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ロバの前髪 #あなたの愛する「かわいい」エッセイコンテスト

私は、今、机の上に何枚かの写真を並べて見ている。回転木馬に乗った娘の写真だ。

君がまだ小学生だった頃、久しぶりに取れた私の休みに、家族そろって小さな遊園地に行った。夏は、もう終わってしまってたけど、君は、ずっと着たがってた青いストライプのワンピースを着ていたね。まだ、幼かったから、乗れるものは限られていたけど、私の手を引っ張って、次から次へと、いろんな乗り物に案内してくれた。わが家は、3人家族。4人で乗る乗り物は、みんなで乗れたけど、2人乗りのときは、私は、君とママのカメラマンだった。

夕暮れが近づいてきたころ、君が、もう一度乗りたいと手を引くものだから、仕方なしに、回転木馬に乗りに行った。

「今度は、ひとりで乗っておいで。」

と、私が言うと、君は少し不安そうにしていたけど、すぐに、おじさんにチケットを渡して、お気に入りの木馬にまたがってたね。

君が、木馬にしがみついて、つぶやいていた口元は、「ママ」と言ってたのかな。

ゆっくり回りだす回転木馬、君は、反対側に消え、また、現れて、どんどん近づいてくる。

こっちを向いた瞬間に、シャッターを切ったけど、君は、目をつむってしまった。

木馬の影が長く伸びて、私を追い越して行ったとき、君は、バイバイするように手を振ってたね。

回転木馬が速度を落とし、柱の反対側で止まった。

こっちに出てきたところを撮ってやろうと待ち構えてるところに、

君は、おさげを揺らしながら、両手を広げて、泣きっ面で走ってきた。きちんと整えられていたはずの前髪が、木馬みたいに風でかきあげられるどころか、ロバの前髪のように、汗で、おでこにくっ付いていた。

そんな娘の姿を撮ったこの一枚が、最高にかわいい。

私は、少し冷めかけた珈琲を一口すすってから、写真を手に取り、床に転がった。

私に泣き顔を見せてくれたのは、この時が最後だったと思う。ついこの間のように思えるけど、娘は、もう、17歳。いっしょにご飯を食べるときは、普通に話もするけど、ひとりで部屋に閉じこもっているときは、どうなんだろう、泣いていることもあるかな。私には、よくわからない。私ゆずりで、どんくさくって、上手くやるには人一倍努力がいる娘だから、泣きたくなることも多いだろう。そんな娘が、前髪を汗でびっしょりにして、玄関から飛び込んで来るのに出くわすと、できないことを何とかできるようにしようと、かんばってる姿が、当時の姿と重なって目に浮かび、いじらしくて、たまらないし、親バカなんだろう、かわいくてしかたない。

そんな娘のことをわかってくれる人が、きっと、いつの日か現れるはずだ。

でも、娘よ、バイバイするのは、もう少し先にしてほしい。パパは、もう少しだけ、君のロバの前髪を見ていたいから。

(おわり)

この記事を書くにあたり、feedback saunaさんの「有名noteクリエイターからフィードバックをもらおう企画Vol.1」に応募して、みなさんから、アツい感想をいただきました。改めて、ありがとうございます。

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