉じ,2008年度と2009年度は会話ではなく,イラストを用いた3種類の問題(うち1問は4コマ漫画)が出題されました。ただ,おそらくこの形式だと,情報量が多いわりに問題数が少なく,配点に苦労するためか,2年で姿を消し,2010年度からは〈1つの状況を2人の人物が描写する英文+イラスト〉という問題になりました。

▼この問題もいろいろと「ネタ」には事欠かないのですが,私のお気に入りは2011年度本試験の"A Family Trip to the City"と題した文章です。

▼父親,母親,娘,息子の4人家族が町のデパートに電車で買い物に行く,という話で,まずは父親による描写,次に娘による描写となっていました。

▼父親の描写からは特に問題は感じられません。今日は車を運転しなくて済むから楽だな,とか,妻の目的である子どもたちの冬服の買い物ができて良かったな,とか,息子はイベントで好きな野球選手に会えた,とか,娘は新しいブーツを買ってもらって喜んでいた,といったほのぼのした一家の風景が描かれていました。

▼問題は,その後に続く娘による描写です。

I just don't like going with Mom and Dad. I especially hate going with my little brother."
(私,ママとパパと一緒に出かけるのが好きじゃないの。特に,弟と出かけるのは大っ嫌い。)

…と冒頭からただならぬ不穏な雰囲気が漂います。そして,父親,弟,母親のそれぞれをディスり始めます。

"Dad was happy because he was able to read his newspaper. But it was so embarrassing when he turned the pages.  He made so much noise that people turned and looked at us."
(パパは新聞が読めるから幸せだったわ。でも,ページをめくる時がとても困ったわ。パパはとても大きな音を立てるから,人々が振り返って私たちを見たの。)

▼ただ,これは実際に試してみるとわかりますが,周囲が注目するほど大きな音を立てて新聞のページをめくるというのは,並大抵のことではありません。ということは,父親のめくり方にはかなりの問題がある,ということなのでしょう。

"All he ever thinks about is baseball ... and hamburgers!"
(弟の頭の中には野球と…ハンバーガーしかないのよ!)

▼弟についてはこのように断言しています。

"She gets really tense and stressed out about getting clothes for us."
(ママは私たちに服を買うことについて本当に神経が張り詰めてストレス疲れするの。)
"This is one of the biggest things she has to do each year and now she is finished with it."
(これ[=子どもの冬服を買うこと]は彼女が毎年しなければならない最大のことの一つで,もう終わったのよ。)

▼そして母親は子どもの冬服を買うことに対して相当なこだわりがありすぎると,娘は感じているようです。冬服を買うのが「神経が張り詰めてストレス疲れする」ほど大変なのでしょうか…。

▼周囲が注目するほどの大きな音を立てて新聞をめくる父親,野球とハンバーガーのことしか頭にない弟,毎年,冬服を買うのにストレス疲れする母親…いやあ,家庭って難しいものですね…(;´・ω・)

【6】いたずらにもほどがある

2014年度追試験では,先ほどの「大きな音を立てて新聞をめくる父親」に負けず劣らず無謀な少年が登場します。家の前で友達と遊んでいて,友達はバスケットボールを,自分はスケボーをしているのですが,いつの間にか友達と「スケボーでハンマー投げをする」ことになります。もう無茶苦茶です

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▼そして,彼が投げたスケボーは案の定,自宅のステーションワゴンの後部ガラスを破壊します。本文には "the back window of the station wagon was completely smashed"(ステーションワゴンの後部の窓が完全に砕け散った) と書かれています。ただ,自動車のガラスはそんなにもろいものなのでしょうか…?確かに,当たり所が悪ければひょっとしたらそうなるかもしれませんが,木やプラスチックでできているスケボーがステーションワゴンの後部の窓を「完全に砕け散る」ようにさせる威力があるとは思えません。この少年の腕力が相当なもので,かなりの速さで投げたか,スケボーが特殊な硬い材質でできていたかではないかと思います。

【7】その料理は何?

2013年度本試験の「ある映画紹介サイトに投稿されたある日本映画の講評」も衝撃的でした。"Tom and Aki" (2005) Japanという設定で,「TomoとAkiという都会に住んでいた夫婦が田舎に引っ越して苦労し,最終的には田舎暮らしの良さに目覚めて幸せに暮らす,というストーリーの映画」なのですが,Akiは当初,田舎に引っ越したのが嫌で,都会暮らしが忘れられずハイヒールを履き,メイクも完璧にして村を歩き回ります。

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▼この前に突き出した右手はいったい何を意味しているのでしょうか…ネイルを眺めているのかもしれませんし,歌舞伎役者の真似をして見得を切っているのかもしれません。また,左手のカバンの持ち方も不自然です。実際に試してみればわかりますが,非常にとりづらいポーズです。いずれにせよ,なぜこのポーズなのか全くわかりません…。

▼この問題で私が特に気になったのは料理の場面です。これはAkiが,村に住む老婦人(しかも "a legend in the village"[村の伝説的人物]とまで描写されている人物)から天然のキノコ(wild mushrooms)の料理の仕方を教わりながら村の民話を聞く,という場面なのですが…

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キノコの石突(いしづき)がついたままなのがすごく気になるのです。この大きさからするとシイタケのような感じもしますが,シイタケだとしたらこの太さの石突はかなり硬いので,普通は切って使うはずです。エリンギ,マイタケ,シメジ,エノキ,マツタケにように,石突が長く柔らかくてそのまま食べられるものであれば良いのですが…。あるいは「天然のキノコ」なので,この村に特有のものなのかもしれません。また,鍋にはキノコしか入っていませんが,キノコを乾煎り(からいり)する料理というのも聞いたことがありません。いったい,どんな料理が出来上がるのでしょうか…?

▼さらに,このコンロと二人の位置関係も非常に不自然です。そもそもこのコンロはどういう構造なのでしょうか?IHではなさそうですが,だとしたらテーブルに組み込まれたガスコンロということでしょうか?それは非常に危険です。

【8】ネタもいいけど…

▼この後,2015年度には第5問からイラストが姿を消し,2016年度からは物語文だけの出題となりました。センター試験に関するネタは他にもいろいろあるのですが,特に第5問はネタの宝庫だと言えそうです。

▼…しかしまあ,冷静に読んでみると,受験生からすれば,こんな馬鹿馬鹿しい内容の英文を読まされて自分の人生が左右されるのはあまり喜ばしいことではないですね。もちろん,大学入試センターの出題者が真剣に作成しているということは理解していますが,1997年度の新課程導入以降,この第5問ではどうも幼稚っぽかったり,若者に迎合するようなところも垣間見られたような気がしました(例の「クソゲー」が出題されたときには特にそれを強く感じました)。

▼来年度から導入される共通テストについていえば,試行テストの内容を見る限り「高校生や大学生の日常生活や学校での活動」に関連した内容を出そうとしているのだろう,とは思いますが,あまり幼稚な馬鹿馬鹿しい内容で受験生の人生を左右するようなことがないように,と願います。

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