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役員貸付金の悪影響

1)はじめに
私が法人の融資相談で注視するポイントは以下のものがあります。
・当座資産(現預金、営業債権)はいくらあるか?
・当座比率(当座資産に対する流動負債。短期の支払余力を確認)
・利益剰余金がいくらあるか?(累積利益で経年の収益体質を確認)
・売上高 ÷ 総資産(=総資本回転率、経営の効率性を確認)
・売上総利益、営業利益、経常利益、当期純利益と売上高に対する比率
・B/Sに貸付金がないか(貸付先、金額、その理由)
・別表一、別表四、P/Lの突合
・別表五、別表十六、B/Sの突合
・別表七で青色繰越欠損金を確認
・長期借入金に対する支払利息の割合(ざっくりだが金融機関からの信用度が分かる)
などなど。
ただ、このうち「貸付金」についてはネガティブな印象を持つので今月はそれについて書きます。

2)貸付金がネガティブな理由
あなたが親友の一人に「200万円貸して欲しい」と頼まれたとします。
200万円なら口座にある方も少なくないでしょう。貸せない額ではないはずです。
渋々ですが承諾するつもりで話を進めていると、新たな事実が発覚します。
親友「実は友達に300万円貸しててさ。それでお金が無いんだよね。」
あなた「えー!!人に頼む前にまずはそっちから返してもらえよ!!!」
ここで言いたいのは、「人にお金を貸していると自分が借りるチャンスを失うかもしれない」という至極当たり前のことです。
先日、僕に融資相談をして頂いた法人も、融資希望額5,000万円に対して役員貸付金が2,000万円ありました。しかも、貸付先は相談してくれた代表者。
この状態だと金融機関は「まず初めに、代表者にお金を返してもらってはいかがですか?それからお話しましょう」ということを相談に来た代表者に言いたくなります。
親友にお金を貸さない話はパッと思いついた例えでしたが、私に相談した方は納得した様子だったのでここでも取り上げました。

3)役員自身も理由が分からない役員貸付金
私はこれまで、以下のような役員貸付金の使途に遭遇したことがあります。
・役員個人の車両購入資金
・役員のご子息の留学費用
・役員個人が友人に貸した
・役員個人が仮想通貨に投資する資金
いずれも「公私混同」と切り捨ててしまえば話は簡単ですが、中には非常にごく短期(数日〜数週間)で会社に返済する予定が、諸般の事情があり返済できず滞留しているというケースもありました。
役員自身が、会社のお金を何に使ったか自分で説明できるならまだマシです。むしろ「まだマシな」貸付金ではないケースとはどういうものでしょうか?
私にご相談された方から何度も聞いたので今では不思議にも思いませんが、実は役員自身が会社から借りた覚えがないのに「借りたことになっている」というケースが少なからず存在します。
オーナー企業、一族経営にはありがちな傾向とも言えます。
それは以下のような流れで発生します。
役員「この費用は会社の経費(接待交際費)につけよう」
仕訳 → 接待交際費 / 現預金
税理士「これは接待交際費にできない!でも会社のお金は出ていった。仕訳を変えよう」
税理士の仕訳 → 役員貸付金 / 現預金(上記の修正仕訳後)
ゴルフ、飲み会、不倫、ヨット購入などなど、月末や決算時に税理士が修正仕訳をして役員貸付金という「便利な箱」に詰め込んでいった結果、多額の役員貸付金になったというケースを何度も見聞きしました。
税理士も税金のプロとして、税務調査で損金不算入(課税所得の計算で損金=費用とみなさない)&追徴課税となることを避けなければならないため、資金の使徒として適切でないなら無理に費用計上しないことが一般的です。
そうは言っても会社のお金は消えていったので、それを「後から役員に返してもらうもの」と認識して辻褄を合わせることになるんです。
そして、税務申告後に税理士からもらう決算書類を役員が確認することもなく時間が経ち、いざ融資が必要になって金融機関に相談しに行った際
銀行「この貸付金はなんですか?」
役員「知らないな。誰に貸したのかな」
銀行「あなたが借りてますよ?」
役員「え・・・!?!?」
という会話をして信用を失うというオチです。
それでもご融資したことはありますが。

4)自社の決算書を見よう
そもそもの話ですが、貸金業でもないのに人にお金を貸してる会社は「何やってんの?」という印象を持たれても仕方ないです。
しかし、役員本人も知らないうちに貸付金が発生していたのなら言い訳したくなる気持ちも分かります。
こうならないように、税理士が確定申告をしてくれたら必ず確定申告の資料を確認しましょう。
・決算書(B/S、P/L、製造原価内訳、販管費内訳、S/S、個別注記表)
・法人税の確定申告別表
・勘定科目内訳明細書(これに各科目の相手先が載ってる)
の3つが束になってるはずです。
分からなければ税理士に聞きましょうと言いたいところですが、残念ながらこれらの説明や経営へのアドバイスまで行う税理士は多くないようです。
忙しいのも理由でしょうが、経営者自身が興味ないのが一番の原因ではと私は考えています。なので積極的に聞いてみましょう。
決算の時点で「この貸付金って何?」って確認しておけば融資相談の窓口で無駄にネガティブな印象を与えなくて済みます。

5)その他の勘定科目
役員貸付金以外でも気になるものが B/S に載っていることがあります。以下が代表的な例でしょうか。
・有価証券(メインバンクならまだしも、全然関係ない上場企業の株)
・出資金(聞いたこともない企業の未公開株)
・ゴルフ会員権(絶対役員の娯楽だろこれ)
あってもいいんですが、金額が3桁万円に及ぶなら説明を求められる可能性が高いので回答を用意しておきましょう。
極力、自社の決算書にある数字で「分からない」「答えきれない」は無くしておくべきです。
銀行に説明できないならまだしも、従業員や他の役員・株主に説明できないというのが一番まずいと思います。
その方々からの信用の方が金融機関からの信用より重要だと思うからです。

6)おわりに
「借入できる」ことは即断できませんが、金融マンなら数秒で「借入ムリ」と判断できることがあります。B/SとP/Lだけで償還余力をざっくり暗算したり、貸付金を含む「意味不明な資産の保有」を把握することができるからです。
最近、事業計画書や資金繰り表を作ってあげるよりこの即断をする方がクライアントにとって有益ではないかと思わされることがありました。
中小企業の場合はやっぱり、あれこれヒアリングするより先に決算書を頂く方が良いのでしょうか。信頼関係にも左右されるので悩ましいところです。

今からオッペンハイマー見てきます。

令和6年3月31日(日)
ユアトリー株式会社
上原 宇行

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