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僕とイヌ

どうしてもわからないことがある。それは、どうしてこうも執筆や物を書く人間の周りにはネコがいるんだろうと......。

朝の散歩の時間、僕はゴールデンレトリバーのベンを連れて考えていた。彼がハフハフと言って歩くさまはとてもかわいい。犬、かわいいじゃん。

「なんでネコなんだろ」

道端でネコを見かける。うちのベンはネコが苦手だ。小さかったころ、ベンは野良ネコにいたずらして引っ掛かれたことがある。ネコをみると彼は大きい体をしぼませてひそめ歩く。そんなことしても意味ないよ。おまえでかいじゃん。

ネコはわがままで仕事の邪魔をするとよく小説には書かれている。なら、ネコなど飼わなくていいと思うのは僕だけだろうか。しかし、おおくの主人公や物書きはその猫をなでる。ネコは書斎で我が物顔で寝そべっている姿が絵になる。そして文体に取り入れやすいのだ。インクをこぼされてもそれをネタに一筆入れられるのだ。

「おまえは賢いからそんなことしないよな」

言葉を交わしても返ってこないなって分かりきっているのに僕は頭をなでて尿意を見守る。電柱に持ってきたペットボトルの水をかけて自分の家に折り返す。ネコは散歩する。でもさせてはくれない。ふらっと旅に出たと思えばふいと戻ってくる。気ままなのだ。僕はネコが苦手だ。犬は小説のネタにならないけど、すべてを忘れさせてくれる。原稿の締め切りも、止められそうなガスも、3ヶ月も滞納してる家賃も......。

「はあ、帰ったら仕上げないとな」

ベンに引っ張られながら空を見上げる。犬は主人が腑抜けてても家路につく。そして現実に引き戻すようにのしかかり、顔をなめまわす。おい、ご飯の時間だぞと言わんばかりに僕にコミュニケーションを図る。正気に戻った僕は家路につき、彼にエサをやった。彼は静かにエサをほおばった。デスクに戻り、僕は原稿を仕上げる。今日もネコについて語らなければならない。どうして僕はここまでしてネコを書いているのだろう。

「ネコになった主人公の話を書いてくださいよ。先生」

その一言だけで引き受けた僕も僕だ。日も当たらない僕を小説家にする条件。ネコの小説を書くこと......。ここまでネコを毛嫌いしているというのに僕は彼らの顔を毛づくろいする仕草やお互いの顔を擦り合わせる行動をできるだけ細密に描いて行く。その行動一つ一つに意味があるかなんてしらない。面白ければいいんだ。可愛いと思えればいいんだ。

ごはんを食べ終わり、自分のケージに戻ってスース―と寝息を立てるベンを横目に、僕はキーボードの「n」のキーを無心で長押しした。

んんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんn

結局原稿は仕上がらなかった。ホント、ネコの手でも借りたいよ。

「ああ、だめじゃないか先生。そんなことしちゃ」

僕は人間に抱えられてパソコン台から降ろされた。

でも、ネコの手を借りたいと言ったのは君だろ?

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