お茶の間で展開するゆるいSFが最高だった。映画『スリッパと真夏の月』
SF映画と言うと、宇宙、未来、科学をイメージしますか?するでしょうね。僕だってそうです。でも、わずか30分の短編SF映画『スリッパと真夏の月』を見ると考えがちょっと変わりますよ。
お茶の間でも、サイエンスなフィクションは起こせる、起きます、起きているんです。
『スリッパと真夏の月』のあらすじ
町の発明家であった亡き父が作った『物質転移装置』を発見した昌子は、姉の光子と実験をしていたが、機械が故障していまい光子が異世界へ消えてしまう。昌子はなんとかして光子を自分たちの世界へ戻そうと奮闘するのだったが…。
本作の魅力は圧倒的な「ゆるさ」です。物語は、まるで実家のような、田舎のおばあちゃんちのような、ゆるすぎるお茶の間で展開されます。
どんなに鼻の穴を広げても、口から思いっきり吸い込んでも、未来と科学の香りはしません。するのは実家のなつかしいにおいだけ。だがしかし、物質転移装置(テレポーテーションするやつ)と、パラレルワールドが織りなす "親子の絆を描いた空想科学物語" がここにはあるのです。
©2015 イナズマ社
この眼鏡っ娘が妹の昌子。昌子の奥にある銀色のやつが物質転移装置です。亡くなったお父さんが作った発明品で、A地点からB地点に物を転送するすごい機械です。どう考えてもノーベルなんとか賞がもらえるやつ。見た目はただの皿っぽいですが、細かいことはどうでもいいのです。
©2015 イナズマ社
この優しい顔をした女性がお姉ちゃんの光子。昌子と2人で缶詰を転送してたら楽しくなっちゃって、調子に乗って自分も転送しちゃう〜とか遊んでたらでパラレルワールドに行ってしまう急展開。機械がショボい(褒めてます)だけに、何が起きたのかわからない。もちろんエラーコードなんて出ない。そもそも液晶すら無い。戻せる気配が皆無です。
そしてパラレルワールドではバケモノがでてきたり、自宅に知らないおじさんがいたり、元の世界と見た目は同じなのにおかしなことが起きていく。僕なら完全に絶望して未来からやってきた猫型ロボットの名前を叫びたくなるレベル。
真面目に描けばホラーになるはずが、木場監督ならではのゆるい雰囲気のおかげで安心して見ていられるし、姉妹にどんどん感情移入してしまう。悪く言えばチープな作り(褒めてます)が、本作にベストマッチして魅力を高めている。そして最後にはほんのり泣かせる展開が待っている…。
わずか30分。大掛かりなセットもCGも特殊メイクもない、お茶の間サイエンスフィクション。木場監督のファンになること間違いなし、他の作品も見たくなる1本です。
『スリッパと真夏の月』
監督:木場明義
出演:斉木りえ / 米澤成美 / 中山雄介 / 石尾吉達 / 山本昌寛
タイトル作成:土井翔史 助監督:石尾吉達
©2015 イナズマ社
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