夏の陣

 ついにこの夏一番の強敵、読書感想文もあと1枚だ。

 実に長い戦いだった。鬼のような漢字の書き取りと、気が遠くなるような計算作業。どれも作業そのものは簡単なのだが、如何せん量が多く、何度気が狂いかけたことか。いや、精神の疲労よりも肉体の疲労の方が大きいかもしれない。4Bのスーパー鉛筆を使っているものの、丸まって来るとどうも芯が乗らず、硬い木質が中指を圧迫しつつ、不条理に曲げられる人差し指が、そしてちょうど手の土踏まずのような場所の、手の「て」の付け根にあたる部分(の筋?)が、悲鳴を上げてくるのだ。特に人差し指は、力を入れて書こうとすれば必要不可欠な部分であり、こうなると、鉛筆を持つことが本当の意味で苦痛となってしまう。

 あぁ、ボールペンはあんなに楽に書けるのに、どうして鉛筆というものはこうも書くのが苦しいのか。やはりあの、インクが肝なのか。なら、鉛筆もインクで作ればいいのに。そしたら、きっとこの夏休みの宿題も、7月中に終わってしまって、たちまち優等生の仲間入りだ。なんでこんなことも大人は気付かないんだ。自分たちは鉛筆を使わないからって、無責任だ。子供だからどうせ気付かないと思っていたら、大間違いだぞ。

 いや、待てよ、そうだ。昔使っていたサインペンは、まさにインク鉛筆だが、あれも書きづらかったのを覚えているぞ。あれは鉛筆と違って、中指が擦れて痛かった気がする。いや、どうだったか。まぁ、どちらにしても、インクは関係ない。そうなのだ。つまり、この細いのがいけないのだ。先週絵具で絵をかいたときの、あの筆は、もっと楽にかけたはずだ。――と、これが現実逃避というやつだ。

 コップに氷を入れ直し、三ツ矢サイダーをなみなみまで注ぐ。それをこぼさないよう啜りながら机に戻り、鉛筆を、人差し指と中指で挟むようにして持つ。実際は3枚目の半分ぐらいまでと言われていたから、あと0.5枚で地獄の宿題も終わる。ツクツクホウシに思考を邪魔されながら、最後の戦に取り掛かった。

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