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予測不可能な時代に先手を打つ リスク大全

深津嘉成
慶応義塾大学経済学部卒業。東京海上日動リスクコンサルティング株式会社、上級主席研究員。


1.リスクとは何か?正しく恐れるための心構え

皆さんは「リスク管理」や「リスクマネジメント」という言葉を耳にしたことがあるでしょう。しかし、そもそもリスクとは何でしょうか?著者の考えでは、リスクとは「将来のいずれかのタイミングで悪いことが発生する可能性」を指します。古くから人類は、天変地異や猛獣の襲撃、疫病の流行といったさまざまなリスクの中で生きてきました。そして、現代において私たちが直面するリスクの象徴と言えるのが、新型コロナウイルスです。これは自然災害の一種でありながら、誰もが予想しなかった形で世界を変えてしまいました。

リスクとは、多くの場合前触れもなくやってくるものです。しかし、それを少しでもコントロールしようとするのが「リスクへの対処」です。具体的にどのような対処法があるのでしょうか?近世以降、急速に発展したのが「確率論」です。不確定な偶然現象について、その「確からしさ」を研究する数学的理論である確率論を用いることで、リスクを知り、未然に対処し、ダメージを軽減することが可能となります。

リスクを理解し、対処するためには、「リスクを正しく恐れること」が重要です。リスクを過剰に恐れ過ぎるのも、軽視し過ぎるのも良くない結果をもたらします。日本人はリスクを恐れ過ぎる傾向があると言われますが、過度に不安を抱えると挑戦できなくなり、前に進むことが難しくなります。だからこそ、まずはリスクに対して「正しく恐れる」ことが必要なのです。

リスクを正しく恐れることで、私たちはより賢明な決断を下すことができ、未知の困難にも立ち向かう力を養うことができます。リスクは避けられないものですが、適切に対処することで、その影響を最小限に抑え、より安全で安心な未来を築くことができるのです。

2.リスク対処の極意 悲観的な準備と楽観的な対処

リスク管理において、適切な準備と対処法を学ぶことは成功への鍵となります。著者が提唱するリスクをコントロールするための10か条の中から、特に重要な「悲観的に準備する」と「楽観的に対処する」という2つのポイントに焦点を当ててみましょう。

悲観的に準備する

リスク管理の基本は「準備が9割」という言葉に集約されます。平常時にどれだけリスクに備えて準備ができているかが、実際の危機が発生した時の対応力を決定します。しかし、「準備」とは具体的に何を指すのでしょうか?

まずは、予測可能な危機をリストアップし、その発生に備えた具体的な対応策をシナリオとして描くことが重要です。このシナリオは「危機シナリオ」と呼ばれ、リスクが現実化した際の行動指針となります。多くの人は「大丈夫だろう」と楽観的に構えがちですが、リスク管理においては常に最悪の事態を想定し、悲観的に準備することが不可欠です。こうすることで、実際に危機が訪れた時にも冷静に対処することができるのです。

楽観的に対処する

一方で、危機が発生した時に重要なのは「楽観的に対処する」ことです。危機に直面すると、つい悲観的になりがちですが、この状態では正しい意思決定ができず、被害が拡大する恐れがあります。だからこそ、どれだけ準備をしていても、危機が実際に起きた時には楽観的な姿勢を保つことが大切です。

楽観的な態度は、どんな困難な状況でも希望を失わず、最善の行動を選択する力を与えてくれます。これにより、被害を最小限に抑え、迅速かつ効果的に対応することが可能となります。

リスク管理の本質は、悲観的に準備し、楽観的に対処することにあります。平常時には最悪のシナリオを想定してしっかりと準備をし、実際に危機が訪れた時には冷静で希望を失わずに対応する。この二つのバランスが取れたとき、あなたのリスク管理は真の力を発揮するのです。

3.クレームのリスク回避

ビジネスパーソンにとって、クレームのリスクは避けて通れないものです。特に現代のSNS時代では、顧客対応の失敗が瞬く間に悪評として広まり、企業の評判を揺るがすこともあります。著者が指摘するクレームの原因には、以下の4つがあります。

  1. 企業体質として顧客対応が甘い

  2. 問い合わせ窓口が不明確

  3. 苦情の情報が適切に記録・共有されていない

  4. 品質管理の体制の不備

これらの問題を放置すると、顧客満足度が低下し、リピート率が下がり、顧客離れが加速します。その結果、売上減少は避けられず、最悪の場合、廃業に追い込まれるリスクもあるのです。クレーム対応はもちろんのこと、顧客からのフィードバックを真摯に受け止め、迅速に改善する姿勢が求められます。

さらに注意すべきは、「サイレントクレーマー」の存在です。彼らは不満を抱えても何も言わずに去り、再び来店しない顧客を指します。実際、店舗側に直接苦情を伝えるのはわずか4%に過ぎず、残りの96%は静かに離れていくのです。これに加えて、最近ではSNSを利用して不満を発散するケースも増加しています。こうしたリスクを回避するためには、企業は悲観的な視点から顧客対応を徹底的に準備する必要があります。

価値観が多様化する現代において、顧客対応の質が企業の命運を握るといっても過言ではありません。適切な対応を怠ることは、大きな代償を伴います。今こそ、企業は顧客の声に耳を傾け、信頼を築くための体制を強化する時なのです。

まとめ

リスク回避とは、予測可能な危険や損失を事前に察知し、それを避けるための対策を講じる行動を指します。企業においては、リスク回避は資産の保護や経営の安定を図るために不可欠です。具体的には、保険の加入、分散投資、安全対策の強化、法的コンプライアンスの徹底などが含まれます。リスクを完全に排除することは困難ですが、適切なリスク管理を行うことで、潜在的な損害を最小限に抑え、安定した運営を実現することができます。

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