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男には帰れない夜がある。

男には

帰れない

夜がある・・・。


私は幸せだ。

妻がいて子供がいる。

そして数多くの友人達に囲まれている。

週末が楽しい。週末が楽し過ぎる。もはや週末だけの人生にしたい。

そんな私の人生にも欠けているモノがある。

それが仕事だ。

そうこれが私にとっての最後のワンピース。


朝起きると毎日が憂鬱だ。
仕事に行っても私が本来の姿を見せることはない。なるべく何も起こらぬ様、波風を立てぬ様、最低限の事をこなしてはひっそりと定時に帰る。

そんな日々の連続だ。

こんな人生のはずじゃなかった。

日曜の夜はまるで戦争に行く前夜の様。

そして月曜の朝は涙ながらに家族を抱き締めては戦場に向かう。

私は毎朝淡い期待を抱いている。

朝出社しようとしたら会社のビルごと爆破されていたらどんなに幸せだろうと。

私はそのくらい仕事が嫌いだ。

だから私にはサウナが必要なのだ。

仕事が終わればサウナに行ける。

仕事に行かなければサウナには行けない。

そう思うと、どうにかベッドから立ち上がれる。


そんな日々だ。


私は少し特殊な生活をしている。

妻は横浜出身で私と結婚してから私の地元である厚木市へ嫁いだ。

厚木市の郊外にある私の実家は元々は農業を営んでいたこともあり、広大な土地を所有していた。

金はないが土地はあるのが田舎あるある。

なので「大きな家に住めるぞ。」という言葉を謳い文句に、それなりに大きな家を35年ローンで建てた。

しかし、妻は毎週末の様に息子を連れては横浜の実家へ帰る。

妻は運転免許証を持っておらず、厚木市郊外での生活に不便を感じていた。

バスだって1時間に1本しか来ない。

駅までは歩いて1時間。

だから妻は頻繁に横浜の実家へ帰る。
そして私も妻の実家へ毎週末の様に「帰る。」

「週末横浜生活」を始めた当初は驚いたものだ。

「どこにでも駅がある。横浜やべー。BIG CITY YOKOHAMA。」

いつしか妻の実家には私のベッドが用意され、金曜日の夜に私が帰ると、義母が私に夕飯を用意してくれる様になった。

義母の料理は美味しく、私は心の底から「美味しいです。」っと感想を伝えると義母は言った「つっちゃんだけだよ。そんなこと言ってくれるの。つっちゃんが毎週来てくれるのが私の楽しみなんだよ。」

私は図々しくも毎週末妻の実家へ帰っている。非常識なものだが喜んでくれる人がいる。

これからもこの幸せな環境に甘え続けよう。

私はこのライフスタイルが大好きだ。

でもひとつだけ嘘を付いている。

私は言った。

「お風呂まではさすがに頂けません。僕は近くのサウナへ行きますよ。」

こうやって私は毎週末、合法的にサウナへ行く。

普段は行けない横浜周辺のサウナへ。

これが私の楽しみだ。

私がいつも行くサウナは泉区にある「葛の湯」。妻の実家がある南区の「横浜天然温泉くさつ」、「みうら湯」。鶴見区にある「ファンタジーサウナ&スパ おふろの国」、「ヨコヤマ・ユーランド鶴見」。保土ヶ谷区にある「満天の湯」。

毎回どのサウナへ行くのかを決めるだけでも一苦労だ。

どのサウナへ行こうか迷うのも楽しかったりするものだ。


そんな私は本日は行ったことがないサウナへ行きたい気分だった。

たまには電車でサウナへ行こう。

京急弘明寺駅の険しい坂道を上り京急本線エアポート急行に乗ること20分。

私は川崎にいた。

BAD HOPを生んだ街KAWASAKI。

京急川崎駅から本日の目的地へと歩いていると「いさご通り」という看板を目にした。

いさご通り

どうやらここは商店街らしい。

私はこの「いさご」という3文字にノスタルジーを感じずにはいられなかった。

そう私の初めての彼女の名前は「砂金」と書いて「いさご」。

「いさご」という3文字にノスタルジーを感じるのは私だけではないだろうか。

そんなセンチメンタルジャーニーを旅すること15分。私は川崎ビッグに着いた。

川崎ビッグの看板を無意識に見たことがある人は多いだろう。

私もその1人。

その看板にはこう書かれている

男には

帰れない

夜がある・・・。

男には帰れない夜がある。素晴らしいキャッチコピーだ。これを作った人に弟子入りしたい。


まさに今の私にぴったりの言葉だ。

私は商社に勤める商社マン。

私が担当する大手コンビニエンスストアーに納品する商品を中国から輸入した訳だが、不良品のオンパレード。

しっかりと中国で代理店を付け、サンプルも確認した訳だが、日本に届いた商品は粗悪品ばかりだった。

私は絶望していた。

どこかに逃げたかった。

穴があるなら叫びたかった。

「王様の耳はロバの耳ー。」っと。

なんなら今すぐ宝くじを当てて、カジュアルにLINEで「仕事辞めます。」っと言いたかった。

しかし、現実はそう甘くない。宝くじも競馬も当たらない。

そんな現実を知らない妻は息子をインターナショナルスクールに通わせている。

どうやら私は当分逃げられないようだ。

本当は逃げたい。

私が独身だったら絶対に飛んでいる。

カナダに飛んでマリファナを吸って現実逃避をしているであろう。

マリファナを吸ったことはないが、マリファナを吸いたい。絶対気持ち良い。

プロパガンダされた日本では違法だが、世界では続々と合法化されている。

なんならアメリカでは有名なアーティスト達が続々とマリファナ産業に参入している。

私は今初めて後悔している。

日本に生まれたことを。


そんな悲壮感に満ちた私は川崎ビッグに入館した。

入館手続きを済ませ地下にあるというサウナへ向かう。

サウナはアンダーグラウンド。

タオルも使いたい放題だ。

私はその地下にある秘密基地の甘い甘い蜜に舌鼓を打った。

高温サウナ室と低温サウナ室。

低温水風呂と常温水風呂。

私はサウナから出ると低温水風呂に浸かっては常温水風呂に浸かった。

水風呂の梯子は初めてだ。

低温水風呂に浸かり日々の緊張を緩和する。
そして常温水風呂に浸かっては「日常」のありがたみに感謝する。

テレビはどこにでもあった。

それはまさに昭和バブル。

私はリクライニングチェアに座ってはテレビから聞こえてくる、どうでも良い日常のサウンドに浸った。

テレビが日常をこれでもかと演出した。

これは確実に川崎ビッグからのメッセージだ。

「当たり前」が「当たり前」じゃなくなった時、人はその「当たり前」を求めるであろう。

ここには当たり前しかなかった。

ラドン温泉があり、高温と低温のドライサウナがある。

低温と言う名の水風呂はそんなに冷たくなかった。常温の水風呂は夏場の屋外プールぐらいの温度だった。

心地よい。

ここには刺激はない。

しかし、日常の延長線上にある「当たり前」を最上級に提供してくれた。

当たり前は難しい。

人々が「当たり前」を「当たり前」にするのは相当な努力が必要だ。

そんな事を感じながら過ごしていると、時刻はいつしか23時を回っていた。


「帰ろう。」


私は思った。



男には

帰りたくない

夜がある・・・。



しかし、それでも帰るのが男だ。



私は明日からまた仕事に行くだろう。

つまらない仕事を黙々とこなし、定時に帰る。

残業は絶対にしたくない。

その先には愛する家族がいてサウナがある。

今はまだ我慢しよう。

しかし、私は絶対にこのままでは終わらない。

いつかこの川崎ビッグに通う日々を当たり前にしてやろう。

その時はきっと私の最後のワンピースである仕事も人生の生き甲斐となっていることであろう。

私は諦めない。

私は幸せになりたい。

そんなことを痛感させてくれたアンダーグラウンドな施設が川崎ビッグだった。

今日の出逢いに感謝。

人生は一期一会。それは幸です。


本日のBGM:NITRO MICROPHONE UNDERGROUND - NITRO MICROPHONE UNDERGROUND

One Love.

食堂の時計はROLEX。
リスペクト。

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