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真夜中にシンデレラは、

私の好きな人は、クラスの可愛いあの子が好きだ。
クラスの可愛いあの子は、目に見えない何かに縋っていて、恋愛なんてこれっぽっちも興味が無さそうだ。

私の好きな人の恋は、きっと実らない。
でも、どっちにしても私の恋も実らない。


自分を求めてくれない人なんて、好きにならなきゃ良いのに。
自分のことを愛してくれる人だけ、好きになれば良いのに。


そう思ったけれど、それじゃあ私もあの人を好きにはならなかったから、どっちにしろ結ばれないんだと気が付いた。あぁ、どうすれば良いんだろう。追っかけても追っかけても、届かない。お互いに、届かない。お互いに。
もしもあの子が居なければ、少しはこっちを見てもらえただろうか。なんて、考えてみても、たられば話なんか、なんの意味もない。

「くだらなっ」

誰にも聞こえないくらいの小さな声で呟いた。


五時間目の教室。
ぽかぽかの日差しと、爽やかな風が頬を掠めた。


私の好きな人は、私の友達。
学校から帰って夜になると、私のスマホを鳴らす。
議題はいつも、『今日も可愛いあの子の話』

私の気なんか知らないで、まるで自分が世界で一番不幸かのような口振りをする。
一番不幸なのは、好きな人の口から別の女の話を聞かされてるこの私だよ。


でも、言ったってしょうがない。
あの人にとって、あの子は「好きな人」。でも私はただの「友達」だから。しょうがない。しょーがない。
そういう事話してくれるだけ、身近に感じててくれてるって思って置こう。

あの子には負けるけど、あの人の頭の中にいる割合が、他の人より多いことを喜ぼう。

なけなしの自尊心。下らないマウント取り。
例え心の中だけであっても、しょうもないことをしている自分が、酷くガキ臭く感じた。


「しんど…」


私がそんな風に思ってるとはつゆ知らず、電話越しに聞こえるあの人の声は、呆れるくらいに呑気だった。



まわる、まわる。今日もまわる。私がどんなに悲しんでも、世界は今日もまわってる。

笑う、笑う。今日も笑う。私がどんなに妬んでも、あの子は今日も笑ってる。

嘆く、嘆く。今日も嘆く。私がどんなに愛しても、あの人は今日も嘆いてる。

何も上手くいかない。
思い通りにいかない。
人生なんてこんなもんなのか。

『たった十七年の人生で何を言う』って、大人の人達は笑うかもしれないけど、そのたった十七年が私の人生だし、このたった十七年が私の全てだもの。十七年もプレイしてるのに、一向に勝算の見えないゲームはクソゲーだろう。


なんで思い通りにならないんだろう。
なんでこっち見てくれないんだろう。
だって、絶対に振り向かない人追うよりか、既に自分のことを好きでいてくれる人を好きになった方が、効率的じゃん。

…。


効率がどうこうって話じゃないことくらい、分かってるよ。

言葉がブーメランのように軌道を変えて、そのまま自分に突き刺さる。
私も誰かにそう思われているのかなぁ。


まぁどちらにせよ私はあの人にしか興味が無いのだけれどね。


電話を切り、真夜中に、裸足のままベランダに出て、月を見ながら温かいココアを飲む。
髪の毛も半乾きで、お母さんに見つかると、すぐ怒られる。

白く澄んだ月の明かりに照らされると、なんだか自分が浄化された気になって、汚い感情も湧かなくなるんじゃないかって思ってしまう。そんなわけないのにね。
深夜にベランダで月を見ながら愁いていれば、白馬の王子様が迎えに来てくれるんじゃないか。そんな下らないことを考えたりしてる。本当に下らない。下らないことしか考えられない。


明日は何回話しかけてくれるかな、明日は移動教室で隣に座れるかな、明日はあの子はどんな服を着てくるかな、明日もあの子は学校に来るのかな。終わりのない自問の連鎖。考えたってしょうがない。だって好きなんだもの。あの人が。叶わなくたってチャンスくらい欲しいじゃない。


あぁ、王子様。どこかのお国の王子様。
早く私を迎えに来て。そしてこの身と心、まとめて奪ってちょうだいよ。

あぁ、アホらし。

「寝よ……」


明日も普通に生きて、普通に失恋しよう。
初めまして、私の九十一回目の失恋さん。


何度も何度も破れても、それでも「好き」が消えないから、いつまで経っても、月夜に愁いちゃう。

ぬるくなったココアを飲み干して、重たい布団に体を滑り込ます。

あぁ、私の王子様はどこに居るんだろう。

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