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No.108 『ファンケル』 難局に発揮される企業のクオリティ

(問題)新型コロナウイルスのマグニチュードが相対的に大きい業種といえば?
(解答)①百貨店、②航空・鉄道、③宿泊・観光、④飲食、⑤テーマパーク、⑥映画、⑦広告

問題形式で提示するのは、関連する業界の方々に失礼かもしれない。足元における百貨店の売上高は前年比で30〜40%減少しているほか、飛行機の乗客数は80%の落ち込みとなっている。映画館の入場者数に至ってはほぼゼロだろう。また、YouTuberの広告収入も半減と言われている。

多かれ少なかれ影響を受けるのは必然として、5月7日に決算を発表したファンケルの業績は比較的しっかりとしている印象を受けた。優れたディフェンシブ性をセルサイドのアナリストも評価しているようである。外部環境の悪化に対する事業構造の耐性力もさることながら、変化に対する経営陣の柔軟かつ迅速な対応力も大きいのではないかと思う。

2020年3月期の業績は売上高1,268億円(前年比+3.5%)、営業利益141億円(同+14.0%)。通期で2ケタの増益を確保したのは立派である。4Qの業績だけを取り出すと、売上高280億円(前年比▲3.7%)、営業利益16.5億円(同▲4.1%)。さすがに減収減益ではあるが、マイナス幅は小幅と言っていい。

販売チャネルの4割を通販で稼ぎ出す。主力の化粧品事業では生活必需品のスキンケアが売上高の8割を占める。そして、「無添加」と言えばファンケルというブランド力。相対的に堅調と思える業績の外形的な理由はこの3つにまとめることができそうだ。

2021年3月期の業績見通しは売上高1,270億円(前年比+0.1%)、営業利益145億円(同+2.6%)。先行きの不透明感を理由に会社計画の発表を見送る企業が少なくない。そんな中でファンケルは業績見通しを開示した。しかも増収増益で。「増益計画はポジティブ」というアナリストの短絡的なコメントには脱力だが、中計の最終年度となる今期の業績を是が非でも減益に転じさせないとの会社側の強い意志が感じられる。

個人的に目を引いたのが、業績予想の定性的な前提を四半期別に開示していることだ。
1Q:「直営店舗は5月まで休業、6月には営業を再開するが、売上回復は道半ば。流通は6月から徐々に売上は回復するが道半ば」
2Q:「国内売上は、直営店舗、流通ともに徐々に回復し、8月には前年水準へ」
3Q以降:「国内売上は、直営店舗、流通ともに前年を上回る水準まで回復。インバウンドは航空機の運行再開により、徐々に回復。4Qに正常化」

ファンケルの描いたシナリオ通りに回復するとはもちろん限らないが、業績予想の組み立て方がより深く伝わってくる。この類の開示はアナリストの大好物だ。期中の計画進捗を見極めやすいからである。また会社側にとっても、仮にシナリオから現状が外れた場合、軌道修正するための打ち手が迅速に講じやすくなるだろう。

増益計画は単なる意志の表明にとどまらない。実現に向けた行動も伴っている。2月以降、役員と組織長で構成される危機管理委員会を週に3回の頻度で早朝に開催し、情報の把握と対応の検討を継続しているようだ。また、国内のチャネル戦略も大きく見直し、直営店舗の顧客を通販に誘導する方策が積極的に講じられている。もちろん、コロナ対策の新商品の投入も抜かりない。抗菌と保湿に優れたハンドローションやハンドソープを開発中だ。

もうひとつ触れておきたいのは従業員支援と社会貢献に対する取り組みである。通販の電話窓口スタッフに「特別慰労手当」として月額平均で1万5,000円の支給を決めた。企業も人も苦境の時ほど地が出るものだ。「人材」を「人財」と表現しながら、業績が悪化すると直ちに人員を削減する企業とファンケルは一線を画しているように感じた。

社会貢献の実践はコロナと戦う人への支援である。医療関係者に1万枚、保育士に10万枚のマスクをそれぞれ提供する計画だ。また、やや変わり種として、看護職の人たちには「マイルドクレンジングオイル」を創業者の池森賢二氏から1万本、ファンケルから1万本それぞれ提供するとしている。ESGの観点からも評価されるポイントであろう。

長くなったので今回はオチもなく終わることにしたい。

無名の文章を読んでいただきありがとうございます。面白いと感じてサポートいただけたらとても幸いです。書き続ける糧にもなりますので、どうぞよろしくお願いいたします。