MARVEL SNAPはいかにして既存のデジタルカードゲームの課題を克服しようとしているのか

2022/10/28に「MARVEL SNAP」という新作デジタルカードゲーム(以下DCG)がNuverseよりリリースされた。このゲーム一見すると、題材のマーベルユニバースがウリに見えるが、開発スタジオを率いるのがDCGの人気作品「ハースストーン」の元ゲームディレクターのベン・ブロード氏ということでDCG界隈の一部では注目されていた。ゲームの概要については4gamerの方にわかりやすい紹介記事が出ているので是非見てみて欲しい。

ただ、あまりにこのゲームが面白くかつ挑戦的なので、自分でも少し感じたことを書いてみたいと思う。MARVEL SNAPが既存のDCGの課題に対してどのようなアプローチを取ろうとしているのかという切り口で特徴をまとめてみる。
既存のDCGの課題としては、以下のようなものがある。

  • カードの入手が容易であるため、環境の固定化が早い

  • 押し付ける動きが強すぎて、読み合いや駆け引きの要素が薄い

  • ランダム要素にゲームを壊される不快さ

  • 1ゲームに時間がかかり過ぎる

これらにMARVEL SNAPはどのような解決策を提示しているのだろうか?

環境の固定化に対するアプローチ

デジタルカードゲームでは、ゲームプレイかあるいは課金によってカード資産を増やして、強いデッキを構築していく形が一般的である。リアルのトレーディングカードゲームのようにカードパックからランダムに入手する他に、カードショップで単品購入するようにゲーム内リソースを消費して欲しいカードを選んで入手できることが多い。欲しいカードの入手が容易であることは嬉しい反面、現代の情報伝達が速過ぎるために、強いプレイヤーが作った強いデッキをネット上で共有し、みんながそれをコピーしてあっという間に環境が固定化してしまうという課題がある。
これに対するアプローチは比較的シンプルで、カード資産の入手の自由度を下げて、資産の増加スピードをサービスの運営側がコントロールしてしまえばよい。MARVEL SNAPはこのアプローチを取っている。カードの入手は基本的にランダムであり、欲しいカードを選んで入手する方法は現状ない。ゲームプレイを続ければいずれは全てのカードを入手可能ではあるものの、どれだけ課金しても一気に欲しいカードを揃えることはできない。このカード資産増加スピードをコントロールするアプローチは過去にもライアットゲームズが、League of Legendsの世界観のDCGであるLegends of Runeterraにおいて実施したことがある。ただ、それでもある程度は好きなカードを入手することが可能であり、MARVEL SNAPはさらに踏み込んだ制限をかけているように感じる。

課金してもゲーム内リソースの購入には制限がある

この対策は、今のところかなり功を奏しているように感じ、みんなが入手できたカードを組み合わせて対戦しているので、環境の多様性は維持されている。ただ、この効果の持続性がどの程度であるかは未知数であり、ゲームを始めるのが遅かった人が不利益を被らないかや、欲しいカードがなかなか入手できないことでプレーヤーがゲームを離れてしまわないかなど、弊害も懸念される。今後の運営を見守りたい。
もうひとつ環境の固定化とマンネリ化に対するアプローチとして、ロケーションという独自要素が取られているのだが、これは次の項目とも関わりが強いのでそちらに記載する。

押しつける動きと展開のマンネリ化に対するアプローチ

カードゲームの醍醐味の一つは、対戦相手との駆け引き・読み合いである。しかし、現状のDCGにおいては、1ターン目にAをプレイ、2ターン目にBかCをプレイというように、強い動きを押し付けるデッキや、コンボデッキと呼ばれる勝つために必要なカードをひたすら集めるデッキなど、相手お構いなしでプレイしても強いデッキが環境を席巻する傾向がある。これは、駆け引き・読み合いの楽しみをスポイルしてしまう上に、似たような展開ばかりになりマンネリ化してしまうという問題につながっている。
ハースストーンなどの既存のDCGでは展開のマンネリ化に対するアプローチとして、派手なランダム要素をゲーム内ギミックに加えているのだが、せっかく色々考えながらプレイしていたのにランダム要素にゲームをぐちゃぐちゃにされて負けると不快さや虚無感を感じることも多い。(ランダム要素に対するMARVEL SNAPのアプローチは次の項目に記載する)
MARVEL SNAPでは駆け引き・読み合いの楽しみを強め、展開のマンネリ化を防ぐためのアプローチとして、ロケーションと呼ばれる独自システムを採用している。1回の対戦では、3つのロケーションがゲームに登場し、そのうち2つのロケーションを確保したプレーヤーの勝利となる。2つ確保すれば勝利ということは、1つは捨てても良いということで、どれを捨ててどれを取りに行くかの熱い駆け引きが展開される。3つの盤面のどれを捨てて、どれを取るかという読み合いを強いるシステムは過去にもValveの「Artifact」というDCGで採用されており、またウィッチャー世界を題材とした「グウェント ウィッチャーカードゲーム」というDCGでは空間ではなく時間軸で類似性のあるシステムを採用していた。

3つのロケーションの例。1ターンに1つずつ効果が開示される

MARVEL SNAPの上手いところは、このロケーション1つ1つにランダムに効果が割り当てられていることだ。効果というのは、例えばそのロケーションに置かれたカードのパワー(基本的には数値の合計が大きい方が、そのロケーションを取る)を大きくしたり、それぞれのプレーヤーの手札を捨てさせたり、本当に様々な効果がある。この効果がランダムにロケーションに割り当てられ、種類も多いためゲーム展開がマンネリ化しにくい。また、ロケーションに割り当てられた効果は、ゲーム開始から1ターンごとに、1つずつ公開されていく。このため、効果の開示されたロケーションを無難に取りに行くか、効果が未知のロケーションに先んじて乗り込むかなど、序盤からプレーヤーの個性がでる読み合いができる。さらに、特定のロケーションが登場しやすくなるような期間限定イベントもあるようだ。特定のロケーションが登場しやすいのであれば、それに合わせて強いデッキも変わるはずで、これは環境の固定化に対する対策としても機能する可能性がある。

カマル・タージが期間限定で頻出。オーディンの別荘だけあり、オーディンが強い

ランダム要素が与える不快さに対するアプローチ

リアルのカードゲームでは、ランダム要素を扱うのが難しい。毎回サイコロを振ったり、デッキをシャッフルしたり手間がかかるし、例えば「デッキ外からランダムなカードを手札に加える」という効果をリアルなカードゲームでギミックとして入れるのは現実的に難しいだろう。しかし、DCGでは簡単に実装できる。しかも、予想のつかないゲーム展開に寄与しやすく、競技シーンで観ていても楽しいということで、DCGでは多用されるギミックとなっている。しかし何事も負の側面はあるもので、30分以上かけて試行錯誤しながらプレイしていたゲームが、自分あるいは相手のプレイしたランダム効果のカード1枚で決まってしまったときの虚無感はなかなか辛いものがある。MARVEL SNAPはSNAPと呼ばれるギミックで、ランダム要素がもたらす不快さを軽減することに成功している。

SNAPはポーカーのレイズと似たギミックで、対戦相手と争う勝ち星(コズミックキューブと呼ばれる)の数を能動的に増やすアクションである。SNAPはレイズに相当し争う勝ち星を2倍にする、フォールドに相当する撤退というアクションもあり、どちらもゲーム終了の直前までいつでも取ることができる。勝ち星が2倍になるのは、お互いのプレーヤーがSNAPしたときと、ゲームの最終ターンが終了したときで、両プレーヤーがSNAPし、最終ターンを終了した場合に争う勝ち星は2×2×2で8つとなる。逆に、自分がSNAPしておらず、相手がSNAPしたときに応じずに撤退した場合に失う勝ち星は1つだけだ。SNAPシステムは非常によくできており、別でこのシステムだけをもう少し考察してみたいが、簡単に言ってしまえば自分がSNAPするかどうか、相手のSNAPを受け入れるかどうか、最終ターンを終了するかどうかの3つの判断は、自分がそのゲームに対してどれだけコミットしているかを表していると言える。

一方がSNAPして最終ターンを終えると争う勝ち星は4つ。今撤退すれば2つ失うだけで済む

ランダム要素の不快さ軽減とのつながりで言うと、ランダム要素による許容しがたい不利を強いられた場合にはさっさと撤退してしまえば失うものは最小で済ませられるということだ。例えば1ターン目に、ロケーションのランダム効果がお互いの手札からランダムなカード1枚をそのロケーションにプレイするというもので、自分は1コストのカードがプレイされ、相手は6コストのカードがプレイされたとする。この場合、ゲームが始まってすぐにランダム要素で圧倒的不利な状況を背負ったことになる。相手は当然SNAPするが、自分は撤退する。失う勝ち星は1つだけなので、ストレスも最小で済む。逆に自分も相手もSNAPして最終ターンを終えた場合、自分は当然勝てると思ってその状況に身を置いているので、例え負けて8つの勝ち星を奪われても納得感がある。運ゲーで小さく負けることはあっても、大きく負けるのは基本的には自分の判断ミスということだ。

ロケーションのランダム要素が基本的にはゲーム前半に集中しているのもSNAPシステムとうまくかみ合っており、ロケーションのランダム要素を踏まえて勝負するか降りるかを決められる。本当によくできたシステムだ。デメリットもないわけではなく、大きく差がついてしまうと降りられてしまうので、ゲーム前半で勝負するアグロっぽいデッキは損をして、ゲームの最終ターンに大きくスウィングできるデッキが得をするような気がする。(まだリリースされたばかりでわからないが)

1回の対戦の長時間化へのアプローチ

現代のDCGはスマートフォンでのプレイも想定したデザインとなっているのだが、正直に言ってほとんどのDCGは対戦にかかる時間が長すぎる。アグロデッキなら5分~10分は現実的だが、どちらかがコントロールデッキなら15分以上はかかるし、コントロールデッキ対決なら30分以上もざらである。これではせっかくスマホで手軽に遊べるといっても、隙間時間にアプリを起動しようという気がなかなか起きないというものである。
MARVEL SNAPは、毎ターン交互にではなく2人のプレイヤーが同時にターンをプレイするというデザインと、終了ターン数を明確に決めてしまうというやり方でゲーム時間の短時間化に成功している。どちらのプレイヤーも撤退せず、最終ターンの6ターン目まで終了した場合でも5分はかからない程度でゲームが終わるため、電車での移動時間などの隙間時間でもプレイできるゲーム時間となっている。ここまで書いてきたように、短い時間の中でも駆け引き・読み合いがしっかりあるので短時間化により満足感が失われることは今のところ感じていない。

まとめ

言いたいことは、「MARVEL SNAP面白いからみんなやろう」ということに尽きる。まだリリースされたばかりで展望は見えないけど、ゲーム面白いし、UIも洗練されていてサクサク、隙間時間でも手軽にできるし、アメコミ世界観の魅力もしっかりある。それでも少なくとも日本では流行る気がしないのは何故だろう・・。DCGファンもアメコミファンもニッチで少数派だろうし、競技シーンもあまりに手軽過ぎてちょっと難しいかなという感じる面があり、ディープな競技プレイヤーへの訴求力も限られそう、ってあたりが真面目な分析だけど、面白くて挑戦的なゲームなので是非!


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