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建築家×CMのシナジー効果と役割 日本の建築を次世代につなぐ

日本の建築家の中で、今最も注目を集める藤本壮介氏と平沼孝啓氏をお招きし、建築家とCMが手を組むことで生まれる発注者にとってのメリットやそれぞれの役割、日本の建築を次世代へ継承するための取り組みについてざっくばらんに語り合いました。

〝若手にチャレンジの場を提供し、責任を取るだけです〟

平沼孝啓建築研究所 代表取締役 平沼孝啓氏
建築家。主な作品に、分棟型のシングルハウス 「時間の家」や、5年間とい う限定的な飲食店の解体プロセスを設計したリノベーション作品 「SOYA」、 東京大学のキャンパスに設計した間伐材による環境型木造建築「東京大学くうかん実験棟」などがある。コンセプチュアルな作品での実験的なデザイン提案が世界でも高い評価を受けており、日本建築士会連合会賞や日本建築学会作品選奨ほか、10カ国70を超える受賞歴がある。

―皆さんのご関係は?
平沼孝啓さん(以下・平沼) 友だちです! 藤本さんと丸山さんが同じ誕生日なので1年前から今夜の誕生会を予定していました。
藤本壮介さん(以下・藤本)丸山さんとは、大学のマスタープラン策定業務で初めてご一緒し、今まさに、大阪・関西万博や飛驒高山の学校などのプロジェクトをご一緒させていただいています。
丸山優子(以下・丸山) 平沼さんが担当されている「U-35」という若手建築家の建築展で、私どもに「サポートせい!」とお声掛けいただいたのがきっかけです。
平沼 ワハハ。僕らよりひと世代下の若い建築家たちにちゃんとバトンをつなぐような取り組みに伴走していただけませんか、とお願いしました。
丸山 素晴らしい取り組みだなぁと思いましたね。私は、建築は日本の十八番(おはこ)だと思っているんです。日本の建築の強さや美しさ、しなやかさなど、連綿と紡がれてきた世界に誇れる点がいっぱいある。昔に比べて建築の継承が難しくなってきた昨今、こういう取り組みにはとっても共感できたので、ご協力させていただきたいとお願いしました。同世代の建築家がどんなことにチャレンジしているのか、それが上の世代の建築家にどう評価されているのか―。うちの若い子たちにそれを見るチャンスを与えたいと思ったことも、支援を引き受けた理由の一つです。

35歳以下の若手建築家による建築の展覧会「U-35」。
山下PMCは2021年 から本展覧会に協賛している。
 藤本壮介建築設計事務所 代表取締役 藤本壮介氏
建築家。2014 年フランス・モンペリエ国際設計競技最優秀賞(ラルブル・ ブラン)に続き、日本やヨーロッパ各国の国際設計競技にて数々の最優秀賞 を受賞。主な作品に、ロンドンのサーペンタイン・ギャラリー・パビリオン2013 (2013年)、House NA(2011年)、武蔵野美術大学 美術館・図書館(2010 年)、House N(2008 年)等がある。現在進行中の岐阜県飛驒市の「Co Innovation University」(仮称)や大阪・関西万博などで山下PMCと協 働している。
「大屋根は1970年大阪万博へのオマージュ」
2025年に開催される大阪・関西万博の会場デザインプロデューサー を藤本氏が務める。パビリオンワールドの上に架かるシンボリック な円環状の大屋根(リング)は、完成すると世界最大級の木造建築になる見通しで、大阪万博へのオマージュが込められている。
提供: 2025年日本国際博覧会協会
持続可能な未来に向け、知のイノベーションと産業のイノベーショ ンを創出する新たな取り組み「Co-Innovation University」(仮称。2026 年4 月開学予定)。藤本氏は飛驒市のキャンパスの設計者を務め、 山下PMCは本プロジェクトのPMとして協働している。
©Sou Fujimoto Architects

〝建築の可能性が広がった現代。建築家の本気が問われている〟

―山下PMCにお声を掛けた理由は何でしょうか。
平沼 もちろん僕は若い頃から存じ上げていましたが、PM/CM会社を知らない若手建築家たちは、PM/CM会社は無理難題を押し付けてくる、コストカットされるのではないかと、斜めに構えてしまう傾向がありました。ところが、先輩の建築家の方たちから聞くと、むしろ助けてもらえるケースのほうが多いと口を揃える。実際、実績や完成した作品をみたり、クライアントに訊いたり、PM/CMの考えを知ると、皆さんとても優秀で、建築家だけでは気づかなかったことを教えてもらえるし、手弁当でやるよりもスムーズに事業が進むことを学びました。
藤本 プロジェクトの規模がそれなりの大きさになると、いろいろ複雑じゃないですか。クライアントさんも自分でハンドリングするのは大変だし、分からないことも多い。設計者も設計視点から見える部分の外側に広がっている建築プロジェクトの全体像ってなかなか把握し切れないんですよね。
そうやって分からない者同士でやっていると、うまく意思疎通できなくなって、相手が悪いんじゃないかと思ってしまう。そこで、一歩引いて俯瞰して見てくれるPM/CMさんがいると、整理整頓していただいた上で、クライアントの思いと僕らの設計の意図をうまく擦り合わせてくれるので助かりますね。
しかも建築のことも分かっているから説明が的確で、さらに施工のこととかスケジュールのこととか、それこそ資金集めのことまで含めて全部並走してくれる。
1回実感してみると、PM/CMさんなしにはプロジェクトは進まないよね、と考えるほど頼りにしたくなるんですよ。
丸山 うまく回せるようにマネジメントするのが我々の仕事ですが、単にスケジュールや予算を守ればいいわけではないんです。建築家に依頼するクライアントも、ただ四角い箱をつくればいいと思っているわけではなく、彼らが持っている課題や「こうありたい」という思いがあって、それに対する答えを楽しみにしているわけです。出てきた答えをきちんと理解し評価できなければ適切なマネジメントはできない。
「予算がかかり過ぎるからやめましょう」じゃなくて、「他を削ってでもこれだけはやらなければ」とか、「ここを残さないと藤本壮介に頼んだ意味がないですよ」と言えなければいけない。逆に、建築家の解に対して「それではクライアントの想いを叶えられない」と確信できるのであればしっかりと議論ができるような人材を我々も育てなければならないという思いが強いんですよ。

株式会社山下PMC 代表取締役者社長 社長執行役員 丸山優子
大手建設会社を経て、山下PMCに入社。ホテルや医療、MICE施設の建築においては、マーケティング調査、事業性検討、 コンセプト立案等、事業の川上から提案を行い、プロジェクトを牽引。また、グローバル部門を立ち上げ、事業拡大に貢献した。2022年 1月28日、代表取締役社長に就任。

〝建築リテラシーを底上げする教育を提案したい〟

―ひと昔前と現在、建築家を取り巻く状況に変化を感じますか?
平沼 以前は『建築文化』や『SD』という雑誌がありました。第一線建築家から学生までが読み、議論する時代が60年以上続き、雑誌は若手建築家の発表と発掘の場にもなった。ところが2006年頃から休刊が相次ぎ、僕らは若手建築家の価値を見失いました。そこで、藤本さんとファウンダーと
して取り組むようになりました。U-35は若手の発表、新たな価値を位置づける議論の場を設け、トライ&エラーを経験してもらう場になればいい。僕らは機会を設け、本人もまだ気づかなかった批評性や、価値を見出してあげるくらい。若手の意欲や挑戦を盛り上げ、最終的な責任はこちらが被る、くらいの気持ちでいます。
藤本 私もトライ&エラーが大事だと思います。「面白かったね」「あんまりうまくいかなかったね」っていうのを繰り返していかないとダメだと思うんです。よく言われていることですが、日本って一回コケると大変なことになって、抹消されちゃったりするじゃないですか。あれが社会全体を萎縮さ
せていると思うんですよ。まずはチャレンジできる土壌やチャンスをつくっていく。我々は、せめてしょうもない失敗をしないようにサポートして、あとはトライ&エラーで成功体験がつながっていくといいと思うんですよね。
平沼 藤本さんは伊東豊雄さんに、僕は安藤忠雄さんに、つまり上の世代の方に可愛がってもらったんですよ。それを僕らの世代でやめちゃダメかな、という思いも重なります。
藤本 最近は建築家が活躍できる場が広がってきている気がしています。一昔前は、良くも悪くも建築コミュニティの中で濃い議論をして建築が成立していた部分があったんですが、今は、以前のビジネスモデルや成功の延長線上に何かあるという時代ではなくなりました。
クライアントさんも「なるべく安く格好良く」ではなくて、「本当に必要なものは何かを一緒に考えてくれる建築家に相談しながらつくりたいな」みたいに変わってきているんですよね。それが多様化にもつながっている。
単に建築の話だけでなく、公共空間の意味とか、学びの場とか、あらゆるカテゴリーが、その先を新しく創っていかなければいけない時代。さらに気候変動やらサスティナビリティやら、色々なことが複雑に絡んできていますよね。だからこそ、建築家の想像力とか提案力とコミュニケーション力が生きると思っています。また、一緒に考えていけるクライアントさんが増えている気がしています。
丸山 一緒に考えてくれる建築家が増えてきているとも言えますね。
先日、建築史家の倉方俊輔先生が、初等教育に〝建築の鑑賞学〟を取り入れるべきだとおっしゃっていたんですよ。そうすれば、日本の建築の世界は大きく変わるんじゃないかって。
平沼 それ、いいですね。
藤本 いいですね。小学校の図画工作の教科書に建築ページがあれば、裾野が広がりますよね。クライアントの裾野も広がるし、建築をやりたいっていう人の裾野も広がる。社会を構成するみんなのベースに「建築って大事だよね」という気持ちが宿れば、社会全体が盛り上がりそうです。

  • チームを組むメリットと術を教える
    広範囲の人材が絡む建築プロジェクトこそ個々人が得意分野に専念できるようチームが大切であることを教える。

  • 若手がチャレンジできる機会を設ける
    トライ&エラーを重ねることでのみ成功体験がつながっていく。若手に機会を与え、責任を取るのが先達。

  • 建築リテラシーの底上げを図る
    小学校から“建築の鑑賞学”を取り入れ、社会を構成する老若男女に「建築って大事」という意識を醸成。


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