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ひとりごとの話

ひとりごとはすきだ。
それは口からひとりでに溢れ出して、空気の中へ溶けてゆく。
口から魂が抜けるように。冬の夜空に白い息が上っていくように。美しいものを見た時の嘆息のように。

私はよくひとりごとのことを鼻唄と表現するが、まさしくそうだと思う。誰にも伝わらず、伝えることを目的にせず、私が私のために吐いた言葉。無意識のうちに湧き出て、ぽろりぽろりと口を伝いながらやがて飽和していく。誰の見返りも求めず緩やかに消えていくその姿に、ほんのりとした喜びがある。

自分のためだけの言葉。うまくいかないときの舌打ちも、思わぬ発見に対する感嘆の声も、上機嫌な朝の鼻歌も、全て等しく私の心から溢れ出し、世界に溶けていくものだ。どれも私の心をゆるゆると満たしてくれる。
それは私にとってはどんな作家や詩人が書いた言葉よりも価値があると、そう信じている。

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