見出し画像

記憶に残る児童書を書き連ねておく その2

前回は日本人作者の作品を紹介したので今回は外国の方の著作を紹介しよう。前回のnoteはこちら。


デルトラクエスト

児童書の中で眼の惹く装丁といえば本作、デルトラクエストである。オーストラリア人の作者エミリー・ロッダ氏によって書かれた本作は現代的な内容の剣と魔法の物語だ。少年少女の冒険心をくすぐりつつも、時として血なまぐさい展開もある。だが、ハラハラドキドキする展開を望む子供たちが本作のきらめく宝石のような表紙を見かけて手に持ったら、ぜひそっと後押ししてあげてほしい。そう思わせるような名作である。

舞台となるのはデルトラ王国。移動手段は徒歩か馬車、怪物や謎の生物が各地にはびこり、残虐な影の大王による支配をされている王国中を主人公たちは旅する。デルトラ王国を守るとされる7つの宝石を取り戻すために。剣と魔法の世界を代表するかのような本作ではあるが、主人公一行は魔法を何も使わない。魔法のようなアイテムは存在するが、主人公たちの主な武器は剣や短剣である。

トパーズ、ルビー、オパール、ラピスラズリ、エメラルド、アメジスト、ダイヤモンドという7つの宝石を集めるのが主題でドラゴンボールのような話かと思うかもしれないが、そうではない。作中では物語の進行を妨げないように巧妙にパズルのような問題が出題され、それを主人公一行が解いていく。子供たちの知的好奇心も満たしてくれること間違いなしである。単純なバトルではない、次はいったいどんな冒険が待っているんだろうと思わせるストーリーで魅了してくれる名作ファンタジーだ。

ちなみにアニメ化もされている。エミリーロッダ氏はオーストラリアの児童文学賞を度々取った有名作家で、日本でアニメ化されたことにも好意的なコメントを残している。アニメ版の方が描写がマイルドで流血などもないので小学生ならばアニメを見せた方がいいかもしれない。私は中学生の頃に全部本で読んだ覚えがある。

図書館って黴臭い本のにおいしかしなくてダサいよねと思う子供がいるとしたら大きな間違いだ。漫画のようにわくわくした展開に満ち、文章からイメージを湧き立たせてくれる素晴らしい体験をさせてくれる本作は子供時代の私に多大なる喜びを与えてくれた。当時の少ない小遣いで買ったのがいい思い出である。

アニモーフ

あらかじめ言っておくが、本作は未完の名作である。原作は全54巻なのだが日本語版が全5巻までしか発売されていない。売れなかったのだろうか…?それでも本作を記憶に残った作品だと銘打っているのはおぞましく、それでいて読者の心をとらえて離さないようなストーリーが少年時代の私の心をくすぐったからだ。

善良なエイリアンから主人公たち5人が聞かされたのは邪悪なエイリアンによる地球侵略の計画。邪悪なエイリアンはナメクジ状の寄生生物であり、人間の脳に入りこんで操り、地球征服を企てている。善良なエイリアンが最期に主人公たちに託したのは他の生物に変身する能力「アニモーフ」だった。誰がエイリアンに支配されているかわからない中、彼らはアニモーフの能力を用いて地球への侵略阻止の戦いへと身を投じていく。

なんとSFチックなのだろうか。私は当時ファンタジーを好んで読んでおり、本作もファンタジーの一種として読んでいたが、今考えてみると代表的SF作品である。宇宙人と戦う妄想なんて小学生から中学生男子の定番だが、本作では宇宙から到来した狂気の寄生生物と動物の能力を駆使する子供たちが戦いを繰り広げる。アニモーフの制限時間は2時間。2時間を超えると元の人間に戻れなくなってしまう。イルカ、トカゲ、ワシなどの多様な動物の能力を駆使して、彼らは人類の敵と戦いを繰り広げていく。

本作を子供時代に読んでいた私からすれば、テラフォーマーズがこの世に出た時に笑ってしまった。「この作品は…過去に読んでいる…ッ!生物の能力を駆使して戦うなんてまんまアニモーフやんけ」という具合である。

とはいうものの、より近いのは日本が誇る傑作漫画「寄生獣」だろう。こちらは人間を食らい、人間に化ける生物が登場するわけだが、アニモーフで出てくる寄生生物を想像する上では寄生獣を想像すると近い。

アニモーフでいう戦いとは単なる戦闘ではない。そもそも動物ではどうあがいたって人間と真っ向勝負したら勝ち目がないわけなので、主人公サイドは隠密行動が基本だ。動物の特殊能力を用いて敵の思惑を把握し、それを阻害していくという戦いが展開される。動物への変身が詳しく描写されており、子供の頃の私はその描写に魅了されてスイスイを読み進めてしまった。が、5巻で微妙な終わりを迎えて「え…これで終わり?俺たちの戦いはこれからだ…ってコト!?」と思った覚えがある。この体験を他の子どもたちにさせていいものかという話なのだが、未完とはいえ素晴らしい読書体験をさせてあげられるのなら、本作を推す価値はあると思いこの書評を書いている。

人生が順風満帆で完全に満ち足りた生涯を送っていれば、鳥になって空を飛びたいと思うことなんてないのだろうか?私は大人になった今でも鳥になって空を飛んでみたいと思うし、子供の頃から空想に耽って良かったと心の底から思っている。物語を必要とする人間は不幸なのかもしれないが、物語がない世界は地獄だろう。空想の世界に一歩足を踏み込みたいのならば本作は推奨できる名作SFである。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?