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Wizard's Soul ~恋の聖戦~が打ち切られたのが無念すぎて夜も眠れない

この世界でモテるための条件は3つ。

容姿!

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性格!

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カード力!

容姿端麗で細やかな、そして何よりカードゲームが強い人間こそがモテる!秋☆枝先生による「Wizard's Soul  ~恋の聖戦(ジハード)~」という漫画はそういう恋愛観だ。本作の舞台ではウィザーズソウルと呼ばれるカードゲームが大流行しており、カードゲームの強さが知力や技術、運のバロメーターとされている。カードが強ければ進学先も就職先も選びたい放題だし、前述のように恋愛だってうまくいく。プレイヤーの強さ(いわゆるレート)はデュエルポイントによって可視化されており、デュエルポイントが高い人間ほど強く、優秀とされる。まさにカードゲーマーが考えたカードゲーマーのための世界だ。

恋愛カードゲームマンガ(大嘘)

作者曰く、恋愛メインの萌え萌えカードゲームマンガだそうで、一ノ瀬まなか(表紙左。本作の主人公で中学生)と櫻井瑛太(表紙右)の恋愛に主軸が置かれる…かと思いきやそうではない。

物語の発端はまなかの父親がレアカード詐欺に遭ったことだ。ウィザーズソウルの次に出る拡張パックでシナジーが生まれるから、このカードは今が買い時だとたらし込まれてカードを300万円分購入し、まなかの一家は負債を抱える羽目になる。まなかは借金返済を目的として賞金付きのカードゲーム大会であるグランプリ四国への出場を決意する。

しかしグランプリ四国へはデュエルポイント1500が無ければ出場できない。まなかは瑛太に対してデュエルポイントを全て賭けて勝負してほしいと頼み込む。もし負けたら自分ができる事なら何でもするというのが対価だ。

カイジみたいな展開になってきた

瑛太からすれば「小学生にも負けるようなまなかが勝負を挑んできた…?つまり、まなかは俺の願いを叶えたい。遠回しな告白か!」という思考に至るのも無理はない。が、まなかは本気で瑛太を倒す気でいた。今は亡き母親から学んだパーミッションと呼ばれるデッキスタイルによって。
「クリーチャーを出します」「それ、手札に戻してさい」
「本体に500点ダメージを与えます」「対象をあなたに変更します」
「手札を3枚捨ててください」「打ち消します」

パーミッションとはpermission, つまり許可を意味する。クリーチャーの召喚や効果の発動を無効化したり、攻撃の対象を変更したりするカウンター主体のデッキである。パーミッションデッキを相手にするときには「このカード通りますか?」のように相手に許可を求めることからこの呼称が生まれた。デッキ構築からプレイングに至るまでやりたいことをやるのがカードゲームの楽しみだが、パーミッションデッキは相手のやりたいことを阻害するデッキタイプである。対戦相手は不快な思いをし、高確率でパーミッションの使い手を嫌う

結果、何もできずに瑛太は3連敗し、1年間必死で稼いだデュエルポイントをまなかに献上する。対戦後にまなかは謝るが、瑛太は「勝っといてそれってすげー感じ悪ィし」と言って立ち去る。二人ともお互いのことを好き合っていたのに、まなかはデュエルポイントを奪った罪悪感で涙を流し、瑛太は強さを隠していたまなかと弱い自分への怒りで苛立ちを覚えながら帰宅する。

ここまでが一話の内容である。当時の私はカードゲーム用語などわからなくともこんなに面白く漫画にできるんだ…と思って即座に次巻を購入した。斬新な部分が多数あったために興奮冷めやらぬという感じだったのを記憶している。

主人公のカードゲームに対するスタンスが独特

推せる魅力の一端を紹介しよう。1巻の表紙では白を基調とした明るい印象を受けるが、2巻の表紙をご覧いただきたい。ウィザーズソウルをプレイするときのまなかの表情は常にこれである。

重要なことなのでもう一度。ウィザーズソウルをプレイするときの主人公の表情は常にこれ↓である。

こんな嫌そうな顔をしながらカードゲームやる奴おる!?ただ、まなかにはウィザーズソウルを好きになれない理由があったのだ。まなかが幼稚園に通う頃から彼女の母親は入院しており、まなかはお見舞いの度に母からカードを学んでいた。母は言った。「現実が辛いほどカードの引きが良くなる」と。母は日に日にやせ細り、同時に母のカードの強さは増すばかりだった。病気が悪化するほど強くなる母のイメージを払拭するためにまなかは歯を食いしばって母に挑む。「私が勝てばお母さんの病気は良くなる」という妙な自己暗示にまなかは陥っていたが、最後まで一度も勝つことは叶わなかった。
まなかにとってウィザーズソウルは対戦相手に嫌われるゲームであるともに、母の病気を克服させられなかった辛い記憶がこびりついたゲームでもあるのだ。

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作品自体の雰囲気は明るく、ストレスなく読み進められるのだが、ところどころでキャラクターの執念深さや意地悪さといった人間の後ろ暗い部分を感じる。そしてそこがこの漫画が提示する斬新さにつながっているというのが私の主張である。
まなかが瑛太に圧勝してポイントが移動したのがクラスメイトに広まった途端、まなかはクラスの男子からちやほやされ始める。前述のとおり、瑛太は四国グランプリに出られるだけのポイントを有していた強者であり、瑛太に勝ったまなかはカードゲームが上手くてかわいい女の子というポジションになったのだ。そしてその様子を見つめる女子の陰険な目線が私にはツボだった。カードゲームが強いだけで嫉妬される社会なんて嫌だなーとは思いつつも、漫画として見てる分には楽しいからだ。

見るべき点は多数ある。なぜ打ち切られたのか?

本作はカードゲームのルールがわからなくても面白いし、カードゲームへの興味も湧く。表紙を見ればわかるように絵もうまい。主人公のプレイスタイルも独特で、相手に不快な思いをさせてでも勝つ姿はまるでダークヒーローのようで応援できる

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カードゲームが生活の主軸にある世界観も独特だ。まなかの通う中学校ではカードショップ以外のバイトが禁止されているという記述があるが、そもそも中学生を働かせるのは現実世界では禁止されており、カードショップならOKというカードショップへの厚い信頼に笑ってしまう。さらに言えば賭けカードが合法(厳密にいえば合法の記載はないが、レアカード詐欺に騙されるようなまなかの父親が賭けカードを行っていることからして、パチンコや競馬同様の立ち位置にあると推定される)であり、中学生女子から「カードゲームをやらない人を好きになるなんて趣味悪い」という現実離れした発言まで飛び出す。

私からすれば15巻くらいまでは続いてほしいくらい良作だったのだが、なぜ打ち切られてしまったのか…。無念で仕方ないが、改めて読み返して無理やり欠点をひねり出してみた。

欠点① 強さのシンボルが主人公の母しかいない

対峙する強敵に対してまなかはよく「母と同じ雰囲気がする」とか「母には及ばない」と言った表現をする。まなかにとっては倒せなかった強敵として母の影が付きまとうからだろうが、繰り返し出てくるとさすがに作者の引き出しの狭さを感じてしまう。

作中ではデュエルポイントがweb上で公開されていることからしても強さの数値化がなされているわけで、「彼はデュエルポイント2000を超えるの強敵だ」みたいなダサいが分かりやすい描写も可能だ。が、デュエルポイントが活かされることはなかった。

加えてカードゲームアイドルが総額100万円のデッキを握って作中最強かのように首尾一貫して描かれているのだが、強さがいまいちわかりづらい。本作の定石として雰囲気が暗くて怖いキャラほど強者の風格があるのだが、アイドルのような明るさの象徴のキャラが最強という描写は作品からは浮いて見えた。対照的にまなかの母のやつれた姿はまさに強者の佇まいとして読者に鮮烈な記憶を残す。

欠点② 話の規模が狭い

前述のとおりまなかの行動原理は借金返済である。大多数の読者にとってこれは興奮して同調する行動原理ではないはずだ。なにせ行動原理に情熱を感じられない。

まなかは優勝して借金を返済したらそれでいいのか?しかも出場するのは地方の大会である。王道少年漫画の主人公といえば大志を抱いて規模の大きな戦いに身を投じるのが一般的だが、本作はまなかの心中周りの描写が主であるし、まなかの戦いの場も比較的小規模と言える。このように描写の場や舞台という観点でも本作は小さく留まっている。

恋愛マンガであるならば心情周りの描写で完結しても良いのだが…。読者としてはずいぶん狭い世界の描写だなという印象である。カードゲーム漫画として評価した際に上述の内容は欠点と考えている。

欠点③ 破産は父の責任では?

カード破産したのは父親だから、中学生の娘が責任を感じる必要はない。まなかが必死に借金を返済しようとしているが、娘にそんなことしてもらって父親は恥ずかしくないのだろうか?設定の無理やり感があるが、ここは目をつぶってもいいところかもしれない。

続きが読みたい…

本作は4巻で打ち切られてしまったが、それでもきれいに終わっているので興味が湧いたらぜひ読んでもらいたい。打ち切りマンガを他者に勧めるのは心苦しく思う。多くの場合、キャラクターの寿命は全うされずに無念の死を迎えるからである。それでもなお本作には見るべき部分があると思い、ここで紹介させていただいた。

私の要望としては掲載誌を変えて連載を復活してほしいのだが…それは難しいだろう。無念でならないが、別の面白いコンテンツを摂取し、カードゲームをプレイして満足することにする。面白いコンテンツが見つかったらまた本ブログで紹介することにしよう。

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