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2020/01/12 舞台「鶴かもしれない2020」観劇

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公演タイトル:「鶴かもしれない2020」
劇場:下北沢・駅前劇場
劇団:EPOCH MAN
作・演出:小沢道成
音楽:岡田太郎(悪い芝居)
出演:小沢道成
公演期間:1/9〜1/13
個人評価:★★★★★★☆☆☆☆


【レビュー】


最前列で観劇することが出来たことがとても幸せだった。
小沢道成さんの熱の入った芝居が数メートルの距離で拝見できてとても迫力を感じた。1時間も引っ切り無しに演じ続ける精神力と体力ってすごいと思った。
お伽話「鶴の恩返し」をこういった形で現代の日本社会とリンクさせる脚本力も素晴らしいと感じた。
また、ラジカセ3台と着物10着を使った新規性抜群の演出はとても興味深かったが、ストーリーと照らし合わせてこの演出の必然性がどうも分からなかった。
もっと演出を磨き上げて、ここでラジカセ3台使ったらめちゃ意味あって面白いよねという作品に今後出会いたいなと思った。

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【鑑賞動機】


演出兼キャストの小沢道成さんを以前から知っていた訳でもなく、劇団の名前を知っていた訳でもない。他の公演を観劇に行った時の折り込みチラシのインパクトに惹かれ、3台のラジカセと10着の着物を使って一人芝居を演じるという演出技法にも惹かれ観劇することに。
4年前に実験的に上演した公演に大きく演出を加えての再演なので期待値は高め。音楽担当に悪い芝居の岡田太郎さんが入っている点でも目を引いた。


【ストーリー・内容】(※ネタバレあり)


ストーリーは、お伽話の「鶴の恩返し」がラジオで朗読されるのと同時進行で、現代風にアレンジされた「鶴の恩返し」が展開していく。

東京の街中で血を流していた女性を男性(ヒロくん)が助けるところからスタートする。助けられた女性はある日、男性の家の元に突然訪れる。男性はあの時街中で助けた女性だと分かると彼女を家の中に入れるが、彼女はいきなり男性とお付き合いしたい旨を伝える。
男性から良い返事がもらえ付き合うことになった2人、女性は男性が目指すロックバンドを支えるべく、家事をしたり高級な衣服をプレゼントしたり、アメリカへ渡航するための旅券を手に入れ男性を喜ばせる。
しかし、男性は女性がみるみるやせ細っていくことや、「鶴子という女性がお宅の中へ入っていった」という隣人からの言葉に不審感を抱き始める。
そして男性は、女性が普段風俗で働いて高額な資金を稼いで彼にプレゼントしていたことを知る。動転した男性は女性を問い詰め、「色んな男性と寝て稼いだお金で貰ったプレゼントなんて嬉しくもない」と吐き捨て女性を見捨ててしまう。
街中に取り残された女性は独りぼっちになりながらも、通りすがった男性に「大丈夫か」と声を掛けられるのであった。

お伽話の「鶴の恩返し」を上手く現代の日本社会に暮らす男と女に置き換えて、普遍的な男女の愛憎に物語を帰着させているところが、なるほどなと合点出来て素晴らしいと思った。


【世界観・演出】(※ネタバレあり)


この舞台の演出は、様々に趣向が凝らされていて舞台美術だけでも見応えがあるものだった。

小屋自体は100名の観客席が収容できる小劇場で、観客の年齢層は若干高めだった気がする(小沢さんのファン層の年齢が少し高めだからか?)。
ステージは正方形を斜めにしたダイヤ型をしており、舞台奥のダイヤの2辺に壁のようにパネルが置かれている。パネルには大小様々な正方形が無造作に配置されている一風変わった雰囲気のある造り。
パネルが劇中に動くシーンもあり、窓のように開閉できる箇所や、扉のように開閉できる箇所もある。舞台中央には一脚の椅子が配置されており、大道具・小道具としてはこの椅子だけを使ってシーンを表現している。
とてもシンプルな舞台美術だが、物凄く神秘的で客入れ時から舞台中に引き込まれそうな作品に仕上がっていた。

そして、何と言っても悪い芝居の岡田太郎さんが手がけている音楽が非常に迫力があった。
一番印象に残るのは、男性が女性の収入源を知ってしまったシーンのクラブのような音楽。照明と着物の相乗効果でインパクトが絶大だった。激しく蛍光し、舞台上が揺れるくらいの轟音でBGMがかかり強烈だった。
また個人的に好きだったのは、音楽に沿って女性が料理をするシーンの音。調理している生活音SEのクオリティの高さに驚いたし、まるで本当に料理をしているように見えてとても素敵なシーンだった。

衣装も10着の着物を用いて行われているということでとても豪華だった。最後のシーンで舞台に散らばった着物が、女性の心情を上手く示唆しているように感じた。

前回は実験的に行っていた3台のラジカセによるセリフ流しとの会話劇だが、この発想自体は新規性があって面白いと思ったが、個人的には今回の芝居でその演出方法を用いた必然性があまり感じられず、たまに男性のセリフなのか女性のセリフなのか分からず混乱した箇所があった。
それと舞台中盤でいきなり小沢さんが男性側を演じたので、ここで切り替わるかって思ってびっくりした。なぜここから男性役も演じたのだろう、それ以前のシーンでも男性で演じて欲しいシーンはあったと思ってしまった。
また小沢さんのカツラも、半分長髪の女性でもう半分は男性のように短かい髪だったので、顔をどちらに向けるかでどちらを演じているか示すのかと思いきやそうでもなかったので、そのカツラの意味もいまいち良く分からなかった。

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【キャスト・キャラクター】(※ネタバレあり)


小沢道成さんが1時間一人芝居を熱演し続けるその精神力と体力に度肝を抜いた。
特に小沢さんが出演しない場面はなく、1時間ひたすら舞台上で演技をし続けているので本当にこれはすごい、強者だと思った。舞台後半に向かって小沢さんが汗を流しながら、しのぎを削って演じている様子が、女性の自分を痛めつけながら男性に喜んでもらおうと必死で頑張る姿とリンクしていてとても素晴らしかった。

私は今回最前列で観劇したので、小沢さんとの距離が3~4mくらいしかなく最も近づくシーンでは1mほどしか距離感がなく、小沢さんの着物をたぐる時の風や着物の匂い、小沢さん自身の目の潤いや汗、息遣いまでが聞こえてきてとても生々しさを味わうことが出来て良かった。最前列で観劇できて良かった。

また小沢さんの細かい演技に着目すると、女役を演じる時の表情や身振り手振り、歩き方をとても意識していて物凄く稽古回数と研究を重ねているなと感じた。稽古回数の多さは、3台のラジカセと会話を合わせるという点でも感じた。
小沢さんの演技の印象はやっぱり目つきが上手いと思った。ちょっと引きつった感じのでも優しそうな目つきがすごく魅力があって好きだった。


【舞台の深み】(※ネタバレあり)


今作の舞台の深みは2つ、1つは「鶴の恩返し」というお伽話を現代社会に置き換えて男女の愛憎を表現した点、もう1つはラジカセ3台と着物10着を使って一人芝居をするという演出そのものである。

まず「鶴の恩返し」のような誰もが知っているお伽話をベースとして、現代社会に置き換えたストーリーを上手くのせるという手法は物凄く面白い発想だと思った。お伽話にのせることでストーリー自体も入りやすくなる上、ストーリーが訴えかけるテーマを普遍的なものにしている感じがした。
例えば今回ならどんなに愛し合う男女であったとしても、ちょっとしたお互いの思想の違いによっていとも容易く男女の仲が解れてしまう訴えかけを、お伽話と上手く絡めることで上手く表現できていると感じた。
ただ、前回観劇したDULL-COLORED POPの「マクベス」のように原作が訴えかけるテーマを現代人が受け入れやすく脚色している作品とは少し異なるように思えた。今回の作品は元になっているお伽話にそのような我々に訴えかけるテーマやメッセージは存在していないので。あくまで作・演出(今回なら小沢さん)が訴えかけたいテーマがあって、そこに「鶴の恩返し」を絡めたという形に見えた。

次にラジカセ3台による会話劇なのだが、この演出方法自体はとても新規性があって面白いのだが、今回の一人芝居で絶対に必要だったのかというとそうでもないような気がした。
例えば小沢さんが、一人二役で男性・女性を演じ分けても良い。それに加えて、中盤からいきなり今までラジカセからしか出てこなかった男性を演じ始めるのは、少し驚くしその意図も分からなかった。そういう意味で、演出方法と今回やりたかった内容のリンクが上手くいっていない気がした。
twitterの感想を眺めても同じ感想を持っている人がいなかったので、自分のフィーリングが正しいのかはよく分からないが。


【印象に残ったシーン】(※ネタバレあり)


一番印象に残ったのは、お伽話「鶴の恩返し」でいう鶴が機織りをする光景を除いてしまったシーンに対応する、女性が風俗で色々な男性と寝ることで高収入を得ていたと悟るシーン。音響と照明と衣装と小沢さんの演技が融合して、まるでクラブのような音楽の中に狂った女性がいるような何とも言えないインパクトの強いシーンだった。

個人的に好きだったのは、音楽に合わせて料理を作るシーンと、男性がラジカセからバイトをしながらバンドを続ける姿を歌にするシーン、そしてアメリカに行きたいと理由を語るシーン。
「バイトをしても家賃と光熱費で消えていってしまう毎日、でもバンドを続けたい」「アメリカに行けば、自分の知らない世界や価値観が広がっているので、今悩んでいることが実は大したことなくてどうでもよくなるのかもしれない、自分を変えられるのかもしれない」なんかグッとくるセリフ、刺さるセリフが多かった。確かにここは、ラジカセからの録音だから良かったのかも。

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