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No.122 『世界シェアのまとめに思うこと』

8月13日の日経新聞電子版に2019年の世界シェアをまとめた記事が掲載されていました。すでにご覧になった方も多いのではないでしょうか。シェアの調査対象は全部で74品目。「音楽ソフト・配信」から「シンジケートローン」まで実にバラエティに富んでいます。いずれも日経新聞が独自に調査したデータでは必ずしもありませんが、わたしたちが普通に手に入れようと思ったら各種の調査機関にお金を払う必要のあるものばかりなので、こういったまとめ記事は非常にありがたい。しかも74品目が全てグラフ化されている。まさに言うことなしであります。

基本的には日経の記事だけで事足りるのですが、調査対象の74品目の中から、アナリストとして長く関わってきたエレクトロニクス業界に関連する16品目のシェアをパワポに並べてみました。ちなみに、同じ16品目で2018年版も過去に作成していますので、1年の変化を確認されたい方はそちらもぜひ参照してみてください。

エレクトロニクス業界のシェアを眺めて、嘆息混じりに感じることはただひとつ。「それにしても日本企業の存在感が薄くなったなあ」。とりたてて新味のある感想ではありません。きっと皆さんも同じように思われていることでしょう。ただ、主要製品の上位にアメリカと中国の名前がずらりと並ぶ姿を実際に見るにつけ、なんとなく想像していた日本企業の競争力の低下を改めて体感的に理解させられますね。

もちろん、ネガティブな話ばかりではありません。必死に探せば日本企業が競争優位を確保している分野を見つけることもできます。代表的な品目がCMOSセンサーでしょう(「エレクトロニクス業界の世界シェアまとめ(2019年)」4ページ参照)。「電子の目」と表現されるCMOSセンサーの市場は、スマホや監視カメラなどの用途を中心に2ケタの成長が続いています。その中でトップを誇るソニーのシェアは53.5%。2位のサムスン電子が18.1%ですから、ぶっちぎりで首位を快走しているといっていい。しかも、ソニーのシェアは2018年と比べて約3%ポイント上昇しています。市場の成長とシェアの上昇のダブルの恩恵に与っている製品分野は日本企業にとってそう多くはないでしょう(例えば複写機は日本企業の独壇場ですが、残念ながら市場が縮小傾向。各社のシェアが上昇しているともいえません)。イメージセンサーの技術を1970年代から地道に蓄積してきた努力が、CMOSセンサーにおける今のソニーの地位を形作っていると考えられます。

ただ、ソニーに対して個人的に不満がないわけではありません。CMOSセンサーが知覚したデータは結局、スマホメーカーやプラットフォーマーが所有することになります。デバイスメーカーとして生きることを決めたソニーの決断自体は称賛されるべきでしょうが、ビッグデータを活用して新たなサービスを生み出すGAFAのようなスケールの大きさというのは残念ながら感じられません。あるいは、わたしがただ無知なだけで、単なるデバイスメーカーにとどまらないワクワクするストーリーをソニーはすでに考えているのでしょうか。

世界シェアのまとめを眺めながら、日本企業の再興への打ち手を夢想するのも面白いかもしれません。

無名の文章を読んでいただきありがとうございます。面白いと感じてサポートいただけたらとても幸いです。書き続ける糧にもなりますので、どうぞよろしくお願いいたします。