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市内RPG

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福井丘県子郡市。市役所発の魔王討伐に、高校生勇者がゆるーーく挑む。不定期連載中。
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#出版

市内RPG ①回覧板と魔王

ざっくり言うと 「魔王を倒してください」 という回覧板が、ぼくの家に届いた。 ぼくは福井丘県子郡市に住む16歳。性別は男。職業は高校生。教員の父と専業主婦の母、それに中学生の妹と暮らしている。 子郡市は、今はさびれた来目市のベッドタウン。人口6万人。田んぼと小麦畑と住宅地、そして築五川と華立山しかない平な町。何の特徴もない退屈な町。ただのんびりしたところが魅力?かな。 回覧板は月1回。 いつもは読まない回覧板だが、何故か目に止まったのだ。 「母さん、魔王だってよ」

市内RPG ④魔王討伐説明会

「主な説明は私、尾林がいたします。企画の目的、活動、評価と報酬の順に説明します」尾林さんは話し始めた。 「まず、この企画の目的は、魔王を倒すことです。魔王は世界の破滅を目論んでいます。邪悪な魔物を従えて虎視眈々と世界を狙っているのです。しかも、魔王はどこにいるかわからない。丁寧な探索が必要です。魔王を見つけ、そして、魔王を倒すことがこの企画の目的なのです。」尾林さんは少し興奮気味に言った。 「次に、活動を説明します。先ほど述べた探索と戦闘と報告の3つがあります。探索は、魔

市内RPG ⑥勇者誕生?

次の日、郵送で通知が届いた。 封筒には3枚の書類と木の棒が入っていた。書類は、勇者登録通知書、活動と報告の手引き、保険加入のお願いだ。 勇者登録通知書は、あなたは今日から勇者ですと書いてあった。少し立派な紙に市長の名前と印鑑が押されてあった。 活動と報告の手引きには、バーコードがあってケータイで読み取るように書いてあった。読み取ると、すぐに登録確認画面にログインさせられ、本人を確認した後認証されたようだ。ケータイには勇者としての身分証明書が送信された。魔物を倒したら写メ

市内RPG ⑦火の呪文

「どーなの?魔法使える?」ぼくとヤスはヒラに尋ねた。ヒラは、魔法使いになったのだ。なったのかな、市役所に登録しただけで。 「いやー、やっぱり練習と登録がいるみたいでねー」ヒラが言った。 「どうゆうこと?」 「魔法はイメージと呪文と効果登録が必要らしいんだよ。ケータイがキー局になってる。例えば、火の魔法をイメージする。イメージはケータイを通して現実の効果がつくられる。つまり、目の前に火がつくられる。さらに、呪文によって発動する。火が魔物に向かって放たれるらしい。レベルアップの

市内RPG ⑧会心の攻撃

ぼくとヒラとヤスの3人は、同封されていた武器を持って集まった。 ぼくとヒラは木の棒。ヤスはプラスチック?なかなか硬そう。 この違いは何だろう。職業の違いか? ぼくは勇者。ヒラは魔法使い。ヤスは戦士。 ヒラは木の棒を振り回しながら言った。 「これはヒノキの棒だね。ヒノキボー。ほら、ホームページに書いてある」 そう言って、子郡市のホームページをケータイで見せてくれた。ホームページには、「ヒノキボー、初心者の武器」と書いていた。 「あった、ヤスのはバトルステッキ、これだ」

市内RPG ⑨スライム

戦士のヤスはバトルステッキを装備している。 魔法使いのヒラはアツッの魔法を身に付けている。 勇者のぼくはヒノキボー。勇者のはずなのに。何か頼りない。まあ、とりあえず、ケータイに登録して装備した。 ヤスが言った。 「装備したら、戦いたくなるな」 「スライムくらいなら、勝てるかも」 ヒラもやる気だ。 子郡駅前噴水広場にそいつはいた。 小犬くらいの大きさで、水色の半透明のボディは形を変えながら動いていた。目や口は見当たらない。ただ半透明のボディの奥に核と呼ばれるソフトボー

市内RPG ⑩勇者のレベル

コンビニの広い駐車場で、グリーンスライムを見つけた。白線の汚れをかじっているようだ。 戦士ヤスと魔法使いヒラがゆっくり近づく。 よく見ると、2匹。 「大丈夫かな」ぼくは言った。 「勇者のくせにチキンだな」ヤスが言った。 「アツッ」ヒラが突然、火の呪文を唱えた。 「オリャー」あわててぼくも飛び出した。スライムAをヒノキボーでぶっ叩く。 「オリャー」ヤスも攻撃する。スライムの核をバトルステッキで突き刺す。 スライムAの動きがみるみる鈍くなり、動かなくなった。 動かなくな

コラボ企画「市内RPG」10回記念

高校生がバイト感覚で魔王討伐を目指す。ゆる〜い冒険譚「市内RPG」。 第10回記念として、絵が大好きな方とのコラボ企画を行います。 連載中の「市内RPG」を読んでいただき、インスピレーションを受けたイラストやマンガを気軽に投稿していただけたら、うれしいです。 イラストのもとになった「市内RPG」を貼り付けて、コメコメントいただけると、マガジンにまとめて拡散させていただきます。 ⑥勇者誕生? ⑦火の呪文 ⑧会心の攻撃 ⑨スライム ⑩勇者のレベル  冒険は続く。

市内RPG 11装備と4人目

翌日、1時。また、子郡駅に集合した。 「やっぱり休息は大事だねー」と魔法使いヒラ。 「力がみなぎるねー」と戦士ヤス。 「みんなレベル2だからねー」と勇者のぼくは言った。 「ところで、持って来た?」ヒラが尋ねた。 「一応、持って来たけど」 昨日、家に帰ったところで、ヒラからラインが来た。防具になりそうなものを持ってこいというのだ。 剣道部のヤスは防具一式を担いで来ていた。 「身に付けて」 「ここで?」 「そう。早く」 ヤスは服の上から面と胴、そして小手を身に付けた。 「T

市内RPG 12強くなるパーティー

ぼくら勇者、戦士、魔法使い、僧侶のパーティーは、子郡駅から電車に乗って、1つ北の小保駅で降りて、アスファルトの道を歩いている。 「ちょっと遠くない?だから、明日にしようと言ったのに」 さっきパーティーに加わった僧侶のカナは、文句をたらたら言いっぱなしだ。 「明日、自転車でって言ったのに」 戦士ヤス、魔法使いヒラ、勇者のぼくはそれを聞き流しながら歩いた。 広い県道が真っ直ぐ伸びている。片側は住宅地、もう片側は田んぼが広がっている。風はあるのだけど、日差しが強い。目的地は運動

市内RPG 13カゲとの遭遇?

レベル5になったぼくらは、市役所での情報をもとに、子郡運動公園に向かっている。 レベル5の戦士、勇者、魔法使い、そして僧侶。 もうスライムやジャンボタニシは恐れない。 市役所の尾林さんは、子郡運動公園にいるカゲから情報を聞くようにと教えてくれた。無事にカゲに会えるのだろうか。 カゲ。市役所の探索部。一般市民を装って、勇者を支援する。 子郡運動公園にそのカゲがいて、魔王の情報をつかんでいるらしい。 子郡運動公園。市民の憩いの公園である。 プロ野球チームの福井丘ソフトバ

市内RPG 14蛙とコンビニ

ピンクの帽子を被ったおじさんランナーは足を止めない。 ぼくら、つまり、勇者と戦士、魔法使い、僧侶の4人は何とかおじさんに追いついた。 「おじさん、おじさん、止まってよ」 ぼくらは走りながら話しかけた。おじさんは止まらない。ただ何かつぶやいている。小さい声だ。 ぼくらは伴走しながら耳を澄ました。 「魔王は蛙神社。魔王は蛙神社。魔王は、、、」 蛙神社。 蛙がたくさんいる神社。ここからそう遠くはない。小高い丘の上にあり、敷地の真ん中には小さな池がある。たくさんの蛙の置物

市内RPG 15決戦、蛙神社!

蛙神社に着くころには日が傾いていた。 蛙神社に飾られた風鈴の音は、蛙の鳴き声に少しずつ押されていくのが感じられる。 ぼくら勇者、戦士、魔法使い、僧侶パーティーは、蛙神社の鳥居をくぐり、石畳みを踏みしめながら奥に進んだ。 蛙が鳴いている。ゲコゲコ、ゲコゲコ。 竹林に挟まれた小道。右手に池があるらしい。蛙の鳴き声もそっちの方から聞こえてくる。 少し開けた場所にぼくらは出てきた。池も見える。太い木の柵で池は囲まれていて、「入るな、キケン」の看板が立てられている。 「どこ

市内RPG 16 蛙神社から出たカエル

ぼくら勇者、戦士、魔法使い、僧侶のパーティーは子郡市の蛙神社で、青いウシガエルと戦っている。 小さな青い蛙にたくさんの蛙がくっついて、牛くらいの大きさの青いウシガエルになったのだ。 前足を振り回す。 噛みつく。 舌を伸ばす。 跳ねる。 青いウシガエルの攻撃に苦戦している。 僧侶のカナは武器の木魚を青いウシガエル呑まれてしまった。 「このクソ蛙」カナは黙って木魚を持ち出していたようで、怒り心頭だ。 カナの方が蛙よりもコワイかも。蛙、蛙、、、コワイ、、、これならどうだ?