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泥濘か酩酊か

あ、死ぬかもな。

5分前の喧騒の代償。頭が痛い。
頭が痛い、というのも今付け加えただけで本当はそんなの分かっちゃいなかった。
嗚咽もなく、アルコールが喉をとおって外へでる。
眩暈。感じたことがないほどの眩暈と、途切れそうになって暴れる意識。
無理、無理だ、無理。
なんでこうなった、なんでこうなってるんだろう。
みずだ、みず。水を飲まなきゃならない。
喉へ流し込もうとしてそれも吐き出す。
さけ、さけのあじがする。
飲めば飲むほど吐きたくてたまらなくなって、手洗いへ走る。
結局わたしは朝までほとんど水も飲めずに転がって、悪い夢にうなされて、寝て起きては寝れずに、のたうち回って過ごした。

あぁなんでこうなんだろう、こうなんだろうな。
こんなはずじゃなかった。少なくとも「我が家」はこうじゃない。
わたしはもっと、多分、もっと普通で、いい子だった。
何度も思い出すのは、小6の時、学校コンピュータ室で何気なくやらされた職業診断だった。
エンタメ的に書かされてきた「将来のゆめ」が具体性を持った「職業」という現実に変わっていったのは多分小学校高学年からだろう。
何になりたいですか。
この当時のわたしの夢はシンガーソングライター。
アイドルから曲を作り歌うことへとシフトチェンジした頃。
だから多分喜んだ。
PC上に表示されたわたしに向いてる職業は芸術や音楽方面だった。
でもね、違うんです、現実は。
どんなものがPC画面に表示されようと、とりあえず大学卒業を求められて、当たり前に正社員を目指す。それ以外道がないみたいに。
わたしも当たり前に高校へ進学して、それでも何かやりたくてもがいて、服飾学校へ4年通って、周りの「就活する」「正社員になる」雰囲気に気圧されてしっかり正社員になった。とりあえずなってやめちまえばいいぐらいの気持ちだった。いやその時点で正社員になるのを辞めて学生のうちから自分で活動すればいいだろって思うけど今は。
あの診断ってなんだったのかな。なんの意味があったのかな。
もうちょいまともに役立てられないかなと思う。
少なくとも、わたしみたいな人間に残された道は正社員を目指すことではなかったんだろうなと思う。
植え付けられた価値観がずっと、わたしのことをモンスターの様に思わせてならない。
ごめんね、ぱぱ、まま。わたし大人になれなかった。ちゃんと大人になれなかったよ。
携帯代も自分で払ってないし、それなのに税金や年金も滞納してる。何もかもから逃げたくて、逃げられなくて、仕事の連絡もうまく回らないし、さてどうしたらいいかな。
夢も投げ捨てしまった。諦めてなんかないけれど、夢がわからなくなってしまった。
でもね、もう、普通に就職して、とかはとてもじゃないけど無理な気がします。普通にはなれなかった。なれなかったなぁ。

ギリギリで仕事は続けつつ、ほとんどバイトで生計を立ててどうにか暮らしながら。
ねえこんな生活をどう思いますか。
洗いざらい話したいのに、こんなのは塞がねばならない。

田舎に暮らすぱぱやままが知らないようなとこに今はいます。どうにか多分幸せです。感謝してる人もいます。わたしが朝まで泣いて泣き止めなくて、それでも大丈夫だって働かせてくれる人がいます。
そんな人の話を、わたしは家族に塞がなければならない。
困ったなぁ、どうやって収拾つけたらいいの。

いつかはちゃんと食べれるようにならなきゃならないと思う。
でもわたしはまだ子どものまま、大人になれてなくて、労働を拒否して、でも誰かを幸せにしたいとは思ってて、世界がもっとよい場所になったらと願ってる。
けど、一日中PCに向かいながら、定時になるのを待ちながら生きることも、ただ洋服を売り続けて、明日も明後日も変わらない日々を過ごすのも、明日が明日のままなのを分かりながら、死ぬまでを暇潰すのも、ちょっと、かなり、つらい。
毎日見たこともない世界の扉を開けたくて、そんなのが嘘っぱちでそんなのは子どもの夢で、理想論で、わかってる、わかってるけど、わたしはまだ大人になれない。

相変わらずお酒は泥みたいな味がする。こんなのは泥だと思う。
調子に乗って飲んだショットもウイスキーも、目の前のあなたが笑ってるからなんか美味しいと思った。
わたしと出会った夜の全部にいつも感謝してる。でもね、やっぱまだ泥なんだ。
いつか、いつか。自分で仕事をとれるようになって、ステージ袖に漏れるライトを見たら、その時こそ美味いお酒が飲めるのかな。そうしたらやっと、わたしを溶かしてくこの泥みたいな時間全部を、胸張って話せるのかな。
早くここを出て、立派になって、いい時間を囲みながら、ありがとうって言いたい人がたくさんいるけれど、何もできないままわたしはどんどん燻って、どんどん腐って、そんな自分を肯定するような音楽や物語ばかり食んで、イカれてくことを格好いいと思うために、萎縮しないように。あぁこんな時間が、早く終わればいい。恥ずかしい時間が終わればいい。

絶つことはないな、ないだろうな。
でもそんな風に決めつけちゃうと、それこそもう生きてらんなくて、この酩酊の果てがおしまいだったらよかったのに。

当たり前に朝はきて始発電車に乗って、まだ酔っ払ったままの頭も体も、沈んでく気持ちも、全部シャワーで洗い流して、重たい荷物背負って出勤する。何食わぬ顔でわたしは朝らしい顔をする。
もたついた足やぬかるんだ時間が、全部嘘みたいに朝はちゃんと朝だ。
明るくて眩しくてたまらない。
こんなとこは、多分わたしの居場所じゃないな。
おやすみ、おやすみ、おやすみ。
言えるうちに、バイバイ。

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