言の葉がさね〜恋文〜

言の葉がさね〜恋文〜

#31文字の空間
で紡いできた言の葉
そこに、少し彩りを与えたい。

短歌という31文字では表現しきれなかった思いを今の私が彩ってみたい。
あの時のわたしにしか詠めない気持ち…それは31文字のままで残し置きながら。


完全オリジナルストーリー
【言の葉がさね】
一作目書いてみました。

〜恋文 一の歌〜


葉に落つる 水滴ひとつ 儚げに
甘えた記憶 雨粒の音
2019.8.28

少し隙間の空いたレースのカーテンから
柔らかい朝日が彼女の前髪をゆらす。

ーーーまたソファで眠ってしまった…
そう思いながら頭の中に朝の空気をゆっくり取り込んでいく。
ひと晩中降り続けた雨は朝方には上がってようだ。

ーーーひとりぼっちの目覚め。
それはまるで窓辺からみえる木立にキラキラと光る雫のようなはかなさに似ている。

彼女は立ち上がりカーテンを開ける。
目の前の眩しさに気後れしながらも、一葉に寄り添う水滴を見つめる。
葉は風に揺らせれ、そっと雫たちを近づける。
小さな粒はやがて大きな粒になり、葉の揺りかごから滴り溢れる。


あふれて、こぼれて、はじけた気持ち…
雨粒が教えてくれ、雨音が甦らせる甘い記憶

〜〜〜〜〜

あの日
数ヶ月ぶりのデートは雨だった。
車から降りたふたりは傘をささずに急ぎ足で店内に入って行く。
髪に残った雨粒
「目に入るよ」
彼は、その雨粒がまるで彼女であるかのように柔らかく指に絡める。
「ありがとう」
彼の指に絡んだ雨粒に彼女はそっとハンカチを差し出す。
ーーー気持ちがこぼれ落ちないように…

温かいコーヒーを手に窓際のゆったり座れるソファを選ぶ。
斜めに置かれたふたつのソファが、寄り添うでもなく、向かい合うでもないふたりの距離感をあらわにしている様で、思わず彼女はふっと微笑む。

たわいない日常会話
まだ勇敢だった少年少女の思い出
lunchやcafeでの1コマのシェア
会えなかったふたりの時間を重ね合わせるような空間。
それぞれの時間を繋ぎ合わせてひとつのアルバムを作るような空間。
離れていたものがあるべき場所に戻ってくる。
ふたりでいれる温かさ。
それだけで…それだけが…


彼女は飲み終えたコーヒーのカップを寄せて、テーブルに頬をつけ彼を見上げる。
ーーー決して行儀が良いとは言えないな…
それでも、彼女はそうすることで彼の心の中を垣間みたかった。

見つめられた先の彼は照れたようにはにかんでそっと視線を外に向ける。
「雨やまないね」
「そうね」
「もう、、行く?」
「ん、もすこし。ふたりでいると雨音が心地よいから」
「そうか。」

彼はテーブルの上から自分を見上げる彼女の髪に優しく触れる。
彼女をそっと見つめながら
「どした?」
そう言って彼女の心に入っていく。
「ううん、甘えてみただけよ…」
彼女は明け透けに出来ない心のまま、彼の手のひらを感じる。そして彼の触れる髪の先まですべてで彼を感じたいと願った。


窓をつたうふたつの水滴が溶け合いひとつになるとこぼれていく。

それを見つめる彼女は思う。
ーーー本当に?こぼれてなくなったの?
溶けあったり形を変えたりしてるだけ…
まるで今のふたりの心模様のよう。

ーーーほんのひとつ言葉にしてみただけ。思わずこぼれた言葉が彼の心にも届いただけ。甘え方なんてわからないから…

ふと雨音が変わった。


彼は彼女を愛おしいげに見つめる。
言葉にはしない。
言葉には出来ない。
もどかしい。
だから彼は、彼女を、見つめる。

彼女は彼を見上げて願う。
本音を見せたいから。
本音を見せられないから。
たったそれだけ。


雨音が変わる束の間、ほんの数秒の出来事。
ーーーわたしはこの雨音を忘れない。


雨足が弱まったのを見て車に戻るふたり。
「雨は好きじゃなかったけど、たまにはご褒美のような時間になるな」
彼は彼女をからかうように言う。
「あら、わたし、雨女じゃないわよ?」
彼女の惚けるような笑みを見て、彼は思わず手を伸ばす。
その笑みを自分の胸に押し込めると
「ちゃんと分かってるから。雨じゃなくても甘えておいで」
彼女へ言葉をそっと降らせていく。
それは彼女の心に染み渡る。
「約束よ?甘えさせてね」

〜〜〜〜〜

夜更けの雨音は彼女の記憶を呼び覚まし、
まるで彼がとなりにいるかのような感覚を彼女に与えていたのだろう。

目覚めたときに彼がいない寂しさ
これさえも幸せに思える。
なぜなら…
彼がいる喜びを心もカラダも知っているから。


一葉に残る水滴がひとつになる。
彼女はまた思い出す。
小さな粒も大きな粒も自分と同じようだったと。
こぼれて諦めたのではなくて、
あふれて形を変えただけ。

雨音を纏った雨粒も
陽を浴びた雨粒も
彼女が彼を恋しく思うには充分なほど同じ理由になったのかもしれない。


ーーー少し甘えたくなってるのかな。
彼女はポンとメッセージを投げる。
《会える?》
彼からのレスポンスがいつになく早い。
《今から行くよ、雨上がりだから。》


朝陽が注がれた部屋の中で
彼女はあの日の約束を思い出す。


2020.7.30
❤︎you❤︎


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