ゲーム日記②「溶鉄のマルフーシャ」から得られるものは何もない
やった
良いゲームだったと思う。
無駄に作り込まれた背景設定と特に饒舌ではない物語の組み合わせは僕も好きだ。少女たちの造詣はどれも可愛らしいし、幕間の寸劇も小気味いい。ラジオやテレビなど小物の提示法も上手い。
ハイスピードなテンポをとにかく重視したシンプルな設計は僕にはカタテマやsky…skyなんとかっていうハイスピードロボットアクションブラウザゲームが昔あって、その感じが懐かしかった。
クオリティは申し分ない。
特に感動するようなゲーム体験はなかったけれど、それはむしろ作者の狙い通りに思える。
以下ネタバレ
もちろん僕は消費者だから適当な不満を言い連ねることはできる。
例えば、周回要素がない。結末に救いがない。比較的早い段階でもう金銭のやり繰りに困らない。その癖お金を貯めてもメリットはない。キャラクター設定が作り込まれているのにイベントが少ない。
けれどもそれらは作者があえて盛り込まなかった要素かもしれない。
なぜならこの作品は「虚無」をテーマに取り入れているから。
壁の高い街の中で、ひげ面の男の肖像画を掲げて、赤の正義を叫ぶスピーカーの元、隣国からの侵入者を迎え撃つ門番、敗戦の決まった戦場で英雄的な戦果を挙げる少女、がこの物語の主人公だ。設定からしてすでに虚無。
だから主人公は周回するたび強くなんてなってはいけないし、激烈な難易度の果てにたどり着く少女らの救済など存在してはいけないし、国から支給される金額は生活や従軍に困らないがしっかりと搾取はされるくらいのレベルがちょうどいいし、お金を貯めたからと言って使い道が存在してはいけないし、彼女の日常に必要以上に華やかなものがあってはいけない。
それってゲームとしてどうなの? という疑問を、世界設定にそぐわないの一言でバッサリと切り捨てた様は痛快ですらあるかもしれない。
念を押すけれど、ゲームのクオリティは極めて高い。
やろうと思えばトゥルーエンドも、金銭管理が肝なゲームシステムもきっと作者には作れただろう。だからやろうと思わなかったのだと僕は思う。
なぜならば虚無であることに意味があるから。世界は虚無が支配する。
そんな訳でゲームシステムも虚無的だ。
比較的早く到達する武器の開発上限と、組み合わせても効果を産まないカードシステム。攻まりくる機械兵をひたすら迎撃する銃撃戦とテンポよく支給される給与明細。やっと給料が上がったかと思えばすぐに支出が増える癖に、お金に困る場面はない金銭システム。すべてが虚無に包まれる。
だからこのゲームは良くない、という結論を出したい訳じゃない。僕はこのゲームを楽しくプレイして虚無的に終えた。例え話を出すとシモネタになるのでやめるけど、理想的な「溶鉄のマルフーシャ」のプレイの仕方だったと思う。
それに、「何も生まないを愛する」というジャンルのゲームは確かにある。自分の行動に結果が返ってくるという単純なやり取りを高純度にするだけのゲーム。
空から落ちてくる無数の種を足場が消えないように打ち抜く。自分の作ったダンジョンで冒険者がアリのように力尽きて行くのを眺めて時々セックスする。一つの世界と四つの国をただひたすらに巡り廻る。相手の大軍勢がたった10人の龍騎兵の携えるマスケット銃によって端から順に消し飛んでいく。
あなたの胸にも「時間を溶かした神ゲー」はどこかに存在しているかもしれない。何も得られなかったはずなのに、やって良かったと思っているもの。
そんな神ゲーに名を連ねることを「溶鉄のマルフーシャ」は自ら拒む。
むしろこのゲームが愛するのはそこに生まれていた虚無だ。
陣取りゲームで強くなりすぎた自陣が最後の数マップを制圧する過程。序盤の難所を抜けて終盤の責め苦が始まるまでの、浮遊して腑抜けた自由時間。深夜三時、痛む頭とともにちらりと我に返る瞬間。
俺は今、可能性を無駄にしている。そこに生まれる背徳感。
未来に溢れる少女たちが無駄死にしていくこのゲームに、それは過剰なほどマッチして、引っ掛かる場所が何もない。
世界観のために全てを捨てることのできる作者は、次に何を作るのだろう。
クオリティの高い虚無が790円で売られている。
得られるものは何もないが、そこに浸るのも悪くない。
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