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市内RPG

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福井丘県子郡市。市役所発の魔王討伐に、高校生勇者がゆるーーく挑む。不定期連載中。
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市内RPG 61 小原合戦武道大会、始まる

小原合戦。 今から、1000年ほど昔、響都にあった牟呂町幕府が北朝と南朝に分かれて争っていた。遠い場所での争いのはずだったけれど、その火は、ここ子郡にも飛んできたそうだ。 子郡の豪族だった大朋氏と菊智氏。2つの豪族はそれぞれ北朝と南朝につくことになった。そして、北朝についた大朋氏と、南朝についた菊智氏が、筑五川沿岸のこの子郡の地・小原で戦ったのだ。 戦いの末、菊智氏が大朋氏を破って、この地方を制覇することになる。 その古い史跡にちなんだ武道大会が「小原合戦武道大会」である

市内RPG 60 カッパ4人衆

「これがカッパかーーーー」 戦士ヤスが、おかっぱ頭の4人を見て、拍子抜けした声を出した。 「失礼ね。これは、ボブって言うのよ。」 1番背が高い女性が応えた。180cmくらいはある。30代かな、40代かな。母さんよりは若く見える。 「こちら、背の高い順に、白烏ダンススタジオの白烏さん、黒鈴目さん、青木字さん、黄和士さん。」5cmずつ、小さくなっている・・・。 「よろしくーーーーー。」 4人は、声をそろえて言った。 「・・・・よろしくお願いします。」 ぼくらも、おそるおそる

市内の魔王に挑む、RPGはいかが?

あらすじ ぼくは、福井丘県子郡市に家族4人で平和に暮らしている16歳。毎日、隣町の来目市の明仙高校に、二師鉄電車で通学する。何にもない町と何にもない日々。ある日、家に届いた回覧板で「魔王討伐」の記事を知った。同じ高校の仲間ヤス、ヒラ、カナと、町の平和のために、魔王討伐の冒険を志す。子郡市役所で勇者の登録をした。保険にも入った。活動の手引きも読んだ。ケータイで、武器と防具と呪文を登録すると、攻撃力や防御力が上がったり呪文が使えたりする。まずは、スライムを退治して、レベルを上げ

市内RPG 59 カッパに出会う

早いもので土曜日になった。 いつもの二師鉄子郡駅前に集合した。 「大穂駅の改札にこいつが引っかかって、大変だったーー。」 戦士ヤスは、ベリービッグコンパスを担いできた。 「どんどん武器が大きくなってるから、気を付けないとね。」 魔法使いのヒラは、6色ペンの杖を振り回しながら言った。 「そう、そう、周りにも迷惑だから気を付けてよね。」 僧侶のカナも、それに同調した。 4人、そろったので、今日の行き先を決めることになった。 「もう来週が武道大会よ。装備も新しくなったし、力試

市内RPG 58 ライバル再び

ぼくら、レベル16の、勇者、戦士、魔法使い、僧侶の高校生パーティー。子郡市役所で勇者登録をして、魔王討伐のために、子郡市内をうろうろしている。 今日は、「シックスバリュ」でお買い物だ。 装備を買い終えたところで、声をかけられたのだ。 「装備ばっかり立派でも、魔王にゃ勝てないぜ。」 振り向くと、4人組が立っていた。 背の高い馬場、カリアゲ女子のルミ、日焼け坊主の井上、太っちょメガネのライト。 コイツらも勇者一行なのだ。 「あら、あんたたち、まだ勇者やってたの?」 ル

市内RPG ①回覧板と魔王

ざっくり言うと 「魔王を倒してください」 という回覧板が、ぼくの家に届いた。 ぼくは福井丘県子郡市に住む16歳。性別は男。職業は高校生。教員の父と専業主婦の母、それに中学生の妹と暮らしている。 子郡市は、今はさびれた来目市のベッドタウン。人口6万人。田んぼと小麦畑と住宅地、そして築五川と華立山しかない平な町。何の特徴もない退屈な町。ただのんびりしたところが魅力?かな。 回覧板は月1回。 いつもは読まない回覧板だが、何故か目に止まったのだ。 「母さん、魔王だってよ」

市内RPG ②仲間

二師鉄電車と二師鉄バスに乗って、明仙高校へ行く。夏休みなのに、補習があるなんて。進学校だからしかたないが、つまらない。 大穂駅からヤスが乗ってきた。 「おはよう」 「おぃーす」 ヤスのテンションは朝はこのくらい。いつものことだ。本人曰く、低血圧らしい。ひくいテンションのヤスとはなかなか盛り上がれない。無言で、電車に揺られている。ぼくらは電車の一番前に乗る。混まないし、乗客の先頭にいるということは何かうれしい。 次の足坂駅からはヒラが乗ってくる。いきなりヒラが尋ねてきた。

市内RPG ③市役所

9時に子郡駅前集合。 家を出ようとすると 「こんなに早くから、バイト探し?」母が言った。 「まあ、そんなとこ。行ってきます」 ヒラはもう来ていた。 「説明会は市役所の第3会議室であるってよ。15歳以上ならいいらしい。」 「たくさん集まるのかな」 「さあね。まあ、行ってから決めればいいさ」 話していると、ヤスが来た。 「さて、行こうか」 子郡市役所は駅から歩いて10分のところにある。レンガ造りの3階建て。ぱっとしないただの四角い建物。エントランスは暗くて、心細くなる。案内

市内RPG ④魔王討伐説明会

「主な説明は私、尾林がいたします。企画の目的、活動、評価と報酬の順に説明します」尾林さんは話し始めた。 「まず、この企画の目的は、魔王を倒すことです。魔王は世界の破滅を目論んでいます。邪悪な魔物を従えて虎視眈々と世界を狙っているのです。しかも、魔王はどこにいるかわからない。丁寧な探索が必要です。魔王を見つけ、そして、魔王を倒すことがこの企画の目的なのです。」尾林さんは少し興奮気味に言った。 「次に、活動を説明します。先ほど述べた探索と戦闘と報告の3つがあります。探索は、魔

市内RPG ⑤勇者登録

池木下さんは青いファイルを開いて、登録用紙を取り出した。 「3人がパーティー?」 「そうです」ヒラが言った。 「名前、住所、連絡先、希望職業を書いてね。高校生?なら、保護者と連絡先もね」 「名前、住所、連絡先、、、希望職業?これ何ですか」ぼくが尋ねると、池木下さんは 「勇者、戦士、魔法使い、僧侶、盗賊、武闘家から選んでね。あ、パーティーに一人は勇者が必要だから、相談してね」と言った。 ヤスを見ると「戦士」を選んでいた。「ヤス、戦士なの?」「オレ、剣道部だから。やっぱ戦士でし

市内RPG ⑥勇者誕生?

次の日、郵送で通知が届いた。 封筒には3枚の書類と木の棒が入っていた。書類は、勇者登録通知書、活動と報告の手引き、保険加入のお願いだ。 勇者登録通知書は、あなたは今日から勇者ですと書いてあった。少し立派な紙に市長の名前と印鑑が押されてあった。 活動と報告の手引きには、バーコードがあってケータイで読み取るように書いてあった。読み取ると、すぐに登録確認画面にログインさせられ、本人を確認した後認証されたようだ。ケータイには勇者としての身分証明書が送信された。魔物を倒したら写メ

市内RPG ⑦火の呪文

「どーなの?魔法使える?」ぼくとヤスはヒラに尋ねた。ヒラは、魔法使いになったのだ。なったのかな、市役所に登録しただけで。 「いやー、やっぱり練習と登録がいるみたいでねー」ヒラが言った。 「どうゆうこと?」 「魔法はイメージと呪文と効果登録が必要らしいんだよ。ケータイがキー局になってる。例えば、火の魔法をイメージする。イメージはケータイを通して現実の効果がつくられる。つまり、目の前に火がつくられる。さらに、呪文によって発動する。火が魔物に向かって放たれるらしい。レベルアップの

市内RPG ⑧会心の攻撃

ぼくとヒラとヤスの3人は、同封されていた武器を持って集まった。 ぼくとヒラは木の棒。ヤスはプラスチック?なかなか硬そう。 この違いは何だろう。職業の違いか? ぼくは勇者。ヒラは魔法使い。ヤスは戦士。 ヒラは木の棒を振り回しながら言った。 「これはヒノキの棒だね。ヒノキボー。ほら、ホームページに書いてある」 そう言って、子郡市のホームページをケータイで見せてくれた。ホームページには、「ヒノキボー、初心者の武器」と書いていた。 「あった、ヤスのはバトルステッキ、これだ」

市内RPG ⑨スライム

戦士のヤスはバトルステッキを装備している。 魔法使いのヒラはアツッの魔法を身に付けている。 勇者のぼくはヒノキボー。勇者のはずなのに。何か頼りない。まあ、とりあえず、ケータイに登録して装備した。 ヤスが言った。 「装備したら、戦いたくなるな」 「スライムくらいなら、勝てるかも」 ヒラもやる気だ。 子郡駅前噴水広場にそいつはいた。 小犬くらいの大きさで、水色の半透明のボディは形を変えながら動いていた。目や口は見当たらない。ただ半透明のボディの奥に核と呼ばれるソフトボー