2020/01/18 舞台「ポポリンピック」観劇
公演タイトル:「ポポリンピック」
劇場:こまばアゴラ劇場
劇団:ゴジゲン
作・演出:松居大悟
出演:目次立樹、東迎昴史郎、本折最強さとし、善雄善雄、木村圭介、松居大悟、奥村徹也
公演期間:12/21〜12/22(福岡)、1/3〜1/21(東京)、1/25〜1/27(札幌)、2/8〜2/9(京都)
個人評価:★★★★★★★☆☆☆
【レビュー】
ゴジゲンの舞台は、あのラジオ・音楽・演劇の融合作品「みみばしる」以来の作品となるが、今回は役者陣の熱演が非常に光った作品に思えた。最前列で観劇させて頂いたので、出演者のエネルギッシュな芝居を受け止めるので精一杯の95分間だった。
内容もオリンピックに選ばれなかった人たちのストーリーで、結構シリアスな内容なはずなのに終始笑えるとても不思議だけど楽しい作品だった。いい大人たちがバカやるって本当に良いことだ、そう思える優しい舞台だった。
【鑑賞動機】
ゴジゲンという劇団は、昨年の2月にJ-WAVEと共同で制作した舞台「みみばしる」が音楽とラジオと演劇を掛け合わせた画期的な作品で好きだったのでそこから気になっていた。
今回は2020年に東京で開幕するオリンピックを題材とした作品、特に今作はオリンピックに選ばれなかった選手にスポットを当てたシナリオということで、心動かされることは必須だろうと期待を込めて観劇。
【ストーリー・内容】(※ネタバレあり)
主人公のポポ(目次立樹)は戸籍もなく親の顔を知らない青年だが、ボーリングだけは達人並みに得意でオリンピック出場を目指していた。
しかし地元のボーリング大会では戸籍がないという理由で優勝させてもらえず、リトル・ジョン(木村圭介)が王冠を手にしていた。
ある日、2020年の東京オリンピック追加5種目の結果がボーリング協会から通知される。しかし結果は、そこにボーリングの名前はなかった。
その上、ポポの唯一の友達でありボルダリングで世界一を目指そうとしている則夫(東迎昴史郎)は、ボルダリングがオリンピック追加種目に選ばれたことでオリンピック出場権を獲得してしまう。
ボーリングに精を出して来た一同は夢打ち砕かれバラバラになるが、ポポ・岩木戸(松居大悟)・花菱(善雄善雄)・谷(奥村徹也)はボーリングをオリンピック種目にしようと必死に署名を集めていた。特にポポは、youtuberとなってボーリングの魅力を発信しようとしていた。
数年が経ち、以前ポポのコーチをしていた水口(本折最強さとし)やホームレスになっていたジョンと再会したポポたちは、ボーリングなどのオリンピック競技に選ばれなかった競技選手を集めてオリンピックをやろうという「ポポリンピック」という組織を結成する。
その後ポポリンピックたちは、テレビで自分たちが専門家に批判されていること、そして則夫が「親の顔を知らない」というポポの身の上話を盗用して自分の人生を語ったことで、視聴者の関心を得ようとしている光景を目にする。則夫に腹を立てたポポは、ポポリンピックたちと共に則夫に切り込んで行こうとするが暴力沙汰になってしまう。
ポポは則夫に身体的に傷つけられてボーリングが出来なくなったことを訴えようとするがこれも失敗する。
その後ポポは久々にボーリング場を訪れるが、自分のボーリングの腕が高校生たちに馬鹿にされるくらい大きく弱体化していることに気づく。ポポはボーリングをオリンピックにしようと躍起になり過ぎたことで人生がめちゃくちゃになり、結果ボーリングの実力さえも失っていたのである。
ポポは居酒屋で則夫と飲み、オリンピック種目が決定する前の平和な毎日に思いを馳せていたが、則夫に「いい場所がある」とどこかへ連れて行かれ何か話す。
オリンピック会場に乗り込もうとしていたポポリンピックたちは会場門に立つポポの指示に従おうとするが、ポポは「星空を見上げる、風を感じろ」と言って自然に耳を傾けさせようとするのだった。
【世界観・演出】(※ネタバレあり)
以前本多劇場で行なった「みみばしる」の作り込んだ舞台装置とは打って変わって、こまばアゴラ劇場という50席ほどの客席しかない小劇場に、ブロックを積み重ねたような水色のパネルと万国旗が2つほど天井にかけられた簡素な舞台装置だった。
パネルの裏にはスクリーンが用意されており、そこで西暦やポポの生い立ちシーンで使われるポポの年齢を示したり、youtuberの動画を流していた。
舞台装置に関しては、最後のシーンでブロックを積み上げたようなパネルを裏返してベニヤ板がむき出しの面を客席に向けて、オリンピック会場突撃シーンとしていた演出が面白かった。パネルの裏側を敢えて客席に見せる演出は初めてだった、なんとなくポポリンピックたちがオリンピックという聖地に入れさせてもらえない敗北感を漂わせる演出に見えた。
映像に関しては、youtuberポポが作成したボーリングの球に何個ミンティアの箱を乗せられるかという、いかにもyoutuberがやりそうなくだらない(失礼か笑)題材だったのが、そのゆるさ加減が雰囲気を出せていて良かった。細かい点だが、スクリーンから端っこの文字がはみ出して一部写っていない部分があったのは気になった。
音響照明は今回の作品では特に目立った演出はなかった。
【キャスト・キャラクター】(※ネタバレあり)
今回の作品の一番の醍醐味でもあるが、出演者のエネルギッシュな演技に圧倒され続けた95分間だった。
最前列で観劇したので役者との距離が2~3mしかなく、役者が一番接近した時で1m以内の距離だったので物凄く近くて彼らのパワーをひたすら受け止めることに必死だった。出演者7人全員が皆全力でバカやっていて面白くて本当に間近で観劇できたのはラッキーだった。
みんな素足でダッサいジャージを着ていてとても親近感の湧く感じも良かった、なんか大学生のようだった。
一番インパクトがあった役者はやはり主人公ポポを演じていた目次立樹さん。
オカッパヘアーに濃い顔立ちは他のメンバーと異質で、言い方が悪いけどちょっと知覚障害を持ってて社会的弱者のような出で立ちがとてもポポというキャラクターにハマっていた。物語序盤では周りの言いなりにしかなれず自分の意見を言えないキャラクターから、ボーリングがオリンピック種目に選ばれなかった悔しさから成長していく姿も良かった。ボーリングの実力を失って高校生軍団にバカにされるシーンのポポの悔しがる姿はとても印象に残っている。
則夫演じる東迎昴史郎さんの演技も勢いがあってとても好きだった。
則夫がポポの初めての友達になるシーンの、あの一緒にボルダリングして女風呂覗く下りのあのふざけ加減が本当に楽しそうで好きだった。そしてオリンピック選手として引き締まった表情で演じる則夫も、また雰囲気が違って好きだった。その演技姿には、オリンピック選手にはなれたけど以前の何かを失ったかのような輝いていない姿にも見えてきて、そんな演技ができる昴史郎さんはとても素敵な役者だった。山内農場の塚田も良かった笑。
本編とは関係ないが、カーテンコールでおっしゃっていた1回30円で一発ギャグをやって、気に入らなかったら返金するというのもめちゃくちゃ面白い企画だった。返金したことってあるのだろうか、それってよっぽどの客だなって思った。
コーチ水口を演じる本折最強さとしさんの、フレディーマーキュリーのような髭を生やして白と青のジャージを着た格好と、大人びた演技がとても似合っていて良かった。
また花菱演じる善雄善雄さんの、あの彼しかできないような笑いの取り方、例えばボーリング協会からのメール通知のシーンのあのなんとも言えない表情からの「決まった」や、則夫が通り過ぎただけで「ブーン」とすっ倒れる演技は、彼しかできないギャグだなと思った。
【舞台の深み】(※ネタバレあり)
親の顔を知らない、戸籍がない、そんな社会的に弱い立場のポポという人物を主人公に置き、今までずっと夢見てきたオリンピックに出場できないと分かってシリアスにストーリーが進行していくと思いきや、コメディ要素たっぷりの不思議な作品だった。そんな本作が観客に伝えたいメッセージについて深掘りする。
ポポは自分はオリンピックに出場できない一方、友達の則夫はスポーツクライミングでオリンピックに出場できてしまうという強い敗北感を植え付けられる。
その悔しさから、ボーリングを極めることではなくボーリングの魅力を多くの人に知ってもらってオリンピック競技にしようという社会活動へ方向転換してしまう、これがポポという人物の人生の転機でそこからどんどんどつぼにハマって狂っていってしまう。悔しさや憎しみは人の考えを歪めてしまい、どんどん左翼的な方向へ進めてしまう。前が見えなくなってしまう。
その結果、ボーリングをするという本来の目的をしなくなってボーリングの実力を失ってしまうことに繋がった。
しかし、ポポは最後のシーンで則夫と何を話したか分からないが、ポポリンピックのメンバーに諭すように星空を見ろ、風の音を聞けと自然に耳を傾けさせる。
これは、怒りや憎しみで盲目になってしまわないで一度落ち着いて冷静になろう、と言っているように聞こえる。
最近日本社会では、オリンピック批判も勿論あるし、政治批判や教育に対する批判、環境問題対策への批判、日本の司法制度に対する批判など沢山の批判が存在し、そのために署名活動やなんとか現状を覆そうと行動を起こす人は沢山いるだろう。
日本社会といったマクロな視点だけではなく、僕たちが普段暮らしている日常でも他者への怒りや憎しみから過激な行動を起こしてしまうことがあると思う。
しかし本来の目的を見失っちゃいけない、見失ってポポのように全てを失ってしまうことだってある、見失わないためにも一旦落ち着いて自分と見つめ合うことは大事だ。そうこの作品は訴えているような気がしたのは僕だけだろうか。
作・演出の松居大悟さんの挨拶にも
「みんな、選ばれなかったことはあると思います。だけど、この世界に選ばれて生きているわけで。僕は。僕たちは。あなたは。あなたの友だちは。価値基準がすぐ迷子になるんよなあ、自分のポケットにあるのに!悔しいことも何もないことも空がきれいなことも等価値で、今日も飯がうまくて最高だ。」
とある。誰にでも等価に訪れる1日1日を寛容に受け止めて、今を精一杯生きることだって大事だよなって思わせてくれる素敵な作品だと個人的には思う。
【印象に残ったシーン】(※ネタバレあり)
一番印象に残っているシーンは、ボーリング協会からオリンピック追加5種目の連絡が届いた時のシーン。あの花菱のせいで一回ボーリングが選ばれたと思って一同がぬか喜びをした場面からの実は落ちていたという落胆がとてもメリハリがあって良かった。
一番辛いシーンは、ポポが高校生軍団に自分の取り柄であったボーリングでバカにされるシーン。あれは辛い、それは他のレーンで何回も投げちゃう。
ポジティブな意味で好きなシーンはポポと則夫が友達になるシーン、お互いボーリング、ボルダリングという道に向かって頑張ろうとする姿にほっこりする。
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