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アンテ・イノベーションの孤独

 創造的な仕事は、病的な気配や狂気の予感と紙一重である。

 制作物に髑髏が入ってるとか、おどろおどろしいとかそういう表面的な話ではない。
 過去、これまでになかったような新基軸、誰もやらなかったことを、やる、ということは、常識や既成概念から外れる、ということである。それを生み出すプロセスや、生み出したものを見せるプロセスには、相当なる精神的負荷がかかる。

 つまり、人に受け入れられないかもしれない恐怖と向き合う、ということである。

 人間にとっての心の必須栄養素とは、繋がりであり、連帯であり、受け入れ、受け入れられること、認め合うことである。
 それは、常識という檻のなかで暮らすことと、表裏一体である。

 非凡な、創造的な仕事が、経済に結びついたとき、イノベーションと呼ばれる。イノベーションの前夜は孤独である。恐怖である。その暗さが、暗ければ暗いほど、可能性もまた存在している。
 年齢を重ねると、その暗さとの付き合い方が、わかってくる。

 わかってくることにより、失われるものも、ある。

 若さゆえの創造性とは、恐怖の濃さと、同義なのだ。

 だからこそ、多くの成功した作家は、出世作の輝きを超えられない。円熟によって補い続けるしかない。

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 孤独に負けてしまうと、価値を生み出す前に、倒れてしまう。魂の孤独と、生活の孤独は、別の話だ。倒れないために、美味しい食事をしたり、心許せる人に抱きしめてもらうことも、大事だ。志をともにする仲間と語らうのもいい。
 ちなみに最近、芭蕉七部集を読み始めて、あの松尾芭蕉ですら、最前衛の孤独を分かち合う仲間がいたのだと知った。
 孤独そのものを打ち消してしまうほどの光は要らないけれど、星空や月とは、ともにいても、いい。(本当の創作は、新月の、嵐の夜に、藪の中でしか、生まれないのだとしたら)

 本当の孤独を知る人は、実は、孤独ではない。

 創造的な仕事をする人は、この命題に賭け金を置くしかない。まぁ、その極北に到達すると、ニーチェになっちゃうかもしれないけれど。


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