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「つながり」を読み解く英文読解(22)~情報構造⑧:情報運搬構文(4)~

▼前回に引き続き,情報運搬構文(information packaging)の続きです。前回は,9つの情報運搬構文のうち,〈[4] 倒置〉と〈[5] 存在構文〉を扱いました。今回は,〈[6] 受動態〉を扱います。

受動態(passive)

▼受動態とは,他動詞や前置詞の目的語を主語にしたかたちのことで,次のような定義がなされています。

能動文は行為を行う側に視点が置かれている表現であるのに対して,受動文は行為を受ける側に視点を置いた表現である
(中村捷『実例解説 英文法』,開拓社,p.269)

▼例文で確かめてみましょう。

(a) The car was taken by Kim.
(b) Kim took the car.
(Huddleston, Rodney; Pullum, Geoffrey K.. The Cambridge Grammar of the English Language, Cambridge University Press.)

▼上の例文では,(a)が受動態[有標],(b)が能動態[無標]です。(a)ではwas taken という行為を受ける The car に視点が置かれています。では,どのような場合に受動態が用いられるのでしょうか。

(1) 前文からのつながりに配慮した場合

①〈旧情報⇒焦点を当てたい情報〉の順に提示するため

▼受動態が用いられる第一の理由は,情報を〈旧情報⇒焦点を当てたい情報〉という順番に提示するためです。これは,受動態の文の主語を主題(シーム)とし,それについて情報を付け加えるためとも言えます。まず,以下の例文を読んでみましょう。

(1) The very noisy visitor continually insulted the receptionist and the caretaker in the library.
(Aarts, Bas. Oxford Modern English Grammar, Oxford University Press, p.7)

(22) The receptionist and the caretaker were continually insulted by the very noisy visitor in the library.
(Aarts, Bas. Oxford Modern English Grammar, Oxford University Press, p.15)

▼(1)の「そのとてもうるさい訪問者はいつも,図書館の受付係と管理者を侮辱した」は能動態,(22)の「その受付係と管理者は,図書館のとてもうるさい訪問者によっていつも侮辱されていた(※この in the library は「図書館で」と訳すこともできます)」は,(1)を受動態にしたものです。この2つの文は,「誰の身に何が起きているか」という点については意味は同じです。だとしたら,この2つの文の使い分けはどうすればよいのでしょうか。

▼これについて,Aarts, Bas. Oxford Modern English Grammar では以下のように説明がなされています。

We will say that they have the same propositional meaning. This raises the question of why users of English have a choice between these two structures. The answer is that (1) and (22) present the information contained in them in slightly different ways. Thus, (1) can be said to have the noisy visitor as its topic of interest, while (22) has the receptionist and the caretaker as its topic. Speakers very frequently vary the structure of their utterances, which gives their addressees important (subconscious) clues as to what requires their attention. In the case of the passive, changing the order of the various constituents does not result in a change of propositional meaning, merely in a change of highlighting. 
Aarts, Bas. Oxford Modern English Grammar, Oxford University, pp.15-16
(それらが同じ命題的意味を持っていると言えるしょう。これは,なぜ英語を使う人々がこれらの2つの構文の間で選択を行うのかについて,疑問を投げかけます。その答は以下の通りです。(1)と(22)はその中に含まれている情報をちょっと異なるやり方で提示している,ということです。そのため,(1)は the noisy visitor を関心の主題としていると言えるのに対して,(22)は the receptionist and the caretaker をその主題としているのです。話者たちはとても頻繁に自分たちの発話の構造を変えます。そしてこれが,話しかけられている人たちに,彼らの注意を必要とするものについて重要な(無意識の)手掛かりを与えてくれるのです。受動態の場合,様々な構成要素の順番を変えても,命題的な意味は変化せず,単に焦点の変化が起きるだけなのです。)

▼(1)では,The very noisy visitor が主題(シーム)で,continually 以下が題述(リーム)です。文末焦点の原理にならえば,この文の焦点は (continually) insulted the receptionist and the caretaker in the library となります。これに対して(22)では,The receptionist and the caretaker が主題(シーム)で,were 以下が題述(リーム)です。よって,焦点は (were continually) insulted by the very noisy visitor in the library となります。また,どちらの場合も主語=主題がおそらく旧情報であり,その後に重点情報が置かれていると考えることができます。

② 前文とかたちを対応させるため

▼また,〈主題(シーム)-題述(リーム)〉のつながり方を,以前説明した「鯉のぼり型」にするために受動態を用いる場合もあります。「鯉のぼり型」についてはこちらの記事をご覧ください。

▼以下の例文で確認してみましょう。

(6) a. The Prime Minister stepped off the plane.
  b. Journalists immediately surrounded her.
   or
  c.  She was immediately surrounded by journalists.

    There is a preference for c as the continuation sentence, rather than b. We suppose that this is because readers prefer to maintain the same subject (or discourse topic entity).
Brown, Gillian. Discourse Analysis (Cambridge Textbooks in Linguistics), Cambridge University Press, p.130
(継続文としては,b より c が好まれる。おそらく,これは読者が同じ主語(あるいはディスコースの主題)を維持することを好むためである)

▼この例文の主題[T]と題述[R]を表すと次のようになります。

a. The Prime Minister [T] / stepped off the plane [R].
b. Journalists / [T] immediately surrounded her [R].
c. She [T] / was immediately surrounded by journalists [R].

▼c の She という主題(シーム)は,a の The Prime Minister のことなので,「鯉のぼり型」の展開になっていると言えますね。

a. The Prime Minister [T] / stepped off the plane [R].
   |
c. She [T] / was immediately surrounded by journalists [R].

(2) 文末重心による受動態

▼また,文末重心の原理が働いて受動態を作る場合もあります。これはいわば,「行為者を表す by ~ が長い場合」と考えることもできます。以下の例文で確認してみましょう。

The President was mistrusted by most of the radical and left wing politicians in the country. [6]
(大統領は,国内のほとんどの急進的及び左翼系の政治家から信頼されていなかった)
ジェフリー・リーチ & ヤン・スヴァルトヴィック,池上惠子訳『現代英語文法 コミュニケーション編 新版』,紀伊國屋書店,p.315

▼この文を能動態に直すと "Most of the radical and left wing politicians in the country mistrusted the President." となりますが,これだと主語(正確には主部)が長く(重く)なるため,受動態を使う方が望ましい,ということです。

(3) 能動態の行為者が不明,もしくは明白で示す必要がない場合(agentless passive:行為者なしの受動態)

▼また,動作主(行為者)が不明の場合は「誰が」という主語を明示することができないため,受動態になります。この場合,by ... は示されません。また,行為者が明白で示す必要がない場合も受動態が用いられます。

ex) He was injured in the train crash.
(彼は列車の事故で負傷した。)
⇒この場合,「誰が」彼を負傷させたのかを示すことはできません。
ex) English is spoken all over the world.
(英語は世界中で話されている。)
⇒この場合,「誰が」話しているかを示す必要はありません。逆に,もし,by people と表してしまうと,そこに情報の焦点が存在することになり,違和感が生じます。

▼このように,受動態の文は情報構造や前後とのつながりに応じて用いられることが多いため,つながりを意識して読むようにしましょう。



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