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No.135 『パナソニック』 片山CSOの知られざる一面

パナソニックの常務執行役員でCSO(チーフ・ストラテジー・オフィサー)の片山栄一さん(54歳)は、わたしが株式運用部でお付き合いをいただいていた人物のひとりです。当時は野村証券で民生用エレクトロニクス(民エレ)業界を担当するアナリストでした。同じアナリストを名乗るのが申し訳ないくらいにあらゆる意味で格の違う人ですが、機関投資家としての当社の影響力を背景に仲良くしていただいていた次第です。実にありがたい。

優秀なアナリストというのは、その能力がセクターに必ずしも紐づかないと思います。すなわち能力に普遍性がある。物事の本質に光を当てることのできるアナリストは、どのセクターをフォローしても業界及び企業分析のクオリティが非常に高い。あるいは一定のクオリティに達する時間が極めて短い。まさに片山さんはそんな人でした。野村証券ではもともと紙・パ業界を担当しており、日経金融の人気アナリストランキングは常にトップ。そこに当時の民エレ担当者の異動話が持ち上がり、片山さんがその後を任されることになるのですが、畑違いのセクターにもかかわらず、わずか数年で一位を獲得するに至りました。たとえるなら、俳優の世界でトップクラスの福山雅治が、アーティストの世界でも名を馳せているのと似ています(ちょっと違うか)。

片山さんが評価された理由はどこにあるのか。それは、さまざまな業界データから自分なりのシナリオを紡ぎ出す能力。これに尽きると思います。いわゆる「Information」を「Intelligence」に昇華させるのが抜群にうまい。稀代のストーリーテラーであります。プレゼンテーション能力も超サイコー。言葉がスッと心に入ってくる。MITでMBAを取得した輝かしい経歴はダテでありません。「片山さんが推奨するなら買っちゃおうかな」。そんなファンドマネージャーも決して少なくなかったと思います。

平凡な身なりのアナリストが多い中で、片山さんはオシャレにも抜かりなし。ちらりと見えたスーツの裏地に「ハッとしてグー」したことがあります。ある時は鮮やかな紫紺、またある時は華やかな真紅。一般的には、短ラン・ボンタン・裏ボタンの「ビーバップ」な人たちが好むような色合いを、片山さんの優れたIntelligenceがファッショナブルなカラーへ見事に引き上げておりました。かといって、かつて藤原紀香と付き合っていた元UBS証券の乾(いぬい)さんほどに近寄りがたいオーラを放たないところもまた好ましい。

一方で、単なるスーパーエリートサラリーマンでないところも片山さんの魅力です。冷静でありながら熱血。RationalでありながらEmotional。まるで冷と温を自在に切り替えられるペルチェ素子のようなキャラクターといえます。また、ワークライフバランスにも熱心でした。第一子の誕生から10年目に生まれた二人目の育児には積極的に参加されておりまして、2010年頃からすでにリモートワークを実践されていたと記憶しています。まさに「時代を先取るニューパワー」。

さらに別のエピソードになりますが、片山さんが通っていた中学校は、わたしの出身地である東京都練馬区の公立学校でした(つまり「練馬大根ブラザーズ」。同窓生ではありませんが)。そこは地元でも名の知れたヤンキーな学校で、それこそ校舎のガラスは至る所で割れている。卒業生がバイクでグラウンドの砂ぼこりを巻き上げる。まさに「スクールウォーズ」を地で行く学舎でした。そのような環境の中で、片山さんは「不良少年」ともうまく付き合いながら、志望していた有名私立高校(確か慶應志木だったと思いますが)に進学したと本人から聞いたことがあります。スーツの華美な裏地は、中学時代の友へのオマージュなのかもしれません。

アナリストから事業会社への転身には、はたから想像できないほどの苦労もあるでしょう。片山さんが主導したとみられる持株会社制への移行についても、一方で「経営陣による意思決定のスピードアップが期待できる」、他方で「事業の競争力強化への具体的な施策が見えない」など、パナソニックをフォローするアナリストの間では評価が分かれているようです。個人的な感想としても、アイデンティティの確立が課題と思われる同社にとって、経営体制の大胆な見直しは必要条件であっても十分条件ではありません。それでも、「とにかく行動してみる。そしてダメなら軌道修正する」的なマインドセットをパナソニックから何となく感じ取れるようになったのは決して小さくない変化だと思います。がんばれ、片山さん。陰ながら応援しております。

今回も最後まで読んでいただきありがとうございました。


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