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No.129 『幸楽苑』 一見の印象

幸楽苑ホールディングスの決算説明会を動画で視聴しました。アナリストとして幸楽苑に特別の思い入れがあるわけではありません。一般消費者としてお店を利用させていただいたこともありません。ただ、なんとなく面白そうと思い、説明会ののれんをくぐった「一見さん」であります。

「幸楽苑」。改めて社名に意識を向けると実に良い響きですよね。「幸せで楽しい」。まさに人生の「パーパス」が一言に集約されている。それにしても、ラーメン屋の店名に「幸楽」が多いと感じるのはわたしだけでしょうか。TBSのテレビドラマ「渡る世間は鬼ばかり」の舞台もたしか「幸楽」でしたよね。ラーメンの黎明期に「幸楽」と称する店が隆盛を極めて全国に派生したのでしょうか。ちなみに、幸楽苑ホールディングスの場合、創業者の新井田傳(にいだつたえ)会長が若い頃に修行した中華料理店「幸楽飯店」に由来しているそうです。

2021年3月期の上期業績が大きく落ち込んだことは改めて言うまでもありません。4月から9月までの売上高は129億円(前年同期比▲37%)、営業損益は12億円の赤字(前年同期は9億円の黒字)。中間配当は前期の10円から無配に転落、今年5月から7月までの3か月間の会長と社長の役員報酬は半分に減額されました。

数字だけを見るとたしかに厳しいのですが、動画を通じて感じ取れる新井田昇社長の波動は決してネガティブではありません。会長の息子である社長の生年月日は1973年8月2日。わたしと4日違いの同級生であります(友だちという意味ではありません)。見た目が老けている、いや実に貫禄がある。動画の印象はどう見ても50代後半です。900人近い社員をグループに擁し、24時間365日、「会社丸ごと」を相手にしている経営者の風貌とはかくあるものなのでしょう。気ままにnoteへ投稿している担当者とはワケが違う。

「ピンチをチャンスに」は知識として理解していますが、それをいざ実践するとなると非常な精神力を要するように思います。新井田社長はあらゆる心理的なブロックから解放された次元の高い人物なのでしょう。新型コロナウイルスの前に思考を停止させることなく、「イートイン型の外食業態から、AIやテクノロジーを活用した『総合食品企業』への変革を目指す」と宣言しています。すでに実践している具体例を挙げますと、

① 「からあげ家」の併設やドライブスルーの導入によるテイクアウトの需要掘り起こし(「からあげ家」はコロナ以前から準備していた構想、社長の先見性が光る)
② 朝食事業の開始による新たな時間帯と顧客層の開拓(「朝からラーメン?」、安心してください、ヘルシーな「お粥」も用意していますよ)
③ 配膳ロボットやタブレットの投入による店舗運営の効率化(これをもって「AIやテクノロジーの活用」を意味するならやや大げさな気はしますが)
④ デリバリー網の拡充による個人客のみならず法人客の獲得(おかもちによる出前はまさにラーメン屋の原風景)

このような一連の企業の取り組みに対して、とかくアナリストは「当たり前」と思いがちのように感じます。でも、決して当たり前ではないですよね。ヒト・モノ・カネを動かしにいくわけですから。みずから選択し、リスクを取るわけですから。アナリストはもちろん経営者ではないけれども、経営者の決断と行動の背景にある思いを想像する努力に不真面目であってはならないなと改めて自戒しました。

ところで、幸楽苑の六本木店が12月31日で閉店するそうです。コロナによる業績不振が原因というよりも、土地所有者の事情が背景にあるとしていました。幸楽苑が首都圏でのプレゼンスを高めた象徴的な店舗だけに、閉店を告げる社長の表情にも無念の色がにじんでいましたね。幸楽苑ファンの皆さんはぜひ足を運んでみてはいかがでしょう。

今回も最後まで読んでいただきありがとうございました。


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