見出し画像

嗅覚アートアワード 2022 ファイナリスト発表!

4月22日10:00AM PDT(日本時間23日2:00AM)にArt and Olfaction Awardsのファイナリストが発表された。このアワードは、The Institute for Art and Olfactionが主催するもので2014年にスタートし、昨年はコロナのため中止となったため今年で第8回目を迎える。
優勝者は7月1日にマイアミで開催されるWorld Perfumery Congressで発表される。


カテゴリーは大きく下記の3つ。

Independent Award
調香師を外部から起用し、自社ブランド名で発売された香水 
・Artisan Award
調香師自身が所有するブランドで、自社で考案、創作した香水
・Sadakichi Award
伝統的な香水の枠を超えて、香りを型にはまらない方法で利用する作品 

3つの中で最もアート性が高いSadakichiカテゴリーのファイナリストの作品を紹介したい。通常ファイナリストは5名選ばれるルールとなっているが、得票数が並んだため今年は例外的に6名が選ばれた。ファイナリストの常連である日本人アーティストの上田麻希もノミネートされており、今年こそ受賞が期待される。

6つの作品の紹介を下記に日本語に翻訳する。

***

MEMORY BAR


by Thomas Buckley

Perfumer: Renske Van Vroonhoven

Memory Barは、他人の記憶や体験からテイスティングメニューを作り出す、多感覚的な体験だ。今回は、2020年3月にジャージー島で開催され、第二次世界大戦中のナチスによる島の占領をテーマに行われた。Memory Barの学際チームは、カクテル・イブニングとしてのアートインスタレーションを制作した。プロジェクション、テクノロジー、音、味、そして匂いを駆使した5つのコースが用意され、観客を他人の記憶の中に引き込む。このインスタレーションは、生の体験や記憶と、カクテル・イブニングの遊び心、デジタルとデジタル化できないものの対立である。テクノロジーは驚きを刺激し、可能だと思っていたことを拡大させ、低次の感覚は体験に「リアルさ」と「危険性」を作り出す。「これは本当に食べれるの?」「わあ、庭の匂いがする!」 私たちは、Memory Barを共感装置として捉えている。つまり、誰かの世界に入り、誰かになることで、その人を嫌ったり、その人の経験をごまかしたりすることができなくなるのである。彼らの古い記憶は、私たち共有の新しい記憶となるのだ。 

画像1


OLFABET


by Peter de Cupere

with Dr. Piet Devos, Tonia In Den Kleef, Leticia Larangé, Jan Gosselin, Francky Van Onacker, Timmy de Waele, Mei Lan Ng

Perfumer: Peter de Cupere

Olfabetは、嗅覚のアルファベットである。匂いを嗅ぐことで、単語や文章を読むことができると想像してほしい。私たちは呼吸をするたびに(無意識に)匂いを嗅いでいる。特定の香りを文字と結びつけることで、読み書きの能力を拡張することができる。それぞれの文字ごとに匂い(香りの分子)を覚え、いくつかの匂いを合わせて単語を作り、文章を作る。言語の感覚的な翻訳である。つまり、Olfabetをよく学べば学ぶほど、香りを区別し、より早く香りを嗅ぎ分けられるようになる。いくつかの香りの文字がアコードを形成し、別々に香りを嗅ぐことなくすぐに単語として認識することができる。デジタルから嗅覚の概念への転換である。デジタルテキストが呼吸のリズムに合わせて嗅覚テキストに変換されることを想像してみてほしい。Olfalanguageは、Olfabetを通じて、文字、単語、文章が香りに変換される言語である。 うまくいくのだろうか。ドキュメンタリー「The making of the Olfabet」では、7人の香りのアンバサダーの証言が紹介されている。彼らは目の不自由な人たちで、Olfabetの開発において、香りのアンバサダーはプロジェクトの中心的な存在であった。Olfabetは彼らの視覚障害者としての経験をもとに開発された。彼らの意欲、協力、そしてアドバイスのおかげで、Olfabetは命を吹き込まれたのだ。このように、香りのアンバサダーはそれぞれの方法で、自分の人生経験からこの美しい感覚的なプロジェクトの開発に貢献した。 

画像2


PULSE


by Charlotte Mumm

Perfumer: Frank Bloem

With: Lefki Mevissen

「Pulse」は、触覚的な形態と目に見える知覚の境界を超えた彫刻である。嗅覚アーティストであるフランク・ブローエムとの共同制作により、時間的、空間的に放出される様々な匂いや都市の香りの断片で構成されている。発泡性で香りのあるパウダーが、除湿機の水を使った円い筒型の装置によって、時間と共に活性化されていく。つまり、この展覧会は決して同じものではなく、常に流動的なのである。
Imaginary Citiesについて考え、アーティストは都市とそこに住む人々の異なるリズムと空間について思いを巡らせていた。この作業は、ロラン・バルトが1976-77年に行ったレクチャーシリーズ「いかにしてともに生きるか」の中の「誰もが自分のリズムに従って生活し、かつ他人の個々のリズムを尊重するコミュニティを作ることは可能だろうか」という疑問からインスパイアされた。

画像3


SCENT IN CINEMA / TWITCH & SNIFF ALONG


by Jas Brooks, Tammy Burnstock, Ashlyn Sparrow

Perfumer: Neal Harris and from Print-A-Scent's catalogue.

「Scent in Cinema」と「Twitch & Sniff Along」は、香りを主な様式として取り入れた映画やゲームを紹介する無料のオンラインシリーズだ。このインタラクティブなシリーズは、地理的・文化的な隔たりを越えて、世界中の観客に香りのメディアへの批評的な関わりを深めるものである。オンラインバーチャル上映(映画)またはライブストリーミング(ゲーム)、スクラッチカードの郵送、そして監督、専門家、ゲームデザイナーによるパネルディスカッションという形式をとっている。「Scent in Cinema」では、香りを利用した映画や映画体験を、「Twitch & Sniff Along」では歴史的な、そして新しい香りのゲームを紹介する。 嗅覚アート、特に香りのある映画は常にユーモアの対象として扱われてきた。「Scent in Cinema」シリーズは、香りのある映画作品を紹介し、このメディアに関する批評的な議論を提供することを目的としている。このイベントでは、郵送されたスクラッチカードを使ったバーチャル上映と、その分野の専門家によるモデレート・パネルディスカッションが行われる。このイベントは、(1)嗅覚アートの研究と創造に対する熱意を高めること、(2)香りに対するより良い感覚的理解と批評力を養うこと、(3)複数の分野を横断するつながりを提供することを目的としている。

画像4


THANATOS


by Eric Fong
with Dr Anna Williams

Perfumer: Euan McCall

タナトスは、森の中で発見された腐乱死体の香りを呼び起こす、同名のオリジナル香水を中心とした多感覚的なインスタレーションだ。このプロジェクトは、人間の腐敗時に放出される400種類以上の揮発性有機化合物(VOC)の一部が、調香師が使用する天然成分の一部と同じであるという観察から着想を得ている。例えば、香水のグリーンノートとして使われる刈りたての草の香りがするヘキサナールは、腐敗の初期段階に存在する。また、ジャスミンやネロリなどの白い花から微量に放出されるインドールという成分も、分解の各段階に大量に存在する。このようにタナトスは、花と木の香りに厳選された分解VOCをブレンドしたものである。観客は、草原の香りから腐敗した死体が発見された人里離れた森の中まで、嗅覚の旅へと誘われる。このインスタレーションは、次の4つの異なる要素で構成されており、相互に関連している。香水タナトスの展示、解剖台を模した彫刻とのインタラクションで体験するタナトスの香り、森の中での死体捜索を描いたサスペンスショートフィルム「The Search」、英国ティーサイド大学法医人類学部にあるCrime Scene Housで撮影した一連の事件現場の写真「Trace」。

画像5


VIRAL PERFUME:
WHAT IF CORONAVIRUSES WERE SOMETHING YOU COULD SMELL AND SEE?


by Maki Ueda

Perfumer: Maki Ueda

この作品ではウイルスの変異を香りで表現している。来場者は「ウイルスパフューム」を室内の好きな場所にスプレーすることができる。他の来場者はその香りを感知し、ウイルスがどこに付着しているのかを知ることができる。ウイルスは通常の光では見えないが、ブラックライトで照らすことで時折目に見える。アーティストは、このウイルスの広がり方が香りの広がり方と似ていることに気がつき、この作品のアイデアとなった。新型コロナウイルスによる死を悼む香りとして、空間に香りをまとわせると白百合の香りとなる。
変異NO.1 スカイブルー(ヒドロキシシトロネラール、リリアルのアコード)、NO.2 グリーン(シトロネロール、イオノンα、イソオイゲノールのアコード)、 NO.3 イエロー(イランイランのアコード)、 NO.4 ブルー(ネロール、フェニル酢酸パラクレジル、ジェラニオールのアコード)、 NO.5 ホワイト(リナロール、バニリン、フェニルアセトアルデヒドのアコード)、No.6 オレンジ(ネロリのアコード)。

画像7

大事な追記

上田麻希さんが見事大賞を受賞されました!本当にうれしいです!
マイアミに同行できず残念でしたが、ご自宅で一緒にお祝いしました。これからも応援しています。



画像:The Institute for Art and Olfaction



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?