高いギターを買った娘が誇らしい

私の可愛い娘が高いエレキギターを買った。

そもそも彼女はあまり物を欲しがる子ではない。小さい頃だってスーパーで駄々をこねることなんて皆無だった。うちが貧乏なのがばれてるんだろうかと思ったりして、私はお金もないのに余計に彼女の欲しがるものを買いたくなったけど、いらないって言う。本当にいらなさそうだし、本当に満たされてそうで、だからいらないって言うような子だ。

彼女の父親で私の夫もそんな感じ。遺伝かな。

でも、欲しいものがある時は一切迷わない。2人とも。

高くても安くてもあまり気にしないみたい。2人とも。高ければその価値があるって言うし、安ければお買い得だったって言う。そんな感じ。

私はというとケチケチしてて欲しい物でもすぐ我慢する。

そんな感じの家族なので普段はほとんどお金はかからないけど、時々高い物を買うという感じ。


娘は音楽が大好きで、毎日毎日色んな音楽をサブスクで聞いて、毎日毎日アコースティックギターを弾いている。アコギはなんとなくあった方がいいような気がして、子どもでも弾けるような小さいものを元々部屋の片隅に置いていた。それほど高価な物じゃないけれどしっかりしたギター。ピアノにははまれなかった娘はギターを手に取り、いつしか夢中で弾くようになった。

毎日毎日弾いている。何があっても弾いている。最初はろくに音も鳴らなくて、へたくそな私の方がうまく弾けるくらいだった。でも日に日にどんどんどんどんうまくなっていって、すぐに私を越えた。

そんな毎日の中で娘には欲しいエレキギターができた。めちゃくちゃかっこいいギターだけど8万円する。8万円というといいギターの中では安い方だろうけど、娘にもうちの家計にも高額なめちゃくちゃいいギターだった。

とても高いけれど、欲しがらない娘が欲しいというものはとても必要なものだという認識が私たち夫婦にはあって、よしそれじゃあ買っちゃおうという風に思った。でもやっぱり高いからできるだけ同じもので安いものを見つけるか、似たので安いものを見つけるかしようとケチな私は考えた。

夫は娘が欲しいものをそのまま買えばいいと言う。でも高いからね~って私は考える。この価値観の違いって些細に見えるけど、めちゃくちゃ大きい。

正直、私も出会ったギターをそのまま買う方がいいと思っている。だって欲しい時に買うなんて気持ちがいい。気持ちが途切れずにどんどん増幅していい感じに転がっていく気がする。変に水を差したくない。それなのに私は何とせこいことか。

私はそんな風にせこく迷っていたんだけど、それは私の取り越し苦労だった。娘が自分で買うと言ったのだ。

これまでろくに手を付けてないお年玉を使って買うと言った。どうしても自分で買いたいと言った。

自分の欲しいものを自分で買いたい。そこにもすごい価値がある。

そう思いながらも少しホッとしてるせこい私。

そんなこんなで娘はずっと欲しかったエレキギターをパパッと迷わず買った。買った後、顔は赤くなって声は上ずってた。それもそうだ。娘はこれほど高額なものを生まれて初めて自分で買ったんだから。

帰り道、嬉しくて嬉しくてたまらないという感じで買ったばかりのギターを背負う娘。なんてかわいくて素晴らしい娘だろう。そう思った。

この日のことは娘も私も夫も一生忘れないだろう。


お金は気持ちでもある。

私も音楽が好きで娘より2歳くらい上の時に、バイト代からギターを買った。私は気持ちがあれば何でもいいんだという感じで店頭で安売りされているギターを買った。確かにその通りでもあるんだけど、今思うともっと気持ちをお金にしても良かったかもなと思う。

手に触れられない気持ちと手に触れられるお金。手でギュッと握れるものと握れないものを私たちは響かせながら生きているから、もっともっと大きく響かせても良かったんじゃないかと思う。

気持ちだけじゃないしお金だけでもないから、どっちも。


娘は顔を赤くして大きく響かせたんだなと思った。

興奮しながら「もっともっと練習しよう!」とか、「ゆくゆくはどこかで弾き語りをアップしたい!」とか言ってストレートに響いていた。

探せば1万円安い同じギターがネット通販であっただろうし、オークションだったら半額以下のもあっただろう。娘が欲しがったそのギターのモデルよりもっと娘に適したものもあっただろうし、最高のギターを手に入れる方法は現代では無限にある。

しかし、有限の命の期間の中で、最高の時、最高の流れ、そっちの方がずっと貴重だ。「慎重に」とか言って大事な時を逃す方がやばい。

慎重に慎重に考えて探して、論理的に合理的にやろうとして最高の時や最高の流れを逃しまくってきた。最高の時の緊張感からうまく理由を付けて逃げてきたようにも思える。この期におよんでせこいことをやめないなんて罪だ。娘の気持ちのいいお金の使い方を見てそう思った。

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