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エピソード24 野寺坊

24 野寺坊

鳥山石燕の妖怪画集「画図百鬼夜行」にて紹介されて
いる妖怪。

その名の通りぼろぼろの袈裟を身に付けたお坊さんの
姿をした妖怪で、一説よれば人がいなくなった無人の
荒れ果てた廃寺に出没する妖怪、あるいは村人から
布施をいただけずに廃寺へと追い込まれてしまった
住職の怨念から生まれた存在で、夕暮れ時に寺に現れ
て寂しく鐘を付く妖怪だとされている。

漫画家・水木しげるによる野寺坊の解説文には、
子供のころ夕暮れの山の中で寺もないのに鐘の音を耳
にして、それを「野寺坊によるものだ」と教えられた
が、実際には山が入り組んでいるために音が反響し、
山彦のような現象が起きたのだろうと言っている。


24 野寺坊 オリジナルストーリー

大正時代の三重県、町はずれで二人の少年が
キャッチボールをしていた。

武 :
栄治、お前の球は本当に速いな!もう俺以外、
お前の球は取れないだろう。ハハハハ

と言っているとボールを捕球しそこねて後ろに転が
っていった。

栄治:
武しっかりしろよ、お前がちゃんと取れなきゃ試合
が出来ないんだからな。

......おい、武、どうした? 武?

栄治は武を探してボールの転がっていった方に走って
いった。この先は最近誰もいないのに鐘が鳴ると言わ
れるさびれた寺があった。

栄治:
どうした武、球は見つかったか?  
武? 誰かいるのか?

鐘の音が響いた

栄治の視線の先には武とボロボロのけさを着て灰色の
顔をした老人が見つめあっていた。

武 :
わあ~バケモンだ~!   

武はボールを投げ捨てその場から逃げて行った。
しかし、栄治はその場に立ち止まってバケモノと向き
合っていた。

坊主:
どうした?お前は俺が怖くないのか? 
大体の奴は俺を見たら一目散に逃げていくのに。

栄治:
僕はお前が悪い奴じゃない気がする。
だってあんなにきれいな寺の鐘を鳴らせるのはきっと
心がきれいだからだと思うんだ!

坊主:
ほほ~、お前は見どころのある奴だな。
鐘をきれいに鳴らすには心・技・体 全ての調和が
必要なのじゃ。 
どれ、もう一度聞かせてやろう。

鐘の音が響いた。

栄治:
お坊さん、
お願いだ!僕に鐘の突き方を教えてください。
僕もその音を出したいんだ、お願いです。

坊主:
そんなに俺の鐘の音が気に入ったか。
なら、特別に教えてやろう。こっちに来なさい。

こうして栄治とバケモノとの鐘突きのレッスン
が始まった。

坊主:
こっちの手はこう持って、そっちの手はそう、
足はここくらい...。

坊主:
わかったな、じゃいくぞ

パーン

なんだその音は、ちゃんと突けてないから
そんな音になるんだ。 
もう一回。

ポーン

どうなってるんだ?どうやったらそんな音
が出せるんだ?  
もっと腰を入れて、もう一回。

ピーン

どうしたんだ鐘こわれたか?
そうか、お前にはこの鐘突き棒が大きすぎる
から振り回されるんだな。
ならば、棒を振る時片足を上げてバランスを
取りその勢いで鐘を突いてみるといい。
よしやってみろ。   

その時一陣の風が吹いた。
栄治は足を高く上げ振り下ろすタイミングで
鐘突き棒を振った。

澄み渡る鐘の音が響いた。

坊主:
素晴らしい!もう俺が教えることは何もない。
そして今日の事はお前のこれからの人生に
役立つだろう... 

そう言うとバケモノはスーーット 
姿が霧のように消えて行った。

この少年、後にかのベーブ・ルースを三振に
とった伝説的投手・沢村栄治として有名に
なるのはこの十数年後になる。

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