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No.131 『松風』 風流さにインパクトを

「松風」の個人投資家向け会社説明会を視聴しました。通常の決算説明会とは異なって、会社の概要や市場の動向、今後の戦略に多くの時間を割くのが個人投資家向け会社説明会の良いところですね。企業に初めて接する投資家・アナリストには実にありがたい。大半の説明会で経営のトップが説明してくださることも、企業に対する定性的な評価に立体感を与えてくれます。

松風の読み方は「まつかぜ」ではありません(事業再生のコンサルに「まつかぜ」と読ませる同名の企業があるようですが)。正しくは「しょうふう」であります。なんとも風流な響きですね。京都の東福寺からほど近い場所に本社を構えていることもあって、老舗の高級旅館や和菓子屋に間違えられることもあると根來(ねごろ)社長が苦笑交じりに話していました。社名の起源には触れられませんでしたが、調べてみると創業者の姓からどうやら来ているらしい。

余談になりますけれども、松風と同じような業界に身を置く企業に「マニー」があります。創業者が「松谷(まつたに)」というお名前でして、小さい頃のあだ名に社名は由来していると本人から昔うかがいました。そういえば、同じく似たような分野に属する「ナカニシ」も社長の名前が発祥だったような。マニーもナカニシ も過去に雑感を書いていますので、興味のある方は下にあるバックナンバーのリンクをぜひクリックしてみてください(すみませんが、開けない場合はご連絡いただけますと幸いです)。

松風の主要な事業は歯科器材の製造販売になります。読者の中に総入れ歯の方はいらっしゃるでしょうか。「Yes」と答えた方、知らない間に松風のお世話になっているかもしれません。あるいは、歯周病を予防するため歯科医院で定期的にクリーニングされている方はいらっしゃるでしょうか。「Yes」と答えた方、知らない間に松風のお世話になっているかもしれません。

松風が手がける歯科器材は約2万種類にも及びますが、代表的な製品をあげるならば、歯科用シリコーンや石膏、超音波治療器や研磨ペーストなどでしょうか。販売先は基本的に歯科医院、つまりBtoBですから、家族や親族に歯医者がいるか、よほどの歯科マニアでない限りは松風の製品を認識することはまずないでしょう。ホームケア商品も取り扱っていますが、こちらの販路もドラッグストアではなく歯科医院。たとえば、液体ハミガキ(マウスウォッシュ)の製品名は「ハピカエース」と呼ぶそうです。小林製薬に匹敵するほどの何とも分かりやすいネーミングではありませんか。

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松風という企業自体に興味のない方でも、歯科医療機器に関連する企業を担当している方はいらっしゃるかもしれないので、参考までに市場動向をお話ししておきましょう。世界の歯科医療機器の市場規模は305億ドル、日本円で約3兆1,000億円になります。過去5年間の平均成長率(CAGR)は+4.9%ですから、そこそこの成長市場といったところでしょうか。

最大市場はやっぱり米国。市場規模は1兆3,000億円ですから全体の4割強を占めています。加えて成長率でもナンバーワン。CAGRは+7.7%と抜きん出て高い伸びを見せています。経済成長と人口増加が続く異形の大国は歯科分野でも存在感を大いに発揮しているのですね。一方で、何かと勢いのある中国はといえば、市場規模は1,300億円と米国の10分の1。だがCAGRは+16.7%。成長余地は十分に残されているといった感じです。そして日本。市場規模は2,200億円、CAGRは+3.2%。エレクトロニクス機器における日本の存在感が低下しているのと比べれば、医療機器の世界ではまだ競争力を維持していると言えなくもない。ただ、世界の平均成長率をアンダーパフォームしていますからね。油断はできません。

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アナリストとして見た場合、松風に対する評価は「ニュートラル」でしょうか。強く推奨する材料には欠けるかもしれません。2021年3月期の業績見通しは、売上高233億円(前期比▲11%)、営業利益17億円(同▲22%)。減収減益はさておき、営業利益率が7.4%というのはちょっと物足りない。マニーやナカニシが20%を超える高い収益性を確保していますから。同じ歯科医療関連ながらも製品の付加価値に大きな差があると言わざるをえません。また、歯科器材に次ぐ柱がネイル事業(ジェルネイルなどの材料)というのもインパクトにやや欠けるように思います。実際、アナリストのカバレッジもいちよし経済研究所くらい。しかもレーティングは付与していません。

資本業務提携した三井化学とのシナジー効果が国内で予想以上に表面化しているとか、米国や中国などの海外市場の開拓が力強く業績を牽引しているとか、松風が独自に取り組む攻めの戦略がわかりやすく結果につながることがポジティブな評価には必要かもしれないですね。

極私的な話ですが、近所の歯科医院で半年に一度のクリーニングを週末に予定しています。若い女性の歯科技工士にいつもは意識が向きがちですが、今回は器材や機器の製品名をちらり盗み見てこようと思いました。

今回も最後まで読んでいただきありがとうございます。

注:図表は松風の個人投資家向け会社説明会資料より抜粋

無名の文章を読んでいただきありがとうございます。面白いと感じてサポートいただけたらとても幸いです。書き続ける糧にもなりますので、どうぞよろしくお願いいたします。