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ドミナンス‪·‬ヒエラルキーの進化:支配者の論理、そして従属者が階層に服する論理。 #Domini ⑵ |エボサイマガジン

"「誰が支配すべきか」と訊かれたとき、「最高の人物」「最も賢明な人物」「生まれながらの指導者」という回答を避けにくいのはたしかだ……「最悪の人物」や「いちばんの愚か者」や「生まれながらの奴隷」による支配を提唱する人はいない。しかし、そんな回答は説得力がありそうに見えても、実は何の役にも立たない。" ────カール=ポパー『開かれた社会とその敵』




ドミナンス(支配力、優位性)────。


ドミナンスとは人類史の中で男たちが、そして女たちがたえず自らの手中におさめようと争ってきたものだ。争いのスケールは家庭内の支配権争いから一国の統治権にいたるまで、多岐に渡る。

支配的階層制は、少なくとも数千年前に農耕文明が興って以来、人類社会に存在しつづけている。最下層は奴隷だ。

たしかに名目上、21世紀の現在では、多くの国で地位制度や身分制度はすでに撤廃されているが、実態としてわれわれはヒエラルキー制度のもとで社会生活を営んでいる。医師や弁護士が高い社会的地位を築いているのは事実だろう。

ヒエラルキーはどこにでも存在する。
どこにでも? そう。ヒト以外の動物社会にも。

────重要なことは、地位/statusは、あきらかに人間特有の「文化」ではなく、「生物学」に起源するということだ。


このことを大衆に広く知らしめたのは、1967年に出版されて世界中でセンセーショナルな反応を引き起こした、動物行動学者デズモンド=モリスの著作『裸のサル/The Naked Ape』だったかもしれない。

残念ながら現在では細部の記述に関しては批判されているものの、人間の日常の社会的生態を「ヒトザルの生態観察」という見方から描き出すモリスのやり方は、その20年後に創始されこれまで発展を遂げてきた進化心理学と通底する。

進化論は、究極的には、人間たちが行うどんな日常の営みにも適用することができる。だが、研究したいテーマによって選ぶべきフィールドワーク先は異なる。

地位(ステイタス)や階層(ヒエラルキー)というテーマであれば、「軍隊」だとか、サラリーマンたちが日々働く「オフィス」をその観察フィールドに選ぶのがやはりふさわしい。

その理由は、オフィス環境では、人間同士の上下関係を決める役職や命令系統がわかりやすく定められていて、身分制が撤廃され平等主義の建前を謳っている民主主義社会においても、ヒトという霊長類がもつ階層的な本能が露骨に発現しやすい環境が整備されているからだ。

────たとえば「会社」という多くのサピエンスが所属する部族集団の中には、

社長、副社長、専務、常務、取締役、経理担当役員、監査役、本部長、本部長代理、部長、次長、副部長、支店長、所長、課長、係長、主任…

といったように、名刺の肩書きに基づいたドミナンス・ヒエラルキーが存在する。


────また「軍隊」という、社会のごく一部のサピエンスたちが所属する、他の部族に対し武力行使を実行するために集められた部族集団の中には、よりわかりやすい上下関係が存在しており、旧日本軍の場合は、

大将、中将、少将、大佐、中佐、少佐、大尉、中尉、准尉、曹長、軍曹、伍長、兵長、上等兵、一等兵、二等兵…

といった具合に階級が並ぶ。


────ちょっと待って!

ヒトが階層的な本能を持つ動物だというなら、「身分制を撤廃しろ」だとか、「万人の権利は平等であるべきだ」とか、そういう感性はいったいどこから生じてきたの?


「文化」ではない。すなわちヒトが持つその感性は「フランス革命が起きて以降」とか「共産主義が流行って以降」に人間の中に思想としてはじめて芽生えたものではない。それもまた、本能に由来するのだ。

その説明に至るには長い長い道のりを要する。

まずは、生物界におけるドミナンス・ヒエラルキーの成立について見ていこう。


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