エピソード56 狐火
56 狐火
狐火(きつねび)は、日本各地に伝わる怪火。
ヒトボス、火点し(ひともし)、燐火(りんか)とも
呼ばれる。
狐火の特徴は、火の気のないところに、提灯または松
明のような怪火が一列になって現れ、ついたり消えた
り、一度消えた火が別の場所に現れたりするもので、
正体を突き止めに行っても必ず途中で消えてしまうと
いう。
また、現れる時期は春から秋にかけてで、特に蒸し暑
い夏、どんよりとして天気の変わり目に現れやすいと
いう。
十個から数百個も行列をなして現れ、その数も次第に
増えたかと思えば突然消え、また数が増えたりもする
ともいう。
火の色は赤またはオレンジ色が多いとも、青みを帯び
た火だともいう。
狐が人を化かすと言われているように、狐火が道のな
い場所を照らすことで人の歩く方向を惑わせるともい
われており、そのようなときは足で狐火を蹴り上げる
と退散させることができるといわれた。
56狐火 オリジナルストーリー
ここは岩手の山里、信夫は友人の祝言の帰り夜道を一
人歩いていた。
信夫:
いや~しかし花嫁さん本当きれいだったな~。
ウィッ、ちょっと楽しくて飲みすぎちゃったな~。
でも今夜は月も隠れがちでちょっと暗くて足元が怖い
な~。
おや、ありゃなんだ?
信夫が山の方を見ると、ふもとの川に沿って青い火が
一列に20個ほど並んで揺れながら進んでいる。
信夫:
お~こりゃばあちゃが言っていた狐火ってやつだな!
よーし俺が正体あばいてやるぞ~!
酔った勢いもあり信夫はそーっと狐火の列に近づいて
いき、ゆらゆら揺れる狐火の列の最後の炎に飛びつい
た。
キャーン っと一声鳴いたかと思うと他の狐火はちり
じりとなって逃げて行った。
信夫の手のひらの中にはけっして熱くはないがボーっ
と青く光る炎が揺れていた。
信夫:
お~すげえ!正体は分らんかったがすごいもの手に入
れたぞ!これで夜道も暗くねえ、さあ帰ろう。
信夫は大喜びで自分の家に帰って行った。そして家に
帰って狐火を見てみると灯りは消えていて、手のひら
に残っていたのは狐の毛の束だった。
信夫は毛の束をタンスにしまいそのまま寝てしまった
母:
こら信夫、いい加減起きなさい。
ゆうべはお祝い事だからってちょっと飲みすぎだよ。
それはそうと庄屋さんから手紙を預かっているんだこ
こに置いとくよ。
信夫:
いけねえ、もうこんなにお天道様が高くなっている。
ところで、庄屋さんの手紙ってのは何だ?
なになに俺に頼み事がある、夕方迎えに行くから出か
ける準備しとけって。
いつも世話になってる庄屋さんからの頼みじゃ仕方ね
えな。
ん、もしかして俺の嫁の世話でもしたいって話じゃあ
るめえな。
夕刻庄屋さんの使いの者だという小僧さんが迎えに来
た。信夫は便利なものがあるんだと小僧さんを少し待
たせタンスから狐の毛の束を持ってきた。
家から少し歩き暗くなってくると、信夫は小僧さんに
見ていろよ、とふところから毛の束を出し手のひらに
載せた。
すると青白い炎がチラチラ燃え上がり狐火になった。
信夫:
どうだ、すごいだろう!
昨日狐火の行列に飛びかかって捕まえたんだ。
勇気のある俺様ぐらいしかこんなことは出来ねえだろ
うな。 えへん!
小僧:
なんですかそれは!すごいですね、初めて見ました。
ちょっとだけオイラにもさわらせてください。
信夫:
ダメ~~。
これは俺の宝物だからだれにもさわらせないよ~。
小僧:
お願いしますよ~。後で庄屋さんの屋敷ついたら庄屋
さんのお嬢さん紹介しますから~お願いしますよ~。
信夫:
マジで、本当だな~。
嘘ついたら、俺の肩たたき100回だからな~。
しょうがねえな~ちょっとだけだぞ。
信夫は狐火を小僧の両手の上にのせた。
すると小僧の手の上にのった狐火は背丈ほどに燃え上
がり、小僧も狐火も消えてしまった。
夜空に小僧の声だけがひびいた。
小僧:
信夫さん確かに狐火は返してもらいましたよ。
この炎はオイラの母ちゃんのもので、昨夜あなたに取
られてしまったため母ちゃんは床に伏せっているんで
す。
これを母ちゃんに戻せば元通り元気になるでしょう。
本当ならこんな悪さをした人には重い罰を与えなけれ
ばならないですが、あなたは悪気はなかったようです
し、それにかなりバカなようですから、チョットした
お仕置きだけにします。
もう二度とこんなことはしないでくださいね。
次の日から信夫はしゃっくりが止まらなくなった、
しかし近くのお稲荷様に油揚げをお供えすれば止まる
忘れるとしゃっくりが止まらない。
こうして一月信夫のお稲荷参りは続きやっとしゃっく
りが止まりました。
もう二度と狐火を取ったりするのは止めようと思った
信夫であった。