クレヨンしんちゃんが俺に与えた影響

 子供の頃、クレヨンしんちゃんが大好きだった。
 アニメはもちろん、映画、漫画も繰り返し見ていた。「暗黒タマタマ大追跡」はおそらく100回以上観て、当時は全セリフを暗唱できた。漫画は表紙が全部ボロボロになった。
 そして映画がつまらなくなったあたり(栄光のヤキニクロードまでは面白かった気がする。それ以降は記憶がない)から、徐々に見なくなった。

 ついこの間、クレヨンしんちゃんの漫画の一部がAmazon Kindle unlimitedにて公開されているのを見つけて、読んでみた。

 まず「え、めっちゃくちゃ面白いじゃん」って何度も思った。全然、今読んでも新しい。

 そして面白すぎ且つしっくりきすぎて、「え、もしかしたらここで俺の原型みたいなのができたんかな」と思った。


 ということで今回は、クレヨンしんちゃんについて語りたくなったので語ります。
 僕の人生観みたいなものはここから出来ていたのかなと思ったので、その話をします。

◆仕事観
 実は、クレヨンしんちゃんには実に多くの仕事観が示されています。
 そしてそれらはメチャクチャかっこいいんです。

 最も印象的だったのは、12巻34ページの「ちょっと、こまったぞ? 下品な遊びが大流行!!編その7」です。
 この回ではしんのすけが通う幼稚園のうめ組の担任、まつざか先生が主人公です。
 冒頭でいつものようにしんちゃん相手に性格が悪いことをいじられるまつざか先生。追いかけている時に転んでしまった先生は、泥だらけで涙ながらにこう叫びます。
 「どちくしょおおっ 毎日毎日 安月給で にくたらしい クソガキ相手に やってらんないわよーっ」(文字にしてみるとメチャクチャ面白い…)

 その後、怪しげなイケメンが現れ、帰宅途中のまつざか先生を喫茶店に連れて行きます。
 実はそのイケメンとは優雅(エレガンス)ようちえんのスカウト。まつざか先生を勧誘に来たのです。

 「優雅ようちえんは お金持ちの子供しか入れません ビンボーなハナたれガキは 近くのアクションようちえんに 行けばいいのです」
 「先生も良い子だけを相手にできるので アクションようちえんのように 安月給でクタクタになるまで 働かなくてもよいのです」
 このように勧誘してくる男。めっちゃ嫌なやつ。二人の怪しい様子に気がついて跡をつけてきた園長先生は隣の席でむせび泣いてます。
 どうです、ウチに来たくなったでしょ?と笑顔で言う男に対して、まつざか先生も笑顔でこう返します。

「おあいにく様
 安月給でハナたれクソガキがいっぱいいる ビンボーようちえんで
 クタクタになって働いている
 そんな自分がけっこう好きなのよ」

 こう言って、男の頭から水をかける。

 よく言ったあああああああって感じですよね。
 めっちゃカッコよくないですか。
 しんちゃんはこういう「日常のダメさ」と「非日常(土壇場)のかっこよさ」の往復がとても上手です。
 あと、子供が読む漫画で明確にここまで「仕事」の話が出てくるものって意外と珍しいと思うんですよね。しんのすけの父である野原ひろしの職場も含め、「仕事」においてどういう行動がかっこいいか、ということが多く描かれているところは特徴的だと思います。
 ちなみにまつざか先生って最終的に婚約者をテロで亡くしてしまい、自暴自棄でアル中になって、保護者から懲戒免職を求められたりするんですが、なかなか子供向けの漫画でアル中で懲戒免職になる先生とか出てこないですよね。臼井先生はそういう人生のマイナスな部分も全部描きたかったそうです(アニメ版では放送されなかったエピソードです)。
 そういうところを描いちゃうのも、良いですね。

◆イケメン観
 上のエピソードでも示されている通り、しんちゃんではイケメンは大体不憫な役回りを演じさせられます。
 ルサンチマン的なことなのかなとも思いますが、映画も含めてよく「弱者が強者に勝つ」ことが描かれるのがしんちゃんです。
 (大体しょうもない方法で、というのもポイントです。単なる逆転劇ではなくて、ゲーム自体のルールが変わると強者も弱者になること、単一的な物差しの消滅が面白いんです。その頂点が「暗黒タマタマ大追跡」です)

 話が脱線しました。イケメンイケメン。
 しんちゃんでは、他にもイケメンがやっつけられるエピソードがたくさんあります。ななこおねえさんを抱きたいと思って近づくイケメンがしんちゃんに撃退される回や、イケメン桃太郎が気の弱い鬼ヶ島を襲う回などです。たまにいいイケメンも出てきますが、悪者にされる方が多いです。

 そんな中、珍しく一貫してイケメンとして描かれる人物がいます。まつざか先生の彼氏の「行田徳郎さん」です。
 この人、まつざか先生が骨折した時、治療のために訪れた接骨院の先生なのですが、実は大の骨好き。デート中でいい雰囲気の時にも「いい骨だ!食べ終わったらもらっていいですか!」と隣の席の男性が食べていた骨つき肉に興味を示してしまうほどのコレクターです。それが高じて婚約前に「恐竜の骨発掘チーム」の大学教授に誘われ南米に行ってしまうという急展開まであります。

 僕はこの徳郎先生が出てくるエピソードが大好きでした。(ということを読んでいてハッと思い出しました)
 そして、何かに夢中になる人はカッコいいと小学生の頃から思っていたんですが、その源泉はここにあったのか! ととても驚きました。

 こんな感じで、しんちゃん読み返してて熱が高まりました。Amazonプライム会員は是非。

(ちなみに読み返したで言うと、最近青い鳥文庫「夢水清志郎シリーズ」(はやみねかおる著)も読み返してみて、「俺の中のかっこいい名探偵像はここから生まれてたのか」とも思いました。伝わる人に伝われ)

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