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ニジェール川と村上春樹

『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』を初めて読んだのは、ニジェール川の上流にある村に一人短期滞在していたときだった。

詳細までも覚えていないが、2つの世界が同時進行するその物語と、自分の今置かれている世界が少しシンクロしていた。膠着状態を脱するための一歩を求めていたのかもしれない

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電気や水道などは一切ないその村での生活はとっても静かなものだった。
朝、にわとりの鳴き声とともに起き、村を囲むように流れているニジェール川の上流へ、洗濯物のバケツと自分の着替えをもって出かける。毎朝沐浴する場所の近くには、主食となるキャッサバが大量に干されていた。時たま、すれ違う子供には「中国人」とからかわれたりもしたが、「お早う」と私が知る数少ない民族語を大きな声で返していた。

日中は近所にすむメリーアンという女の子が妹の子守りをしながら遊びにきてくれた。その村のリズムや歌や踊りを教えてもらったり、村のマーケットまで連れて行ってもらったりした。

午前中は昼の炊事のお手伝いをしに、知り合いの集落にいく。乾燥させたキャッサバを臼と杵のような道具で粉々にし、水を加え熱しながらひたすら練り続け「トウ」というもちのような主食をつくる。便利な炊事家電はもちろんないため女性たちは朝から働き者だった。町に出稼ぎしている男性が多いと聞いており、村に残っている男性は家づくりなど力仕事をしていた。ただ、たまにコーヒー屋さんで日長たむろしている男性もいて、この人たちが何を生業としていたのかは未だ謎である……

家は土壁と藁でできており、丸いフォルムがとても可愛いらしかった。ひんやりとした家の真ん中にマットレスと蚊帳が置いてある。夜7時過ぎには暗くなり、街灯のないその村をひとりで歩くにはヘッドライト1つでは頼りないため、夜はもっぱら、真っ暗な家の中でヘッドライトをつけながら本を読んだ。

私の家にはハチの巣がいくつかあった。ここでの生活はきっと皆、ハチとも共生しているんだろうな~となぜか疑うことをせず、眠りにつくまでハチが飛び回っていても気にならないくらい、しばらくハチと共存生活をしていた。後に「いや、それは危なかったね」と村の人に言われ、村を去る1日前に撤去してもらった。

村で過ごしていると平日と休日という境目をあまり感じず、毎日やってくる生活がとても長く感じた。何をしたでもないのだが、私が体感したかったこちらの世界を知り、日本の生活に戻るときには、自分の中で一つ気持ちが固まっていた。どんな結末になっても後悔しないように動いてみようと。

膠着した歯車を動かした結果、1年後、円満に離婚をした。2人で決めた1番良い結論だったと思う。

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