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儀式的闘争:アニマルはなぜ致命的な暴力を抑制するのか? #Rituagg ⑴ | 進化心理マガジン「HUMATRIX」

" 母国に帰る敵軍はひき止めてはならず、包囲した敵軍には必ず逃げ口をあけておき、進退きわまった敵をあまり追い詰めてはならない。" ──── 『孫子』

"「暴力は好きじゃない。私はビジネスマンだ。血は高くつく」。" (映画『ゴッドファーザー』より)

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いまやネット上でバズ・ミームと化したある動画がある。

(https://twitter.com/apiecebyguy/status/1069947397982351360?s=20&t=i-SNQ7Gko4oHa-nIqv01CQ より引用)


男性ふたりが何らかの原因で路上でケンカをはじめた。明らかに〝衝突/Conflict〟が発生したのだ。しかし、肉体的な衝突は発生していない。二人は、睨み合い、中指を突き立てる。中指を突き立て合う。

肉体的にブツかる気はないようだ。いや、今すぐにでもブツかってやるぞ、という気迫のこもった中指は立っている。これ以上やるならマジで殺すぞ、という脅しは伝わってくる。しかし殺す気はないようだ。立ち去ろうとしている。立ち去ろうとしながらも中指を突き立てる。


道路を挟んでも中指。中指による威嚇。それは騎乗位ペニスを模した中指だ。精神的アナルファックのシグナルだ。

ファッキンな威嚇の応酬は続く。立ち去りながらも振り返って中指。それは紛れもなく「殺すぞのメッセージだ。しかし結局、命を賭けたやりとりが発生することはなかった。二人とも互いを殺さなかったのだ。

結局、このサピエンスのオス二匹は何がしたかったのか?? 殺すぞ、とマジに伝えながら相手を殺さなかったのはなぜなのか??


もちろん、理性(正確には「自制心」) が働き、衝動的な殺人行動をセーブしたのだ、と考えることはできる。

なぜならホモ・サピエンスの社会には先史の時代から〝処刑〟が存在し、われわれ人類は何十万年もかけてその淘汰圧の中で脳をデザインされてきたからだ。

しかし、この手の〝殺しの抑制〟は、死刑など存在しないはずの他の動物種の社会でも同様に、バイオロジカルユニバーサルに確認される生物学的現象なのだ。

『#Rituagg』シリーズでは、この謎に迫っていこう────。


*   *

# コーラント‪·‬ローレンツに牙を剥く:「種の利益のために動物は殺し合いを我慢する」という誤解


” 同種の動物同士の争いは通常、大きな怪我をすることはない。1970年代以前は、このことを集団選択という考え方で説明することが多かった。つまり、もし動物が全力で戦って大怪我をすることが多ければ、種の存続が危ぶまれるからである。しかし、集団淘汰の考え方は、淘汰の第一単位が個体であるとするダーウィン的自然淘汰と相容れないものである。"

(Takeuchi, T. (2018). Bourgeois Strategy. In: Vonk, J., Shackelford, T. (eds) Encyclopedia of Animal Cognition and Behavior. Springer, Cham. より)

このnoteでも繰り返し解説してきたことなので、またかと思われるかもしれないが、重ねて指摘しておこう。

「動物たちは "種の存続のため" にお互いでお互いを殺し合うことを自制する」という群淘汰理論は誤りであり、20世紀の遺物だ。

奇しくもこの誤りを広めてしまったのはマクロ生物学者自身であり、ご存じ、ノーベル賞受賞者で動物行動学の創始者、コンラート・ローレンツ(1903-1989)だった。

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