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カードゲームとしての『学マス』-その良さ

このたび大型デビューを決めた『学園アイドルマスター』ですが、カードゲームとしてもけっこうおもろい。わたくし見事にハマっております。

ネットのみなさんもきっと、その評判は目にしているんじゃないですか。
お金と気合のえらく入ったライブシーン。新進気鋭の有名アーティストによる「良さ」にあふれた楽曲。アイマスの王道から少しだけ外の世界に踏み出した個性豊かなキャラクター群。特に一部の「良すぎる」シナリオ。これは「新しい」アイドルマスターなのだという感覚が、稀にみるヒットの理由なのかもしれません。

ところが、そうした側面が称賛される一方、カードゲームとしてのゲーム性に触れる文章はあまり目にすることがありません。
確かに、『学マス』のカードプールは現状、リリースされたばかりのカードゲームにありがちな、単に優れたカードを集めるグッドスタッフを推奨するようなリストです。アイドルも4タイプに分けられているくせに、結局はXを溜めて最後に殴るルートを取ることになる。よく言えば造詣のないオタクに優しい、悪く言えばゲームプレイに変化のないシステムを選択しています。

では、そんなカードゲームのどこが「良い」のか?
それはゲームシナリオとカードゲームの融合性にあります。

例えば「元々ラスボス」という異色の出自を持つ主人公、花海咲季。

彼女の特質はその完璧性に挙げられます。あらゆる競技で優秀な成績を収めたアスリートが、今度はアイドル養成学園に首席入学して殴り込む。しかし、彼女には最も愛し、恐れる妹がいるのです。どんな競技でも常に敗北を喫させた妹…。「元々主人公」な大器晩成型の妹が、自分を追い越していく前に、あらゆる勝負から勝ち逃げを決めてきた、早熟で作り物の天才。
それが花海咲季の姿です。

そんな彼女の性質を、『学マス』はカードでも表現します。
彼女に与えられたタイプは【好調】。あらゆるカードのパワーを50%引き上げる固定バフ。早期決戦型のゲームにめっぽう強いバフ。そして、どれだけ積み重ねても50%から変わらない武器。最終試験では急速に追い上げる妹の恐怖を背中で感じ続けることになる道。

早熟で成長の見込みがないという彼女の本質を、カードで見事に表現しています。では、彼女とともにプロデューサーも成長を重ねていくことで、冷酷な早熟の檻を抜けだすことはできるのか。【好調】に、上はあるのか。答えはシナリオとゲームの中に。そちらの示し方もまた、なかなかに良いものでした。


もうひとり、例をあげましょう。
優れた歌唱力を持つ、ひねくれ者なトラブルメーカー、月村手毬。

彼女の課題は、体力不足。いつだって全力を出していたいのに、出し切れない自分も、出し切れない自分を支えてくれる周りの助力も、なにより、そこに甘えてしまいたくなる自分自身が許せない。だから、中学時代のトップユニットもぶち壊した。間食も増えた。体重が5kgも増していた。それでも、憧れは止まらない。自分の愛せる自分になりたい。

そんな彼女の性質を、『学マス』は消費体力で表します。
異なる2タイプのSSRを持ちながら、固有カードの消費体力はどちらも、全カードプールで1,2を争う基準のもの。『slay the spire』フォロワーのカードゲームである『学マス』では、シナリオを通して体力を高くキープしなければなりません。繰り返されるレッスンの中で毎回大きな体力を要求する彼女。

だというのに、彼女のシナリオに休息は許されません。いつだって全力で反省を重ねながら成長していくアイドルと、応えるプロデューサーの姿が示される。「休む」を選択した時には、誰より嫌そうな顔をする。でも、消費体力はひたすら多い。
そんな彼女をどうやって、休ませずにプロデュースしますか? と、ゲームから問われている気がします。

ゲームプレイの目的と、主人公の在り方と、シナリオがそれぞれ調和している。みなさんもうご存じのように、こうした一体感を持ったゲームをプレイする体験は、なかなか悪いものではありませんよね。


他にも、一番向いていないことを寄り道だらけに進み、やがて開花するアイドル。ひたむきな努力を続けた後に、大きく羽ばたきを見せるアイドル。
そうしたひとりひとりの特性を、『学マス』はシステムによっても表現することを試みている。すべてのライブシーンがソロ。アイドル個人に焦点を当てたゲームとして、良質なシステム選択と言えましょう。

冒頭にも書いたように、現状では、その試みのすべてが成功しているとは言いません。欲を出せばもうすこしゲームプレイに変化を持たせてくれないか。例えばキャラクター毎のカードプールの実装など、この先検討しませんか。

しかし、向く方向に調和を感じるゲームの成長性に、私は期待してしまいます。
それは、学生アイドルひとりひとりの成長を楽しむプレイヤーとしても、重なる視点に立つものです。

この先の『学園アイドルマスター』に、ささやかなエールを送りつつ。
ありふれた言葉でありますが。『学マス』はいいぞ、と結ばせて。

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