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サンキュー・スナップ・ベン・ブロード

最後に見たマーベル映画はたぶんアイアンマンだった。
その一つ前はサム・ライミのスパイダーマン。
ベネディクト・カンバーバッチが好きなのでドクター・ストレンジには興味があるが、アベンジャーズですら1個も見てない。

そんな僕がなぜ「マーベル・スナップ」に手を出したかというと、noteで感触良さげな声をチラホラ見かけたのと、「あの」ベン・ブロードが手掛けた作品だからなのだった。

そもそもベン・ブロードって誰? って方のために説明すると、「あの」ハースストーンを手掛けたゲーム開発者のおじさん。

そもそもハースストーンって何? って方のために説明すると、超美麗カードバトルゲーム、シャドウバースも大いに参考にした偉大なDCG。
ウマ娘とパワプロの関係性を想像して貰えればおおむねOK。

そんな彼の功績と罪はDCGとランダムゲームの親和性を解き明かしたところにある。
あなたの手札からランダムに一枚適用する。効果の当たる対象をランダムに決定する。お互いのデッキに入っていないランダムなカードをゲーム空間に呼び出す。紙のゲームで不正なく実現するのは難しい効果も、紙でなければできることに気づいてしまった悲しき天才。
天界の門》で《深海の覇王・ダゴン》のコストを0にされてキレたあなたも、ミネアの《つむじかぜ》が全部顔に当たってキレたあなたも、《爆音ソングスピナー》から《荒廃の足音》を引かれてキレたあなたも、あれもこれもそれも大体この人のせいってわけ。

思えばランダムゲームと僕たちはだいたい怒りとともにあった。
地道に積み上げてきたアドバンテージをたった一枚のおみくじカードで覆される虚無感を想像いただけるだろうか。

でも初心者がそれで勝ったら快感でしょ? あるいは、ランダムのもたらす可能性を全て計算してこそ上級カードゲーマーでしょ? と言わんばかりに、巷のDCGはランダムカードを刷りまくっている現状。
可能なかぎりランダム性を廃すという崇高な目的を掲げていた某カードゲームですら、今やランダム性しかないカードを無限に量産している体たらく。

おのれベン・ブロード、という気持ちを僕たちは、サンキュー・ベン・ブロードというネットスラングに託すのだ。うすら笑いを浮かべ噛みしめる唇に滲んでいたものはまぎれもなく血。

そんなベン・ブロードが四年がかりで世に生み落としたカードゲームが、マーベル・スナップなのだった。

語るべき特異な要素は色々とあるが、先人の素晴らしい記事に譲り、上記の記事でもすでに語られていることであるけれど、僕もスナップ・システムのもたらした可能性について語りたい。

スナップ・システムとは何か。
それは勝負の途中で賭け金を倍に増やすことのできるシステム。
ポーカーのレイズを想像していただければ良い。もしくはカイジの限定じゃんけんで賭ける星の数を途中で倍にできるという仕組み。
マーベルユニバースのキャラクターが指をパッチンと鳴らすかのように、素晴らしきヒィッツ・ガラルドが衝撃波を飛ばす時のように、ことが行われる前後で鮮やかに、勝負の価値が変動するのだ。
そしてプレイヤーは、ゲームの好きなタイミングで、それがスナップを宣言された瞬間であっても、ゲームから撤退することができる

そこに、このゲームの核があり、ひいてはDCGの希望がある。
ベン・ブロードは気づいていた。
ランダムゲームの敗北が僕たちにもたらす不快感の正体に。

それは、相手の所持カードを読み切り、ゲームプランをこね繰りまわし、血反吐の思いでやっと手にした+20ポイントが、次の対戦相手のおみくじカードの大吉で、たやすく-20ポイントされるからだということに。

実力の勝利も運ゲーの敗北も等価値であるから問題なのだ。
ならば、その価値を変動させてしまえばいいんじゃないか?

そしてプレイヤーはお互いの合意のもと変動をコントロールすることができる。ランダムゲームがどれだけ僕たちのコントロールを離れて、その大きな翼で、思いもつかない地点まで羽ばたいていこうが、僕たちが主導権を失うことは決してない。

ランダムDCGを産み落とした天才が次に世へと運んだのは、ランダムゲームを上手に楽しむための一つのヒントだ。
勝者がいれば敗者がいて、幸運な勝利の向こう側には理不尽な敗北がある。
言葉にすればなんてことない事実だが、それは今までDCGが、「敗者が不快であるのは当然だ」ともっともらしい顔で切り捨ててきた側面だ。
翼に魅了されたベン・ブロードは、飛べない僕たちを見捨ててはいなかった。

この先マーベル・スナップが覇権を取ることは正直ないと思うが、このゲームを愛した少年や青年が、DCGに変革をもたらす未来は、きっとありうる。

理不尽なゲーム展開が目の前で繰り広げられた時、僕たちは席を立ちあがる権利を手に入れた。賭け金を一つだけ場に残して。

サンキュー・スナップ。サンキュー・ベン・ブロード。
閉塞感漂うDCG界隈に、新たな展開を期待して。

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