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「マーケティング室長候補 年収700万〜」〜サウナ徒然草〜

今日は妻がハープの演奏会に出演するため有給休暇を取得した。

妻がおめかしをして朝早くから出て行ったあと、私は子供を幼稚園へ送った。

そして自宅に戻り私はダイニングテーブルの席へ座り、スマートフォンを慎重に三脚へ設置してからZOOMのアプリを開く。

そう私はこれからオンライン面接を受ける。

今日は1年振りの転職活動の記念すべき初日だ。

本日受ける企業からは面接依頼という形で何回かアプローチを受けていたので、有給休暇日ということもあり受けてみることにした。

特に企業研究はしていない。
何故なら少しだけ不思議な面接依頼だからだ。

「マーケティング室長候補 年収700万〜」

是非お逢いしたいというオファーなのだが、私の経歴にはマーケティングのマの字もなく、私はいささか不思議に思っていた。

最初のメッセージは取締役からだった。

その後は採用担当から。

そして私は承諾し職務経歴書と履歴書を送った。

私の経歴にはマーケティングのマの字もない。

しかし恐らくだ。

プロから見たら私の経歴から、なにかしらのポテンシャルを感じたのだろう。

私は少しだけ不信感を抱いてはいたが、何故私にこの様なオファーを送ったのか気になったこともあり今日を迎えることになった。

そして10時に面接は始まった。

面接官は早々に私に言った。

「それでは村井さんのマーケティングの経歴から教えて下さい。」

それはそれは壮大なカウンターパンチだった。

私は限りなく宇宙を感じたし、なんならカタルシスすらも感じたほどだ。

私は少しだけ目を輝かせながら質問を質問という形で返した。

「私にはマーケティングの経験は一切御座いません。それなので本日はまず何故私にオファーを頂けたのかを聞きたいです。」

それは私が今日1番聞きたいことだった。
なんなら他のことなんて、どうでも良かった。

教えてくれ。

マーケティングのマの字もない私の営業職一色に塗れた経歴のどこにキラリと光るマーケティング職のポテンシャルが転がっているのか。

Tell me why Tell me why 教えて何故。

少しの沈黙を挟んで、
面接官は少し目を泳がせながら言った。

「どうやら何かの手違いがあったようです。これ以上お話をしても、お互いに生産性はありません。ここで終わりにしましょう。」

私は唖然としながらも快諾をしスマートフォンのZOOMアプリを閉じた。

どうやら私の経歴にはプロだからこそ見い出せる、キラリと光るマーケティング職のポテンシャルはなかった様だ。

私が悪かったのだろうか。

マーケティングの経験もないのに興味本位で面接依頼を承諾した私が悪かったのだろうか。

いや私は悪くないはずだ、私の情報は事前に全て与えている。

何故、誰もチェックしなかったんだ。

正直に言おう。私が今欲しいのは「こんなにも」美味しいネタではない。

内定だ。

そして何より私は幸せになりたい。

こんな純真無垢な私をお願いだから弄ばないでくれ。

そんな悶々とした思いを抱えながら私は息子を迎えに行き、横浜にある妻の実家を目指した。

妻は横浜でのハープの演奏会を終えた後、そのまま実家に泊まるらしい。

私は早々と息子を妻の両親に預けては、横浜を後にしサウナへ向かった。

憂鬱な毎日だ。

サウナだけが私を癒してくれる。

ここでは全てを忘れさせてくれ、一時的だが現実と隔離してくれる。

私にとっては特別な居場所だ。

明日もきっと憂鬱な毎日の延長線だ。

朝起きれば絶望感を胸に抱きながら仕事へ向かう。

私の苦闘はいつまで続くのだろうか。

神様お願いです。

私は今よりほんの少しだけ幸せになりたいだけです。

多くは望みません。

私はまた明日もきっとサウナへ行くだろう。

私はまたそうやって現実から逃げるのだ。

でも本当に逃げ出したい場所からは逃げ出せない。家族がいるからだ。

だからサウナの中だけは逃避行させて下さい。

そう思うと不思議とまた明日が少しだけ楽しみになる。

明日も全ての人々に感謝して生きよう。

意地悪な上司にすら愛を与えよう。


私だけは優しくいよう。

例えこの世界の全てが悪だとしても。

One Love.

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