見出し画像

2019/12/15 舞台「踊ってから喋るか?喋ってから踊るか?」 観劇

画像1

公演タイトル:「踊ってから喋るか?喋ってから踊るか?」
劇場:トーキョーアーツアンドスペース本郷
劇団:フィジカルシアターカンパニーGERO
作・演出:伊藤キム
公演期間:12/12〜12/15
個人評価:★★★★★★★☆☆☆

【総評】
演劇部時代の先輩が初めてプロの演劇集団に客演として呼ばれて出演した公演ということでどんな感想を自分は抱くのだろうかと楽しみにしていたが、結果はとても満足でした。
個人的に抽象的なお芝居は当たり外れがあって慣れている訳ではなかったが、今回の芝居は世界観がしっかりしているからか序盤から物凄く引き込まれた。素舞台で何も着飾っていないのにあそこまで惹きつけられる芝居が出来るって素晴らしい。
後半の伊藤キムさんの一人芝居はプロジェクターの動きとキャストを同時に見られなくて、目で二つを追いながらだったのでなかなか厳しかったが、こういった身体表現と演出が考えつけるっていうのも素晴らしい。

これは結構実験的作品だと思うので、こういう技法をもっと大きな舞台で取り込んで新しい風を吹き起こして欲しいなと思った。

【鑑賞動機】
私が学生時代演劇部に所属していた頃の先輩が出演するということで観劇。その先輩が初めてプロの劇団からオファーがあって出演が決まったとのことだったので当初は期待値高めだったのだが、自分より前に今作品を観劇した知り合いの口コミを聞いて好みが分かれそうな内容と聞いていたので、自分にはこの作品がどう映るのか楽しみにしながら鑑賞。

【ストーリー・内容】
今回の作品は明確なストーリーがあるわけではなく抽象劇となっている。

4人のキャストが観客の前でひたすらぐにゃぐにゃわめきながら体を動かす表現からこの舞台はスタートする。最初は4人のキャストがそれぞれ独立してバラバラに身体表現をしていたのだが、途中でそのうちの2人だけが呼応しながら身体表現をし、そしてまたバラバラになるを繰り返す。それだけのシーンが数分続くのだがどんどん引き込まれる不思議な感覚だった。
次第に「頭、目、耳、・・・、脚(だったかな)」とお経のように体の部位を指しながら4人ははけていく。

そして、次に八木光太郎さんの一人芝居が始まる。彼はおそらく体調が悪い患者の設定なのだが、いかにも体がムズムズして気持ち悪そうで、力強くキレのある一人芝居にぐいぐい引き込まれていった。

それから、2人のキャストが出てきて「うしを飼う」か「ぶたを飼う」かの掛け合いを、言葉やイントネーションを変えて遊びながら進行していく。
それから、伊藤キムさんが指揮をとりながら他キャストがそれぞれ体と声を使って表現していくシーンや、プロジェクションマッピングと掛け合わせて身体に沿ってペンで輪郭を縁取っていくシーン、舞台終盤は伊藤キムさんの一人芝居。

どのシーンを切り取っても独特かつ抽象的で意味を汲み取りづらい舞台だったが、なぜかどんどん引き込まれていく不思議な芝居だった。

【世界観・演出】
舞台と客席に隔たりはなく、一室の半分を舞台、もう半分を客席とオペ卓としたキャストと非常に近い距離で見られる舞台配置だった。客席の規模も30人弱くらい、席は2列存在し前席は地べたに座布団で後席は椅子が置かれていた。それ以外には特に何もない素舞台。映像が映されるのは舞台側の壁で特に舞台上にものは置いていない。そして床がちょっとゴツゴツした石を張り詰めた感じの雰囲気ある作り。
これだけの素舞台でここまで観客を引き込ませる作品が出来るとは、キャスト陣の表現力の高さと演出力の高さゆえであろう。
プロジェクションマッピングとして映されるものも、タイピングで文字が映されたり、大小様々なひらがなが星のように映されたり、ペンでお絵かきされたりするだけで特に特殊なことはしていない。
やはり、そういった雰囲気作りが上手いのだろうなと思った。
個人的に好きで印象に残っているのは、あのお経のように体の部位を唱える音楽、そこに終盤リズムが付いて流れる心地よさは結構好きだった。

【キャスト・キャラクター】
個人的に芝居が上手いなと思ったキャストは、八木光太郎さんと青沼沙季さん。

八木さんは何と言っても序盤の一人芝居での身体表現がとにかく凄くてどんどん引き込まれていった。
最初の寝つきが悪かったというあたりから体内に何か得体の知れないものがあるようなあの感じや、それが発症した時に体が言うことを聞かなくなったように動き出すあのキレ具合、あそこまで何も着飾ることなく身体表現だけで引き込ませる演技力を持っているって今まで経験したことなかったので凄いなと思った。

また青沼さんの腰の使い方がとても特徴的で、腰を素早くクッと曲げたりするあの身体表現もなぜかどんどん序盤で引き込まれた。
またあの甲高い声も物凄く特徴的で非常に目立つところが良かった。序盤のシーンでぐちゃぐちゃ声を出しながら身体表現をするシーンがあったが、青沼さんとaqiLaさんの声が非常に目立っていて、それが良いのか悪いのかはよく分からなかったが、個人的にはそれはそれでいいのかななんて思えた。

伊藤キムさんは、まずあの黄色い作業服と眼帯っていうビジュアルに目を引かれた。KEKEさんは金髪でちょっとミステリアスな感じが他のキャストとちょっと異質なところが良くて、aqiLaさんは物凄く声が通るので「あなた」と発生するだけでもものすごいインパクトを舞台上に与えていた。

【舞台の深み】
今回の作品は非常に抽象度の高い舞台で、主に身体遊び、言葉遊びが多かった。
こういったことは、素人の私たちが同じようにやってもつまらないものになるのだろうけど、長年演劇をやってきた俳優がやることによって物凄く見応えのあるものになるのだろうなと思った。
例えば八木さんの一人芝居をとっても、あそこまで体の至る所に力を入れてキレを持って演じられなかったら絶対つまらないものになっていただろう。

また、こういった芝居は若手のキャストがやった方が、エネルギッシュで身体表現にキレがあったりで良い気がした。
伊藤キムさんに関してはそういったキレが若干ないように思えて八木さん、青沼さんほど一人芝居で引き込まれなかった。

この芝居を見ながらふと昔Eテレで放送されているのを見た「にほんごであそぼ」を思い出した。あの番組も言葉遊びを主とした内容だったが、それに近いものを今作品にも感じた。
特に「うしを飼う」か「ぶたを飼う」かのシーンで、言葉を入れ替えたりイントネーションを徐々に変えて呼応していく表現は「にほんごであそぼ」に出てきそうな内容だった。あの星のように出現したひらがなたちも。

それから、輪廻転成や宇宙空間ぽさもこの作品は秘めているなと思った。勿論抽象劇だからという点もあるが、あのプロジェクターで映された「頭、目、耳、・・・、脚」が円状になっている点やお経のようにそれを唱える表現は輪廻転成っぽさがあるし、キャストたちがただただ声を発しているシーンは、なぜか「2001年宇宙の旅」に出てくるモノリスの存在感を思い出したりして、そういう意味で世界観というものがちゃんと作られた上に身体表現が乗っているからこそ観客を引き込めるだけのパワーがあるのかななんて思った。

【印象に残ったシーン】
序盤の4人のキャストが一斉に声を上げて身体表現をしながら呼応したりバラバラになったりするシーン、お経を唱えるシーン。八木さんの一人芝居、特に体のムズムズが体に発症し始めたあたり。「うしを飼う」か「ぶたを飼う」かのプロジェクションマッピング、伊藤キムさんが観客に向けてぐちゃぐちゃやるシーン。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?