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会社がなくなる!

丹羽 宇一郎
元伊藤忠商事株式会社会長、元中華人民共和国特命全権大使。1939年、愛知県生まれ。


1.油断大敵

コロナ禍が収束し、世界は少しずつ落ち着きを取り戻しています。しかし、「天災は忘れた頃にやってくる」というように、油断は禁物です。なぜなら、次なる危機が待ち受けているからです。新型コロナウイルスが引き起こしたパンデミックは、ただの始まりに過ぎません。著者が警鐘を鳴らす言葉によれば、『コロナ後には、コロナ以上の危機がやってくる』とのこと。その先に待ち受けるのは『巨大地震』です。

日本では、首都直下型地震や南海トラフ地震といった巨大地震が今後30年の間に70%の確率で起こるとされています。さらには、火山の大噴火も私たちを脅かします。噴煙と火山灰が気温を低下させ、世界的な飢饉や疫病を引き起こす可能性があるのです。

私たちは今、コロナ禍や地球温暖化に注目していますが、その陰で巨大災害が待ち受けていることを忘れてはいけません。新型コロナウイルスも、地震や噴火も、決定的な部分が解明されていないという共通点があります。日本人に死者が少ない理由や、東日本大震災のような巨大地震の予測も困難です。

私たちは、これらの巨大災害に対して未知で無力な存在です。しかし、それは備えることで少しでも軽減できるかもしれません。会社の存続や成長を考える上で、まず必要なのは地球規模の危機への備えです。災害と隣り合わせの日常を受け入れ、日頃からの備えが不可欠です。

2.会社という概念の変化

「会社がなくなる!」――この目を引くタイトル、一体どういう意味なのでしょうか?著者はこう述べます。「“会社”という名前はもはや、必要なくなるのかもしれません。少なくとも“会社”という名前や形態にとらわれていると、時代に取り残されていく」と。

そもそも、私たちが知る「会社」という概念は、アダム・スミスが「見えざる手」を記し、ミルトン・フリードマンが株主第一主義を提唱した時代に遡ります。しかし、当時の「会社」と今の「会社」は全く異なる存在です。仕事内容や組織の役割は180度変わったにも関わらず、私たちは依然としてそれらを一括りに「会社」と呼び続けています。

現代は、大変革の時代です。例えば、中国の「Z世代」――富裕層の18%以上を占め、消費活動を牽引しています。彼らが求めるのは高級ブランド品であり、この傾向は中国だけに留まりません。このような消費構造の二極化により、従来の生産構造はもはや通用しないのです。もし、旧態依然としたままでは、時代に取り残されてしまうでしょう。

さらに、今や株式市場を動かすのは「AI」であり、人間の会社や株主の力ではコントロールできません。このような背景から、著者は警鐘を鳴らします――既存の考え方では、もはや生き残れないのです。大変革の今、私たちが知る「会社」という概念自体が、大きな変化を求められているのです。

3.打開策は”教育”にある

大変革の時代を乗り切るカギ、それは「人材」です。著者は言います。「日本再生への道はただ一つ、“その教育”を受けた多くの人材を生かすこと」。ここで言う“その教育”とは、知識や技術だけでなく、道徳や社会規範も含めた総合的な教育です。これらを身に付けた人材の層を厚くすることこそ、大変革の時代を乗り越える最強の武器となるのです。

国の最大の資産は「国民」であり、この資産をいかに生かすかで国の命運は決まります。しかし、現在の日本はどうでしょうか?OECDの報告書「図表で見る教育2020年版」によれば、日本の初等教育から高等教育までの公的支出は国内総生産に占める割合が2.86%と、OECD加盟国中で最下位から2番目。この数字は、日本がいかに教育に投資していないかを物語っています。

この問題を解決するためには、教育に対する資金投資はもちろん、貧富の差による進学差別も解消しなければなりません。教育の機会を均等にし、大学までの教育費をすべて無料にするなど、抜本的な改革が必要です。大変革の時代を迎える今こそ、「人の頭に投資する」ことが、日本の未来を切り拓く唯一の道なのです。

まとめ

近年、「会社不要」とされる働き方が注目を集めています。テクノロジーの進化により、フリーランスやリモートワークが普及し、従来の企業に依存しないキャリアパスが現実のものとなっています。個々の専門性を活かし、プロジェクトベースで働くことで、自分の時間をより自由に使いながらも収入を得ることが可能です。これにより、場所や時間に縛られないライフスタイルを選択する人々が増加しています。これらを踏まえると、伝統的な会社組織の役割は再評価を迫られているのです。

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