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No.128 『本社にまつわる話とか』

これは本当に雑感なのですが、本社にお金をかけない企業を投資家は評価する傾向が過去にはあったように感じます(今でもあるのでしょうか)。
「えっ、このシャビーな建物が本社なの?粗末なたたずまいがたまらなくイイねえ。サイコー!」。
外食業や小売業であれば店舗に、製造業であれば工場にお金をかけるのが本道であり、基本的に利益を生まない本社にはできるだけコストをかけない企業こそが望ましい。

実際、2000年代の初頭に株式市場から高く評価されていたワタミとヤマダ電機の本社を訪問したことが当時あるのですが、いずれもびっくりするほどに簡素な建物であったことを覚えています。ワタミの本社はドリフのコントに出てきそうな安普請。社員が見渡せる間仕切りの一切ない部屋で、当時の社長である渡邉美樹さんがフツーに仕事していました。ヤマダ電機の本社はとにかく薄暗かった。来客を迎える受付の蛍光灯が消えている。たしか応接室もなかったのではないでしょうか。社員が働く横のスペースで声を潜めて取材させていただいた記憶がうっすらと残っています。

一方で、「贅沢な本社に引っ越したら業績はピークアウトする」、そんなジンクスも当時は聞かれました。たしかに一笑に付すことのできない真理かもしれません。大きな株価ボードで有名な八重洲口の常和八重洲ビル(現在はユニゾ八重洲ビルと呼ぶそうですが)。このビルから新川の巨大なタワーに移った山一証券はまもなく姿を消し、その後に常和八重洲ビルに移転した和光証券(わたしの社会人原点)は数年後にみずほ証券へ吸収されてしまいました。

東京駅の八重洲口といえば、わたしが勤める信託銀行の受託部門がグラントウキョウに移転した時でしょうか、日本電産の永守会長が来社された際、同社を担当するアナリストにこんなことをおっしゃったそうです。
「こんな立派なビルに移って御社もこれでオシマイですなあ、ガハハハ」。
わたしの脚色がかなり色濃く投影されているかもしれませんが、経営統合を契機に本店ビルをリニューアルした後もわたしの信託銀行は現在もなお勢いを失っていない(?)わけですから、さすがの名経営者の予言も大きく外れたと申し上げてよいでしょう。まあ、ジンクスはあくまでジンクスですし。そもそも、2003年に巨大な本社ビルを京都市に新設した日本電産だって、それから20年近くも最高益を更新しつづけているわけですし。

言うまでもないことですが、本社が貧相であるか豪華であるか、それ自体は企業の優劣とは直接的に関係ありません。本質的に重要なのは、そこに競争戦略上の論理的な必然性があるかどうかではないでしょうか。なぜ貧相なのか。外食の競争優位を決するのはあくまでフロアである。なぜ豪華なのか。社員のクリエイティブを最大限に発揮する環境づくりこそが他社との差別化の源泉となりうるから。優れた企業には「なるほど」と思わせる理屈が「いちいち」「ちゃんと」あるように思います。それがストーリーということなのかもしれません。

組織の形態もそうですよね。事業部制が良いのか持株会社制が良いのか。制度自体の優劣を論じるだけでは非常に表層的な話に終わってしまうでしょう。みずからが描いた競争戦略の延長線上に望ましい組織の議論は位置づけられるべきです。こんなことはあえて申し上げるまでもないことですが、本質的な事業戦略と対峙することを回避して、とかく制度論にばかり気を取られている企業がどうも少なくないように感じられるのはわたしだけでしょうか。

とはいえ、在宅で仕事と向き合わなければならないのに、なぜか部屋の整理にばかり集中してしまう・・・そんなわたしがエラそうに言えた義理ではないなとも思います・・・

今回も最後まで読んでいただきありがとうございました。


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