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再審法改正 今国会の総括と今後の展望

6月17日、「えん罪被害者のための再審法改正を早期に実現する議員連盟」の今国会の活動を踏まえ、法務大臣に要望に伺った。要望書は以下の通りである。

①過去の著名な再審事件において証拠開示が不十分で、著しく遅かったこと
②再審に関する手続規定が刑事訴訟法にほとんど置かれてないこと
③除斥・忌避が再審に適用されないことは公平性を欠くこと
④検察官抗告による手続の長期化など、具体的に4つの問題点を指摘した。
法務大臣からは、「この問題は非常に重要な問題。しっかり検討を進めたい。 #えん罪 を起こしてはいけない。#人間の尊厳を真ん中据え#国会#政府 が連携しながら、問題を正面に据えた検討が必要と強く感じる。法務省は国の法制の基礎を扱うからどうしても慎重な性格があるが、世の中から遅れては意味がない。少し前に出るぐらい、オープンに。そうして初めて法務行政、司法の存在価値が出ると思う」との言葉をいただいた。

6月19日、法務委員会で質問に立ち、①の証拠開示について、実際に起こった検察の拒否事例を5つ、以下のように紹介した上で、法改正の必要性を説いた。

  1. 袴田事件。1966年発生。1968年死刑確定。2023年再審開始確定。現在再審公判中(今年9月26日判決予定)。第1次再審段階(27年間)では「法的根拠がない」との理由で一点の証拠も開示されず。第2次再審請求審の裁判長による証拠開示勧告により、2010年以降約600点の証拠が開示。また、第2次請求審で裁判所が開示を促した際、検察官が「不存在」と回答していた5点の衣類のネガフィルムを、即時抗告審で検察官が反証のために自ら開示。

  2.  日野町事件。1984年発生。1995年無期懲役確定。2011再審棄却。第2次請求審において裁判所が検察官に対し、未送致記録とネガ・写 真を含む証拠物について一覧表を作成し、警察に残っている証拠物に ついても開示するよう勧告。検察官は一覧表と証拠物を開示したが、弁護団から一部未開示との指摘を受け、さらに裁判所が検察官に対し、存否の確認及び存在する場合の開示を勧告。検察官は「既に開示済みのもの以外は存在しない」と回答。しかし、その後警察から証拠品22点と書類3点が「発見された」として開示。 裁判所は次のように述べて新たに確認と報告を求めた 「裁判所が(中略)存否確認及び存在する場合の開示を求めた証拠物 の一部につき、検察官が不存在と回答した証拠物が後に発見された経 過について、本来あってはならない事態であって遺憾である」

  3. 湖東記念病院事件。2003年発生。2005年懲役12年確定。2020年再審無罪。再審請求段階では証拠開示は実現せず。再審公判段階で警察が検察に送致していなかった証拠が多数開示。再審無罪判決後の裁判長の説諭 「本件再審公判の中で、15年の歳月を経て、初めて開示された証拠 が多数ありました。そのうちの一つでも適切に開示されていれば、本件は起訴されなかったかもしれません」

  4. 天竜林業高校事件。2006、2007年発生。2013年有罪判決確定。2023年再審請求棄却。元市長の孫の成績改ざんの見返りに校長が賄賂を受け取ったとされる贈収賄事件で、先行する収賄側の再審請求審で検察官が「不存在」と 回答した証拠が、後から申し立てられた贈賄側の再審請求審で開示される。これを受けて収賄側の特別抗告審段階でようやく最高検が当該証拠を開示し、謝罪。

  5. 大阪強姦事件。2004年、2008年発生。2009年懲役12年確定。2015年再審無罪。【大阪地裁決定平成27 年1 月14 日(判例時報2347号127頁)】「検察官は、弁護人 に対し、本件について捜査機関が保管する一切の証拠の一覧表を、 平成27年1月3 1日までに、交付せよ」 →これは勧告ではなく、正式な決定。1週間後の1月20日、検察官が「意見 」というタイトルの書類を裁判所に出し、そこには「裁判所がこういう決定を出すのは法律上許されない行為である」と記載し、これを拒否。

また、下記の、実際の再審事件で、検察が裁判官に回答した書面を、主要部分以外を削除して示した。

質疑でクローズアップさせたのは、検察が裁判所からの証拠開示要求に従わない時に、「検察官に義務はない。裁判所が命令することは法律上許されない」と対決姿勢をあらわにしている点だ。これは、法務省がいつも再審について「裁判所のもとで柔軟かつ適正に行われていると承知している」という答弁が、いかに真実からかけ離れ、実際は「法務省のもとで柔軟かつ適正に行われている」というぐらいの実態であるかを示している。

再審の訴訟指揮をとる裁判所からすると、検察のこうした姿勢は甚だ迷惑で、検察が現行法を盾に証拠開示を拒むのであれば、法律を変えたほうが良いと思っているに決まっている。しかし、最高裁事務総局は立法政策に口は出せないので、法改正の必要性について問うても「肯定も否定もしない」というのが精一杯だ。まあ、従来の「答弁は控える」からすれば半歩前進である。

法務省も裁判所も、個人レベルで話すと、法改正に建設的な意見交換ができるが、法務省、最高裁という組織となるとそうはいかない。組織が変革に慎重になるのは世の常であり、NHKの朝ドラ「#虎に翼 」の、穂高先生の至言「長年にわたって染みついたものを変えるというのは容易ではない。当たり前だと思っていた法律が、習慣価値観が間違っていると分かっていても受け入れられない、変えられないのが人間だ。それでもそれを我々は引き剥がし溶かし、少しずつでも新しく上塗りしていくしかない」を思い出さずにはいられない。近年、再審法改正の動きを見せてきた韓国と台湾でも、司法当局は強く反対したようだ。司法当局が一度確定した判決を覆したくないことはよくわかる。それでも、えん罪救済、人権保障の観点から、各国は法整備やさまざまな制度を構築してきた。日本は、戦後一度も再審法の改正はされていない。

いま、必要なのは、責任を取れる人間とリーダーシップであり、それができるのは法務大臣であり、法務省の幹部である。現在、法務省刑事局長をしている松下裕子さんは、検察官を志望した動機について、「犯人や被害者の人権を守りながら、処罰するべき人を処罰し、許すべき人を許したいと考えた」とのことなので、ぜひ、えん罪救済のための再審法改正にリーダーシップを発揮してもらいたい。松下さんは検察組織の中でいくつもの「女性初」の肩書を背負ってきた方で、そのこと自体本意ではないと思うが、#寅子 のように頑張っていただきたい。今国会はもうまもなく終わり、我々国会議員も夏は地元活動が多くなる。夏は、実際にどの条文をどう改正するか、大変難しい案件ではあるが、一人苦悩してみたいと考えている。

 

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