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早川町の移住政策と移住者とのかかわり

1. はじめに

 山梨県早川町は人口が 1000 人をきるという現状であり、人口減少の著しい町となっている。そのような問題を抱える早川町について興味関心を持ち、早川町内で生活を送る方々にインタビュー調査を行った。そこで状況改善の一助となるような移住政策が早川町に存在していることを知った。本レポートでは早川町の移住政策についての事前調査やインタビュー調査から得た気づきや、そこから考察した早川町の移住政策と移住者の関わりについて記述していく。

2.早川町の移住政策

 早川町について調べていく中で、早川町の重要な政策の一つとして山村留学制度があることを知った。山村留学制度の概要について、以前箕浦ゼミの先輩がnote記事に掲載した記事を参考に記述していく。

 早川町の山村留学制度は、早川町の小学校や中学校で子供を学ばせたいと考えている家族を受け入れる制度で、学校の生徒の人数が減っているため移住者を受け入れるという目的で平成13年に始まり、平成15年に初めての受け入れが行われた。子供だけが留学するのではなく家族で留学する仕組みで、利用する方は必ず1年在住して、その後は何年でもいることができる制度である。移住する際には、実際に町や集落の様子を見学したり、町民と交流したりすることができる。早川町に移住すると、費用の面や住宅の面で支援を受けることができる。子育て支援における費用の面では、修学旅行やスキー教室、問題集などの義務教育費は無償、学校給食費も無料となっている。また、義務教育が終了するまで子供の医療費は町が全額補助するかたちをとっている。そして、町で山村留学専用住宅や空き家の紹介をするなどの住宅支援もおこなっている。

山梨県立大学・箕浦ゼミ「早川町の山村留学制度」

 こういった制度が早川町には存在しており、現在も制度を利用して移住されている親子がたくさんいる。

3.インタビュー調査を経て

 早川町では多くの方々にインタビュー調査をさせていただいた。その中でも三人の方から聞いたお話を政策の観点から中心に記述していく。

3-1 早川町副町長へのインタビュー-行政の視点から-

 最初に早川町副町長からお話を聞き、移住政策について伺った情報を下記に記述していく。
 早川町の移住政策についてお伺いした所、2022 年4月から町政内で移住担当を設けて、より積極的に移住者を増やすために活動をしているそうだ。副町長自身も少子高齢化が進む早川町で移住・定住問題は必須であると、その重要性について語っていた。移住担当を設けて、まずは空き家の調査をし、利用できる・できないという判別から始めて、そこから空き家活用への道筋を探っている。また、各区長に移住者の受け入れ許可受諾の交渉を行い、早川町における移住者の存在の重要さを理解してもらおうと努力している。こ のような政策の中でも、空き家の改修工事に補助金として 50 万円を町から出すというも のがあり、特に空き家の活用に現在は力を入れている。町営住宅を増やしていくと維持費等のランニングコストが余計にかかってしまう恐れがあるため、町営住宅ではなく、空き家活用の考案に尽力している。
 山村留学制度についてお伺いした所、ほかの行政から視察には来るが、現在早川町で行っているような補助などはほかの町でも取り入られており、ほかの地域に比べ、オリジナリティが喪失し、どこか停滞しているように思うとのことだった。移住担当をつけることで新たな視点から、この窮地を脱しようと考えているそうだ。山村留学のメリットについて、この制度は町に定住する入り口となる、とお話しされていた。留学中に家を借りている際に、空き家の改修補助制度を活用し、空き家を購入し定住につながったという事例も ある。そのため、改修補助金の増額を検討している。移住者への支援と地元の人への支援のバランスを鑑みて、相互に理解していけるような政策立案をしていきたいとお話しされていた。
 最後に今後の移住政策についてお伺いした所、とにかく人を呼び込むことに重点を置いていきたいとお話しされていた。特に町の活性化に貢献できる事業の起業を目指すような人材を、地域おこし協力隊として町に呼び込んでいきたいと語っていた。

3-2 移住者へのインタビュー① ―移住者の視点から―

 次に早川町に移住された方にお話を伺い、同様に記述していく。この方は早川町で行われたツアーでこの町の魅力を感じ、山村留学制度を知り、東京から移住を決めた移住者世帯である。
 山村留学制度を知ったきっかけとしては、ツアーで知り合ったガイドさんで、そこから役場にお話を聞いたり学校や集落内など生活環境を見学したりしていたそうだ。実際に早川町に移住をして、町からは住まいの提供や教育費の無償化といったものを受けている。山村留学制度について、この方は住まいの少なさについて提言していた。移住者を増やす取り組みという中で、住まいの数が十分に比例していないので、今以上に住める場を増やしていくことが良いのではないかと語っていた。
 また、移住者同士のコミュニティについて、同じ政策を利用して移住された先輩方のサ ポートを受け、疎外感を感じることなく集落に馴染むことができ、安心して生活を始める ことができたとお話しされていた。行政だけでなく、同じ移住者からも多くの支援を受けていたようだ。
 最後に移住者視点から町に求めることを聞いた所、住まいと仕事と実に簡潔な答えが返ってきた。どちらも今よりも選択肢を増やしていくことで、より生活の幅が広がるのではないかと考えている。

3-3 移住者へのインタビュー② ―移住者の視点から―

 最後にもう一人移住者の方にお話を伺い、ほかの人と同様に記述していく。この方は起業する場所を探し、早川町に移住された。
 早川町への移住の際に、早川町を拠点とした特定非営利活動法人「日本上流文化圏研究所」と連携をとった、というお話を伺った。上流研では早川町の行政、各種団体から地域づくり関連の様々な調査研究や各種計画づくりを受諾しており、その中の一つとして移住相談事業『お試し暮らし』というものがある。お試し暮らしについて上流研の公式サイトによると、「地域に増え続ける空き家の管理や有効活用、また新たな地域の担い手確保の手だてとして、早川町への移住希望者の相談対応や、移住希望者が数ヶ月仮住まいし田舎暮らしのいろはを学ぶお試し暮らし施設の運営を、早川町役場から委託を受け実施しています。」と述べられている。この方のお話によると、住宅を三か月単位で借りることができ、上流研が不動産会社のような役割を果たし、家の紹介や大家さんとの仲介などを行い、移住者と早川との関わる機会を増やすことのできる制度であるそうだ。

4.移住政策と移住者についての考察

 ここからインタビュー調査を実施しての、行政と移住者の視点をそれぞれ比較し、早川町の移住政策と移住者とのかかわりについてどのようなものであるか考察していく。

4-1 移住政策の今後

 早川町の移住政策として上記でも述べた通り、早川町では山村留学制度以外にも様々な取り組みに尽力されており、また行政だけでなく上流研などの団体なども活動されている。 ツアーを開催するといった例もある中、このような多角的なアプローチで移住促進活動を行うことで、移住者にとっても早川町へ接する機会が増え、移住への一歩を誘うといったことを可能にしているのではないかと考える。しかし、空き家問題など、移住に関して多くの問題を抱えており、移住者に対して目に見えてわかるほどの問題解決には至っていない。行政と移住者の移住に対する問題意識は空き家問題である、と一致しているため、町民と役場でより一層協力体制を築き、問題解決に向け努力していく必要があると考える。空き家問題を解決すれば、定住を望む声が以前より上がると思うので、さらなる空き家調査の進展を願う。

4-2 移住政策と移住者のかかわり

 早川町では山村の魅力や地域に根ざした移住政策で移住者を呼び込んでいる。そのような中、この町での移住者は、制度や支援を利用した後はそれらに関与しないといった態度ではなく、移住者同士で結束し、行政では足りない部分を移住者同士で支え合ったり、政策に関して意見を持ったりしている。よって、早川町では、移住者・団体・行政の間で混ざり合った移住政策の実施を体現しているのではないかと考える。ほかの市町村とは異なり、移住者と行政または団体との距離が近く、そしてお互いの顔がよく見える距離の中で互いを理解しているからこその混ざり合った関係がうまれるのだろう。
 しかし、改善すべき問題や移住後の定住に向けてのサポートについての配慮など、まだまだ改善の余地はあると考える。良い政策だからこそ、ほかの住民も加えた町全体で改善して、よりよいものとし、これからの早川町にとって重要な存在となる移住者に寄り添う形にしていくべきだと考える。

5.おわりに

 これまでの一年間、早川町を対象とし、主に政策について興味関心を持ちながら活動をしてきたが、少子高齢化が進む中、ますます移住者などの外からの力が重要となってくると考える。早川町の移住政策は町の未来にとって重要なカギとなるものであるため、今後の動きにも注目しつつ、私自身の今後のゼミ活動にも、早川町でのフィールドワークから学んで得た経験を活かしていきたい。(担当:須川)


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