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令和5年度司法書士試験受験記(2)

記述問題かく戦えり


【不動産登記法】


令和4年1月末の夕暮時。

この冒頭の書き出しから、既にただならぬ空気が漂う第36問。夕暮時。たちまち、淡紫色に暮れゆく街と、黄昏の光が差し込むビルの一室の事務所で依頼者と対峙する司法書士鈴木一郎のイメージが浮かび内容が1ミリも頭に入って来ないが、向田邦子ドラマ的脳内風景を非情に振り払って読み進めてみると、今年の問題が一筋縄ではいきそうにないことがわかってくる。

依頼部分にしれっと埋め込まれた売買契約と登記識別情報「失念」の事実。何でここに書いとんじゃい。情報分散させて受験生の足を引っ掛けてやろうという悪意しか感じない。
忘れないように転記しておく。

詳細はここで紹介するわけにはいかないけれど、記述講座で曲がりなりにも身に付けた手順で問題をさばいていく。アジの三枚おろしのように。
土地がニ筆あるが申請するのは片方ずつ、2回目申請は所有権以外との縛りもある。しかし所有権の権利変動はいずれの土地にも起きている。またもややこしくさせる仕掛けか。

第1欄

まずSの引っ越しを把握してはいるが一つ前の名義人なので夏風邪ひかないよう布団をかけていったん寝かせておく。
さて譲渡担保解除。抹消か移転かで迷う。乙区がないのと免許税で抹消と決める。事実関係にある解除の「合意」の記載と、債権者からの一方的な意思表示による解除証書の書きぶりとのズレが気になりながらも(登記原因証明情報は義務者の意思確認ができれば良かったということにはこの時は思い至らなかった)。
原因の書き方は… 確か単なる解除じゃなかったはず。ターゲットテキストのどこかで見かけた幽かな記憶を呼び起こす。が、契約の二文字は浮かばず。惜しい。

これでT名義の夏布団が剥げたので、Sさんに起きていただく。そういや後で思ったけど、田中一郎でも鈴木次郎でもなく不登法でイニシャルトークって近年じゃ珍しいよね。せめて名前を簡単にして少しでも受験生を楽にさせてあげようという試験委員、優しいね。って誰が思うかボケぇ。ワシゃアルファベット苦手なんじゃ。去年の合同会社の時それ言うたやろがい。
それはさておき名変。そもそも変更で良いのか?昭和時代の出題以来の更正が今年こそ出るのではないのか。何せこの底意地の悪さだ。間違えないよう慎重に確認。
何じゃやっぱり変更かい。

そして移転。
試験会場到着後にパラパラ見返していたスタプラ手帳の記録にあった、模試での失敗からの間違いメモが役立った。
成年被後見人の不動産の処分に関しての許可同意のパターンの中から後見監督人の同意書を選び出して添付。
登記識別は…失念だった。危ない。あぁそれで後見開始なのか、と納得。
この枠では書くことはなかったが、登記識別情報の受付番号まで書かせるという嫌がらせは一件目から機能し、またも枠の小ささがストレスを生んでいた。

第2欄

小問は書くまいと思っていたが、つい手を出してしまう。そして、よく確認しないまま理由には解除「前」の第三者と書いてしまった。やっぱ止めときゃ良かった。
しかし後で考えると、この欄を書いた覚えがあることで、表裏間違えたかも無限地獄に陥ることはなくなるので怪我の功名かもしれない。いやそこを悩むほどの出来では全くないけど。


第3欄


夕暮時のインパクトにやられて、依頼部分の後半をあまりきちんと読まなかったが、問い部分は確認したので所有権移転はメモだけ残し抵当権の処遇の判断に入る。
各予備校講師の先生方の雄叫びが聞こえる気がした。ホラ出たやろ免責的債務引受が!
ただ、最終的に債務者をB一人にするための申請件数はどうだ。直前に不動産の承継についての遺産分割協議はあった(先述のとおり申請書は書かない)。が、何度読んでもその協議書に抵当権についての記載はなく、債務引受契約締結とその2日後の債権者の承諾の事実があったことしか読めない。ダメ押しで、去年の自分が考えたように、民法改正は絶対何かしら出すだろう、ここで免債引受を書かせないわけがない、と踏んで2件申請のメモを作る。


ただ、問題はその書き方だった。しまった。試験直前の数日前、根抵当の相続での債務者変更からの追加設定のあの入れ子形式の雛形は熱心に練習した一方、抵当権の債務者の相続の方は利息の組入あたりほどには徹底してなかった。直前期の自分がうなだれる。が、悔やんでももう遅い、とりあえず債務者の所を飛ばし、次の免責的債務引受の枠を埋めて先へいく。これも後で確認すると書き方は不十分だったけれど。

三枠目、これまた悩ましかった。共同抵当の追加設定なのに書くのは及ぼす変更という変態的脳内変換を行い枠を決め、そして実際にその雛形をひと通り書いた…のだが。
ここで問題文の指示が気になりだす。申請件数と登録免許税を少なくしろと仰るのであれば、同一管轄なのでいっぺんに甲乙両方やっつければ1500円で済む。乙への及ぼす変更をやってしまうと、甲の方は別個に追加設定であと1500円取られるやろ。主婦の買い物目線なら大いにムダに映る。1500円あったらこないだ買った安売りのアールスメロン一個また買えるで。

しかしそれだと債権者Xはキレ散らかすでしょうな鈴木一郎先生。せっかく付記で入れれるのにわざわざ持分の半分の抵当を後順位二人に劣後させ…え?それってどういう状態?持分半分だけ劣後するってどゆこと?
寝不足の脳で一人芝居を打つうちにブドウ糖目盛りがみるみる減っていくのが自分でもわかる。ええわもう、債権者の利益を考えろなんて問題の指示にはないやろ。件数も免許税も安けりゃええんじゃろ、わかりましたわかりました!

という訳で、せっかく書いた目的の及ぼす変更だけ消して抵当権設定、と書き直してしまったアホ主婦でありました。後に奥歯が砕けるほど歯ぎしりしたのは言うまでもない(そもそも、乙土地の方は後から取得した持分半分に設定する契約をしているのだから中身は同じでも目的が合っておらずこの枠は却下0点の憂き目にあうだろうし、厳密に言えばこれも枠ズレの部類に入るのかもしれない)。

思えば前にもこんなことあったわ。令和3年度の根抵当の変更やったっけ。ちゃんと書きかけたのにわざわざ変な方向転換して台無しにした反省が活かせなかった。寝不足とブドウ糖不足のせいか。あるいは夕暮時のせいかもしれない。責任転嫁。

4件目。ここでは過去の様々な答練の記憶の亡霊が袖を引っ張る。
ねぇねぇ、これホントに順位変更でええのん?順位変更って言いながら順位放棄やないのん?契約書ないから鈴木一郎先生の提案でどうにでもなるんちゃうん?だってこれも免許税安くするなら順位放棄やでぇ。そのために根抵当確定してないんちゃうのん?だってこの3番根抵当さん他になーんも仕事させてもろてないんでぇ、せっかくおるのに可哀想やない?

えーいうるさい黙れ!時間なくなるわ!添付情報一覧に順位変更契約書って書いとるやないかい!
やっとのことで脳内似非関西人オバケを撃退、4枠目をキメる。
何故か変更後の順位を「第一」ではなく「一位」と書いてしまい、添付情報も空白に終わってしまったが。


ここで時刻はもう3時過ぎ。脳内ブドウ糖も残り30%あるかどうか。
第4欄、あの季節外れの蚊の野郎的共同抵当の計算のやつと何か知らんもう一つの欄が視界の隅に映るが一切黙殺し商業の検討に入る。


(次回へ続く)


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