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男が春画の女に囚われる話

春画のある風景

202102251956

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ある男が中世の春画を買って家に飾った。
絵に特段興味がある訳でもなかったが、何か惹かれるものを感じたのだ。
毎日見て慣れ親しむ内に、はじめは変な顔だなあと思っていた女の顔と肢体が妙に色っぽく魅力的に思えてきた。なるほど、昔の人もこんなふうに想像を働かせたに違いない。
ある日、夢に春画の女が出てきた。朝見ると夢精していた。
それから毎晩のように春画の女は夢に出るようになり、夢も女に合わせて何やら幻想的で色褪せた独特の彩りに変化していった。女は馥郁たる香りを漂わせてまるで聖母のような面持ちであった。
次第に男は朝から晩まで女の事を考えるようになった。
いつの頃からか、女の相手役として描かれた後ろ姿の男が憎く思うようになった。
彼女は私の恋しい人なのに。

ある時、いつものように女に会うために早寝してうつらうつらしていると、夢か現か、女が目の前に現れ出てきた。
彼女と街で夕食を共にし、夢なら覚めなければ良いとぼうっと外へ出ると、女はあろうことか歓楽街に誘ってくるではないか。
しかし君には相手が居るだろう、と言うと、彼は仮初めの関係に過ぎないから、と女は答えた。抜け抜けと言い抜けてみせる小癪さが、しかし可愛くて仕方がなかった。
男は運を天に任せて女に手を引かれるままに歓楽街の闇の中へと付いていく、と、気づいた時にはこの世のものとは思えない濃闇の中にいて、しまった、と思うが足が言う事を聞かない。
ずんずん進んでいくと、街はずれにぽつん、と一軒の寂れたラブホテルが有って、無人の受付を通り過ぎた。受付台の内側にどうも変な気配。膝くらいの高さに目ん玉のような光と息遣いがあるようだ。男は一瞬気を取られたが、女は勝手知ったる様子で階段をどんどん上っていく。

パタ、と開いた部屋の中を見ると、思わず「あっ」と小さく声が漏れた。春画の中の部屋に内装がそっくりだったのだ。
その時にはもう女は殺気に近いくらいの妖艶な瘴気を隠さなくなっていて、身体は唯々諾々と従うばかりである。
脱ぎ捨てた服も散らばるままに、ベッドの上に乗り女の請うままに彼女の上に跨ってみれば、もう彼女の眼差しは潤んで射止められるよう、肌はしっとりと汗ばんで柔らかで吸い付くよう、誰が止められようか。
もう無我夢中に彼女の肢体を貪ると、ふと強烈に背後に視線を感じて、何の気なしに振り向くと、そこには目を真っ黒にした男が立っていて、その背後にはどこか見慣れた景色が見えるのである。
あっ、と何かが腑に落ちる、前に、目の前の男はゾッとするような恐ろしい笑みを浮かべて、それを見た途端に意識が落ちていくのを感じる。
ここは牢獄であった。


以下解釈

A、男は春画の中に入ってしまった。
B、目の黒い男は前に囚われた男で、元々春画に男は描かれていなかった。次に囚われる男が来ると、その男と成り代わる事で春画から脱出するのである。男は人生を乗っ取られてしまった。
C、目の黒い男は警察で、男は春画の女を想うあまり正気を失って無関係の女性を襲っていたのだった。
D、目の黒い男は春画を描いた画家であり、男は永遠に春画の中に囚われる運命になったのだった。
E、

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