メリナとは、何者だったのか【エルデンリングDLC考察②】
メリナ
いわゆる「火防女」の立場にいる彼女ですが、『SEKIRO』のエマや『blood borne』の人形と比べても、その存在感の薄さはよくネタにされています。実際、彼女の口から出自が語られる機会は多くありません。我々に分かるのは断片的で、彼女の身体がすでに焼け爛れ霊体と化していること、その使命はどうやら黄金樹を燃やすことにあったらしいこと、そして彼女が監禁されていたであろう場所から見つかる使命の刃に記された「種火の少女」という呼び名、といったものでした。
彼女の「母」とは誰なのか。なぜ、記憶を失っていたのか。そして狂い火の王エンドにて開かれた彼女の瞳は、なぜ暗い青色をしていたのか。推察するほかありませんでした。
そうした事情もDLCでわずかばかり変化が訪れました。どうやら彼女の兄と思われる、メスメルの登場によって。
ゴッドフレイとゴッドウィン、レナラとレラーナ、ラダーンとラダゴンとライカード、ガイウスとガイア、そしてメスメルとメリナ、血縁同士の命名規則に准じているだけでなく、宿した種火が木を燃やす力を持つところ、あるいは片目を封じられ奥に真の瞳を隠しているというところにも、二人の共通点が見出せます。
もし、二人が本当に兄妹であるなら、メスメルの母はマリカであるから、メリナもマリカの娘なのでしょう。それは分かりました。しかし、テキストに示されたのはたったそれだけ。
まずもって、彼らの父親は誰なのでしょうか?
ここにも私は命名規則を用いて考察したいと思います。本作に登場する主要人物たちが、原作者ジョージ・R・R・マーティン(George Raymond Richard Martin)の頭文字、G,R,Mから名づけられているのは有名な話です。そのうちGはゴッドフレイとの子を、Rはレナラとの子を、そしてMはラダゴンとの子を表しているのではないかと私は思っています。
でも少し待って欲しいという人もいるかもしれません。ゴッドウィンの双子の弟であるはずのモーゴットとモーグの頭文字がMな理由は?
それも、私の主張のひとつです。つまり、モーゴットとモーグはマリカとゴッドフレイとの間に生まれた子ではなかった。それは一見、大ルーンのテキストと矛盾した内容の主張です。
ゴドリックの大ルーンには、ゴッドフレイとその子孫たちが黄金の一族であると。
そしてモーゴットの大ルーンには、モーゴットが黄金の一族として産まれたことが事実であると記されています。この二つを組み合わせることで我々は、つまりモーゴットとモーグは、黄金の一族の長子ゴッドウィンの弟たちであると理解するわけです。そう、テキストで実際に彼らをゴッドウィンの弟と記述したものは、私の知る限りありません。
「黄金の一族として産まれた。」
この表現はもちろん、黄金の一族に産まれついたと解釈することもできますが、もう一つ、
「黄金の一族ではないが、黄金の一族とみなされて産まれた」
と読むこともできると思いませんか。つまりマリカ≒ラダゴンの子であるが、ゴッドフレイの子として受け入れられて産まれたのだと。
示された事実はあくまでも、「として産まれたこと」であるのだから、黄金の一族であると言われたわけではないと、そう考えることは可能です。
そもそも大ルーン所持者を見渡すと、ゴッドウィンのものを盗んだ疑惑のあるゴドリックと、本人ではなくラダゴンの贈り物に大ルーンが宿っていたレナラを除けば、ラダーンやライカードを含み、実はマリカの子どもであることが要件に見えてきます。あるいは上のテキストは要の輪を持つことがゴッドフレイ直系の子の証であるという意味なのかもしれませんが、ラダゴンとはマリカであることが中盤まで伏せられていたシナリオの構成を鑑みれば、それも所持者たちがマリカの子であることを伏せる、一種のミスリードを誘った罠だとみなすことは十分に可能です。
しかし、あまり自然な読み方とは言えない、と思われる方もいるかもしれません。なぜ、そうまでしてモーグとモーゴットをマリカ≒ラダゴン単身の子にしたいのか? それはそう解釈することで、彼らの共通点が浮かび上がってくるからです。
ミケラ、マレニア、メスメル、モーゴット、モーグ、そしてメリナ。彼らに共通するものとは何か。それは、呪いを身に宿していることです。
マレニアは腐敗に侵されていました。ミケラは永遠に幼い宿命を身に受けていました。メスメルはその身に邪な蛇を封じていました。モーゴットとモーグは呪われて角を持ち産まれた忌み子であることが示されています。
呪われているならば、呪いを送る主がいるもの。
腐敗は封じられた外なる神のもたらしたものであるらしいことが、腐れ湖の地図断片などから読み取れます。
ではミケラの永遠に幼い呪いは? 私は、時の狭間にたたずむ竜王との関連を見出します。プラキドサクスとの邂逅は、崩れ落ちた周囲が復元していくという、時が巻き戻る表現の後に行われます。竜王の神、おそらく外なる神の一体は、時を神性としていたのではないでしょうか。
だから、ミケラは時に呪われた。
メスメルの邪な蛇についての記述は多くありませんが、塔の街ベルグラートの上部からエニル・イリムには、多数の蛇をその身に生やした男が女を抱く像が祭られています。絵画の名称が「神の塔」であることからも考えられるように、かの塔が神事のために設えられたものならば、角人の信仰した神は邪な蛇だったのではないかと考察することができます。
さらにモーゴットとモーグは、その血に呪いを宿していました。この血の呪いとは、外なる神の一体である、真実の姿なき母に由来するものであることがテキストからぼんやりと示されています。
こうして並べてみると、みな一様に、黄金律をもたらした大いなる意志ではない、外なる神からの呪いを身に受けている可能性があることがわかります。マリカ≒ラダゴン自身もまた、旧支配者である巨人、あるいはその神、火の悪神からの呪いを髪に受けていました。
その赤髪を、ラダゴンとレナラの子であるラダーンも受け継いでいるわけですが、ラダゴンのものを継いだラダーンと、ラダゴンのものと記述のない呪いを受けたマレニアやメスメルたちは、やはり異質な存在と言えるでしょう。
では、ようやくメリナです。
もし、メリナもマレニアやメスメルと同じように、何らかの神から呪いを受けていたのだとしたら。彼女に何か呪われているような部分はあるのでしょうか。
一つ、考えられます。それは彼女の身体が焼け爛れてなお、霊体として彷徨っていたこと。エルデンリングはファンタジーですから、霊体の存在も自然なものではないかとつい考えそうになります。しかし、作中登場する実体のない(メタ的には状態異常にならない)者たちは、王都に配置されたゴッドフレイ、狂い火への道にいたモーグ、カーリアの城館を守護したローレッタと、まっとうな攻略順を踏むのであれば、みな本体が生きていることを前提としていたのではないでしょうか。体が死してなお、その魂の存在が認められたのは、メリナと、そしてもう一人、月の魔女ラニしかいないはずです。
メリナとラニ。この二人にもちょっと、共通点が見えてくるような気がしませんか。彼女らも片目が封じられているとか、エルデンリングのヒロインと呼べる存在であるとか、そうした面の他に。
キーワードは、死にあります。
魔女ラニは陰謀の夜を首謀し、ゴッドウィンの魂に最初の死をもたらした時、死の力は彼女に跳ね返り、その肉体を殺しました。彼女の口からは、むしろ自らの体を殺し二本指を拒むことこそが真の目的であったと語られますが、死には魂と肉体の両者が要件であるために、ゴッドウィンの魂を捧げる必要があったのでしょうか。
確かなことは、彼女は死のルーンの力を身に受け、魂だけの存在となった、ということです。
死のルーンは宵眼の女王がかつて黄金律以前の時代に操っていた力であり、そして宵眼の女王もまた、指に選ばれた神人でした。
(さらに興味深いことには、この運命の死を取り除くという表現が、死と鎮魂を文化とする影の地を封じることを意味しているのであれば、宵眼の女王の神とは邪な蛇であったのかもしれません)
エルデンリングの王たちは神とともに描かれます。宵眼の女王の外なる神は、死を神性としていたのではないでしょうか。
だから、メリナは死に呪われた。
実は運命の死という言葉は、本記事の冒頭にもう出てきていました。
運命の死。メリナの口からその言葉が語られるのは、作中二度。一度目は巨人の釜からファルムアズラへ褪せ人を送り、運命の死をその身に封じたマリケスとの邂逅を予見して。そして二度目は、狂い火の王と化した褪せ人を目指し、まるで自らが運命の死を届ける存在であるかのように。
メリナの母とはマリカでした。マリカは黄金樹を焼く使命をメリナに託し、メリナはそれを受け容れた。なぜメリナに黄金樹を焼くことができたのか。それは彼女が神の呪いによって、死の力を瞳に宿していたから、死を封じた生の律である黄金樹に対抗できた。狂い火の王エンドにて開かれた彼女の左目は、暗い青の色をしていて、おそらくはあれが宵眼であるのでしょう。
以上が私の考察になります。
メリナはメスメルの妹であるらしい。たったそれだけの情報から、こうも考察が広がるなんて、フロムのゲームは面白いですね。
DLCを終えてなお、エルデンリングのアクション性にはいくらか不満のある私ですが、代わりに物語考察を楽しむことでこのゲームを遊び終えようと思っていたりします。
それではたぶん、第三回目で。
ここまでお付き合いくださり、どうもありがとうございます。
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