【読書】『サピエンス全史』『ホモ・ゼウス』 Y・N・ハラリ 2016年、2022年(文庫) 河出書房新社(河出文庫)
今更という感じであるが、Y・N・ハラリのサピエンスシリーズを読んだ。
著者はイスラエル人の歴史学者である。多層的に折り重なっている歴史からマクロ的な視点で大きな流れをつかみ、そこに遺伝学、考古学での発見を挿入しながら大胆な仮説を唱えている。
『サピエンス全史』では、僕らホモ・サピエンスが他にいたホモ属系の人類たちの中でなぜ残ったかについての理由を延々と書いている。
ホモ・サピエンスは約10万年前に東アフリカから世界に出た。僕らサピエンスが新しい土地に到着すると、先住の人々(他にいたホモ属系の人類たちはたちまち滅んでいる。また、同時に大型の動物についても大半が絶滅している。
なぜ、このようなことができたのかについて著者は詳細な分析を行なっている。
ホモ・サピエンスは長い間狩猟採集生活により移動する生活だったが、一万年前の農業革命が起こったことにより定住するようになった。
これは想像上の秩序である「神話」によってなされた。
サピエンスの認知革命により、主として言語を通して想像上の虚構、すなわち架空の事物について語り、それを信じる能力を得た。そして、僕らは集団で虚構を信じることができるようになった。このことが形を変えて、現在まで続くサピエンスの繁栄の礎とになったのだ。集団で虚構を信じることで、より多くの人数で行動できることになり、結果的に他のホモ属、大型動物を滅ぼして生き残り、繁栄することになったのだ。
その後、言語から書くことで言語を残すことができ、これが官僚制につながり、やがて巨大な帝国を誕生させる。
一方で、大規模な協力ネットワークは想像上のヒエラルキーと差別を生み出す。
想像上の虚構はやがて宗教を生み出す。
著者は貨幣を使った交易、帝国、宗教が人類を統一す三つの要素である、指摘する。
デカルトに始まる自らの無知を知ることから始まった科学革命。その延長線による産業革命により始まった資本主義。これらを推し進めてきた結果が現代である、
そして最後に僕らはホモ・サピエンスは「神になった動物」である、というところで終わる。
『ホモ・デウス』ではサピエンス(人類)は、不死を目指すことから自らを神(デウス)に変えようとしているとし、動物である人間から紐解き、どのようにして人間至上主義になり、人類がこれから取りうる様々な未来について語られる。
『ホモ・デウス』では、「人間」がいかに「神」に近づいているか、いや、一部では「神」になってしまっているという現実が明かされる。「神」になる、というより守ってくれるものがない、すがるものがない、という現実にさらされる。集団の虚構で信じた宗教を超えるものが人間至上主義だ。
人間至上主義は、不死から神性を得ようとする、というのは自由主義的な理想である。この理想を追求しようとした時、テクノロジーの裏付けが必要になる。ところが、このテクノロジーが逆に自由主義に対して脅威となってくる。
例えば、人間そのものが経済活動を行なえなくなることだ。AIが仕事を行う。また、データとして集団の一部となり、アルゴリズムにより集団管理されることだ。そして、アルゴリズムをコントロールする側としての一部のエリートと管理される大多数の集団とに分かれることだ。
これは僕らにとって理想なのだろうか。
僕は『ホモ・デウス』を文庫版で読んでいる。単行本として出版されたのは2016年で、著者は単行本の冒頭に「この数十年というもの、私は飢饉と疫病と戦争を首尾よく抑え込んできた。」と書いた。一方、2022年でに出版された文庫版では、文庫版にの序文に、新型コロナウィルスが発生したこと、ロシアがウクライナに侵攻したことにより、世界秩序は揺らいでいるとし、序文の最後に「私たち人間が最終的に賢明な選択をすることを、切に願っている。」と結んでいる。
これは誰が選択するのだろうか。
さらに、現在では著者の出身であるイスラエルがパレスチナを攻撃している。
著者の現在の視点を聞いてみたい。
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