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ベンゾジアゼピン減断薬 - 睡眠・覚醒リズム表 [Free full text]

ベンゾジアゼピン系睡眠薬の減断薬を行う際、僕は患者さんに睡眠・覚醒リズム表を用いて睡眠ログを取っていただくようにしています。

睡眠・覚醒リズム表

漸減中に「減らしてから眠れなくなった」というフィードバックが続きステイが長くなってしまった患者さんに試しに睡眠・覚醒リズム表を付けてもらったところ「意外と眠れている」ことが判明し減薬を先に進められたケースを経験したことがそのきっかけです。
これは使ってみると非常に有用です。じっさい睡眠・覚醒リズム表を付けてもらうと、漸減前と後で睡眠時間や深さに大きな変化がないこと、あるいは睡眠時間が減少していることが視覚化・客観化されるからです。
僕は不眠症の患者さんの治療において睡眠・覚醒リズム表を常用していたので流用は容易でした。ベンゾジアゼピン系睡眠薬の減断薬においても睡眠・覚醒リズム表はとても強力なツールだと思っています。

ベンゾジアゼピン系睡眠薬の減断薬における睡眠・覚醒リズム表の使用には、以下の双方向のメリットがあります。

第一に、減薬に伴う「不眠」が薬剤依存からの正常な睡眠への回帰であるのか、反跳性不眠であるかを判別する助けになります。減薬中に訴えられる「不眠」が、ベンゾジアゼピン系睡眠薬による「ドーピング・スリープ」から本来の睡眠に戻っただけであることは意外に多い。
患者さんとのコミュニケーションにおいて「パーフェクト・スリープ」を求める必要は無いのだと伝えるきっかけとなり、これにより、適切な減薬の進行を確保することが可能です。減薬を加速する方向に働きうる。

逆に、漸減後も「眠れる」と言い続けていた患者さんに、実は反跳性不眠と思しき睡眠時間の短縮が起きていることがわかることもあります。それに伴っていくつかの離脱症状が聴取できたりもする。
ベンゾジアゼピンの依存や離脱症状に苦しむ患者さんはしばしば「早く断薬したい」という思いに駆られて反跳性不眠や離脱症状を「耐えてしまう」ことがあります。しかしそれには離脱症状の遷延化や、断薬失敗を繰り返すことによるキンドリングといった、ベンゾジアゼピン依存の難治化に繋がりうるリスクが伴う。僕の目指すところはそのリスクを最小化した減断薬です。
睡眠・覚醒リズム表を用いて睡眠状況を客観化し共有できるようにすることで、患者さんのベンゾジアゼピンに対する忌避感情を理解しやすくなる。治療方針の再確認など、時宜を得た適切な介入が可能になります(この場合は減薬ペースは一時的には遅くなります)。

睡眠・覚醒リズム表を活用することで、ベンゾジアゼピン系睡眠薬の減断薬プロセスを効率的かつ安全に進めることができます。患者さん自身が記録するこのツールは、医師にとっても、一目で患者の睡眠状況とその変化を把握するのに大変役立ちます。限られた診察時間の中でも手軽に利用できるため、減薬の進み方を判断する上で重要な役割を果たします。
睡眠薬の減断薬に取り組んでいる医療者や患者さんには睡眠・覚醒リズム表の使用を積極的にお勧めします。

追記 睡眠・覚醒リズム表はインターネット上でいくつかのバージョンが無料でダウンロードできます。作りはどれも同じなのでどれを使用してもかまわないと思います。
僕は、患者さん向けの記入例が充実している「国立精神・神経医療研究センター病院版」を使用させていただいています。
https://www.ncnp.go.jp/hospital/patient/docs/suimin.pdf

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